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袋詰めの給食と戦時モードのNY市長 休校1カ月超、初のリモート授業へ 新型コロナウイルス

南龍太記者
(写真:ロイター/アフロ)

 遂にと言うべきか、コロナウイルス感染拡大を受け、ニューヨーク市内の公立学校の休校が決まり、16日から始まった。

 ある程度予想してはいたものの、発表されたのは日曜の夕方。月曜朝に子どもを学校に送ってから出勤しようと考えていた保護者の間には、戸惑いの声が聞かれる。休校や品薄の店内、ブロードウェーミュージカルの休演、映画館の閉鎖やレストランの営業縮小など、地元米国人も移民も、長年ニューヨークに住む日本人も「初めて体験する」一大事が次々と起こる今回のコロナウイルス禍。

 影響はどこまで広がり、いつまで続くのか。

2週間で急増

 ニューヨークで初感染が確認された3月1日から2週間余り、感染者は増加の一途を辿る。16日午後3時現在、州全体で950人、うち市内で463人が陽性となっている。1日以降、平均して1日当たり州全体で60人弱、市内で30人弱、感染者が出ている計算となる。市内は15日から16日にかけて130人以上増えた。日本人の駐在員も多く住む州郊外のウエストチェスター郡はクラスター(感染集団)が発生し、220人と飛び抜けて多い。

 

戦時中の精神

 ニューヨーク市内の公立校の休校が決まったのは15日日曜の夕方、ビル・デブラシオ市長が会見した。

 併せて市内のレストランやカフェなどの外食はテイクアウトとデリバリーに限定し、通常営業ができなくなる施策や、映画館やコンサート場の閉鎖も相次いで打ち出した。

「戦時中の精神で応じなければ」(we must respond with a wartime mentality)

「戦時中と思って取り組まねば」(we need to treat this like wartime)

 

とツイッターで連投し、危機感をあらわにしていた。

休校初日

 ニューヨーク市内には1800もの公立学校があり、全米最大規模だ。影響を受ける児童や生徒は100万人を超える。

 休校で心配されることの1つは、毎日学校で提供されてきた給食。教育に加え、きちんと食事をとれる環境が学校にあることを頼りにしていた家庭は少なくない。その点、市は休校中も朝と昼の給食を学校で配り、持ち帰れる仕組み「grab and go」を用意した。

配られる給食
配られる給食

 試しに、子どもの通う学校に受け取りに行った。この日配られた昼食は、写真にあるチーズとハムの挟まったパンと牛乳、アップルソースだ。朝食用はクラッカーとシリアルとオレンジジュースだった。

学校で配られた「grab and go」の食事。朝食用と昼食用(右)
学校で配られた「grab and go」の食事。朝食用と昼食用(右)

 多くの家庭にとっての心配事は他にもある。日本と同様、休校で家にいる子どもがどう過ごすかという問題だ。

 休校が急きょ決まったこともあり、普段なら子どもたちが学校にいる時間帯に家に誰もいない保護者の場合、休校中は仕事を休むか、子どもを誰かに任すか、といった即決を迫られた。米国内の地域によっては、留守番など子どもを独りきりにすることを州法その他で禁じている場合もある。

ニューヨーク州の見解は、

子どもの発達程度,能力程度には差があるため,子どもをひとりにすることの年齢基準についての明白な回答はない。

出典:在ニューヨーク総領事館「外出時等における子どもの放置・安全保護に関するアドバイス」

 23日からはパソコンなどを使ったリモートによる授業が始まる。初めての試みで成否は不明だ。ネットの環境が整っていない家庭はどうするのだろう、といろいろ思案してしまう。

 日本では休校をやめて再開した学校もあるようだが、ニューヨーク市内は来月20日まで、1カ月以上休みとなる。もともと4月9~19日は春休みの予定だったとは言え、長い。クラスメートのニューヨーク出身のお母さんも「こんなの今までになかったわ」(It's unlike anything we have experienced before, ...)と驚いていた。国家の非常事態が宣言されるほどならば、むべなるかなという心境でもある。

予兆

 休校の予兆はあった。休校前、最後に登校した13日金曜日には、「学校が閉鎖された場合に備えて」として学校関係者からメールが届き、英語や算数の宿題が大量に出された。学校が休みになるのは時間の問題のように思われた。

休校に備えて出されていた宿題の一部。小1用
休校に備えて出されていた宿題の一部。小1用

 その金曜、子どものクラス30人ほどのうち約10人が休んでいたという。中にはコロナウイルス感染を避けるため、自主的に休ませた家庭も複数あったようだ。

品切れの一方で

 既に種々報じられている通り、ニューヨークでも米や肉といった食料品、日用品の在庫が底をつく店が続出している。

 コストコなど店内に入るまで長蛇の列ができるケースもある。先週行った際、トイレットペーパーは1人2パックまでとなっていた。近くのドラッグストアはすかすかの棚が目立ち、「売り切れ御免」の張り紙もあった。

売り切れを知らせる張り紙
売り切れを知らせる張り紙

 一方でここぞと営業攻勢を掛ける業界もある。レストランやファストフードの料理を宅配するフードデリバリーのサービスだ。大手のグラブハブやシームレスの「利用しませんか?」というフェイスブックでのクーポン付き広告が数日前から目立つようになった。

 実際に利用者が増えてきているのか、今度はその宅配を手掛けるドライバー募集の広告が入るようになった。

フェイスブックのグラブハブの広告。右はドライバーを募集する内容
フェイスブックのグラブハブの広告。右はドライバーを募集する内容

* * * * *

 学校の休校はひとまず来月20日まで続く見通し。その間、さらにいろいろなことが起こるだろう。

 ニューヨーク市長はツイートで

 「この危機は数カ月続き、悪化していく、それから良くなる」(This crisis will last months and it will get worse before it gets better. )

 「でも良くなる」(But it will get better. )

 今年のニューヨーク市は例年に比べて暖かい冬で、ほとんど雪も降らなかった。公園では、先週まで枯れ枝だった木々がきれいなピンク色の花をつけていた。気付けば3月も半分が過ぎていた。

 1カ月後、状況が少しでも改善に向かっていると信じたい。

画像

(画像はいずれも筆者撮影)

記者

執筆テーマはAI・ICT、5G-6G(7G & beyond)、移民・外国人、エネルギー。 未来を探究する学問"未来学"(Futures Studies)の国際NGO世界未来学連盟(WFSF)日本支部創設、現在電気通信大学大学院情報理工学研究科で2050年以降の世界について研究。東京外国語大学ペルシア語学科卒、元共同通信記者。 主著『生成AIの常識』(ソシム)、『エネルギー業界大研究』、『電子部品業界大研究』、『AI・5G・IC業界大研究』(産学社)、訳書『Futures Thinking Playbook』。新潟出身。ryuta373rm[at]yahoo.co.jp

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