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アセンション島・モーリタニアなど国際ワン切り詐欺の手口

三上洋ITジャーナリスト

11月20日から21日にかけて「アセンション島」と表示される国際電話が多くの人にかかってきた。これは「国際ワン切り詐欺」と呼ばれるもので、折返しの電話をさせることで国際電話料金の一部を得る詐欺行為だと思われる。

2019年11月にアセンション島「+247」。9月には台風の日にモーリタニア「+222」から

海外からの謎のワン切りが続いている。11月21日前後には「+247」のアセンション島(アフリカ西海岸の孤島)からのワン切りが携帯電話に多くかかってきた。筆者のマネージャーにも21日の11時過ぎに電話がかかってきている。

アセンション島からのワン切り。筆者のマネージャーに11月21日11時にかかってきたもの
アセンション島からのワン切り。筆者のマネージャーに11月21日11時にかかってきたもの

Yahoo!リアルタイム検索でTwitterの被害報告を見ると、11月20日から被害報告があり、21日の昼前後には1時間で800件弱の書き込みがあった(アセンション島からの着信についてなので被害件数とイコールではないので注意)。それに合わせて西日本新聞やテレビ朝日などが注意喚起の記事も出している。

「アセンション島」からの不審な着信相次ぐ 「国際ちりつも詐欺」か(西日本新聞)

捕まった例がない?「国際ワン切り詐欺」に注意(テレビ朝日)

この被害について携帯電話会社は「事象は把握している(NTTドコモ広報)」「アセンション島からの着信が来ていることを確認している(ソフトバンク広報))」として注意喚起を行う予定だ。

繰り返し発生する国際ワン切り詐欺。日本語のアナウンスも

この国際電話のワン切り詐欺は過去に何度も発生している。たとえば2019年9月9日の台風の日には、モーリタニア(+222)から日本の携帯電話にワン切りがかかってきている。この時は折り返すと日本語の音声が流れたそうだ。

台風15号のさなか、アフリカのモーリタニアから謎の国際電話 「国際ワン切り詐欺」の手口とは?

このワン切りに反応し、折返しの電話をかけてしまった被害者に聞いたところ「あなたの家族と友人が待っています。会話したければこのまま待機してください」と日本語の音声が流れたとのことだ。待機させて通話時間を長くさせようとしている。災害に乗じた悪質な手口と言えるだろう。

2017年にもパプア・ニューギニア(+657)からの国際ワンギリ詐欺が多数発生しており、各携帯電話会社が注意喚起を出したほか、テレビ・新聞も大きく報道した。遡ると2007年頃から被害報告があり、ガイアナ・中央アフリカ・ギニアなどアフリカやアジアの新興国からの着信が多くなっている。

現地国際電話会社と詐欺グループがキックバック契約か?

この詐欺では日本国内での逮捕例はないと思われ、詳細な手口は判明していない。しかし国際電話ビジネスに詳しい関係者に聞いたところ「詐欺グループが現地の国際電話会社と結託・契約して接続料の一部をキックバックしてもらっているのではないか」とのこと。手口の想像図をまとめたのが下の図だ。

アセンション島からの国際ワン切り詐欺
アセンション島からの国際ワン切り詐欺

被害者にワン切りがかかってきて、その番号に折り返したとする。国際電話料金はいったん日本の携帯電話会社に入るが、その一部は接続料として現地(この場合はアセンション島)の国際電話電話会社に入る。

この国際電話会社もしくは現地の国内電話会社が、詐欺グループと契約しており「接続料の一部をキックバックとして詐欺グループに渡す」というしくみなのではないかという推測だ。

前述の国際電話ビジネスに詳しい関係者によると「このしくみを仲介しているブローカーがいる。国際電話料金は新興国ほど高く設定されており、地域によって価格差がある。この価格差を利用して情報料を得ようとするしくみが以前からあった。現地の国際電話会社などと詐欺グループが結託していると思われる」と話している。

これが本当かどうかはわからないが、詐欺グループが収入を得るにはこの方法しか考えられないため信じていいのではないか。前述の関係者によれば「元はイギリス植民地で独立した新興国が多い」とのことで、現地の電話会社自体に不正なしくみを許す余地があるのかもしれない。

このしくみでは詐欺グループが得られる収入は多くても数十円程度だ。わずかな金額ではあるが、詐欺グループは電話を大量にかけて自動音声を流すシステムを構築していると思われる。無人で動かせるものなので、1回数十円であってもチャリンチャリンと積もって儲けられるというしくみだろう。

こちらの電話番号をなぜ知っているかだが、筆者は総当り方式ではないかと想像している。日本の携帯電話に割り当てられている番号に総当りでかけているのではないだろうか。

海外からの着信には折り返さない・着信拒否する

筆者が調査したところ、今回のアセンション島からのワン切りについては、折り返しても「プププ」となって電話がかからない、もしくは無音になってしまっている(取材のためにかけているもので実際には折り返してはいけない)。携帯電話会社に聞いたところ「制限はかけていない(ソフトバンク広報)」とのことなので犯人側の設定ミスかトラブルでシステムが動作していない可能性がある。

国際ワン切り詐欺の対策としては折返さないことに尽きる。折り返してしまうと国際電話料金がかかるだけでなく「折り返してくる詐欺のカモ」だと認識され、繰り返し国際ワン切りが来てしまう。絶対に折り返さず、怖い場合は着信拒否に設定しよう。

ITジャーナリスト

セキュリティ・ネット事件・スマートフォン料金を専門とするITジャーナリスト。テレビ・ラジオ・雑誌などでの一般向け解説多数。読売オンライン「サイバー護身術」、アスキー「5分でわかる時事セキュリティ」などを連載。文教大学情報学部非常勤講師

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