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奥田瑛二も新会場に感慨…新たなスタートをきった湯布院映画祭で上西雄大監督『西成ゴローの四億円』上映!

壬生智裕映画ライター
左から>上西監督、奥田瑛二、徳竹未夏、古川藍(筆者撮影)

 そのはじまりは1976年と、現存している映画祭の中ではもっとも古い歴史を持つ「第46回湯布院映画祭」が11月20日、21日に大分県由布市の、ゆふいんラックホールで行われた。(本文中の敬称略)

 例年8月に開催されてきた湯布院映画祭だが、今年は昨年同様、11月に時期をずらして実施された。当初は女優の原田美枝子特集が予定されていたが、その特集は来年に延期されることに。その結果、今年は短編を含む10本の映画が上映されることとなった。

会場内の様子(筆者撮影)
会場内の様子(筆者撮影)

 昨年までの会場として使用されてきた湯布院公民館は老朽化のために閉館となり、今年からは道路を挟んだななめ向かいに新たにできた地域複合施設「ゆふいんラックホール」が会場に。通常230席収容のところを半分にし、そしてゲストと参加者が交流する場として親しまれてきたパーティを中止にするなど、感染対策を万全にして行われた。

 初日の夜には、監督・脚本・主演を務めた『ひとくず』の上西雄大最新作『西成ゴローの四億円』を上映。ここからは上西監督と徳竹未夏、古川藍、奥田瑛二らが参加した、同作の舞台あいさつ、およびシンポジウムの様子をリポートする。

2021年11月9日よりTOHOシネマズ シャンテにて先行上映中2022年全国順次ロードショー配給:吉本興業、チームオクヤマ、シネメディア (C)上西雄大(配給提供) 
2021年11月9日よりTOHOシネマズ シャンテにて先行上映中2022年全国順次ロードショー配給:吉本興業、チームオクヤマ、シネメディア (C)上西雄大(配給提供) 

映画『西成ゴローの四億円』

出演:上西雄大、津田寛治、山崎真実、波岡一喜、徳竹未夏、古川藍、奥田瑛二

監督・脚本:上西雄大

製作総指揮:奥山和由

企画・製作:10ANTS

配給:吉本興業、チームオクヤマ、シネメディア

あらすじ:大阪の西成に住む、日雇い労働者・土師晤郎。腕っぷしが強くて皆から頼られる反面、殺人罪で服役していた過去から「人殺しのゴロー」という異名を持っていた。断片的に記憶を失った彼だが、元政府諜報機関の工作員だったこと、妻と娘がいたことなど記憶を少しずつ取り戻していく。ある時、家族の現状を知ったゴローは、固く決意する。「心臓移植が必要な難病を患う一人娘のために、どんなことをしてでも四億円を稼いでみせる」と――。

2021年11月9日よりTOHOシネマズ シャンテにて先行上映中

2022年全国順次ロードショー

公式サイトより

 本作の製作総指揮を務めた奥山和由プロデューサーは「映画界には『竜二』という伝説がある。その映画の金子正次が上西さんに重なって見えてしまうのだ」と評している。

 ちなみに昨年の湯布院映画祭では『ひとくず』が上映され、観客から絶賛の声。その声に感激した上西監督がボロ泣きしたことも語り草となったが、そんなエピソードが、やはり湯布院映画祭で絶賛されたことがきっかけとなり、やがて伝説となった金子正次の『竜二』にも重なってくる。

 それゆえ、上西監督も「去年、『ひとくず』とともにここを訪れたことが、僕の心に一生残る思い出。また今年もここに来られたことが心からの喜びです」と感激の表情を見せる。

舞台あいさつの様子(筆者撮影)
舞台あいさつの様子(筆者撮影)

 そして本映画祭には数え切れないほど参加しているという奥田も「パンフレットを見て、何回参加したんだろうと数えてみましたが、おそらく最多出演じゃないかなと。それだけいい作品に恵まれた。湯布院映画祭というのは、そういうのはシビアで。俳優連中も、湯布院に行けば出世するというジンクスがありますんで、第5回から今日に至るまで参加しております。途中、喧嘩をしてこなくなった時期がありましたが、途中で来ざるを得ないことがあって。それは娘たちが出世しやがったんです。わたしは娘の映画をプロデュースしていたこともあり、それで嫌々来たんですが、それでここで昔を思い出し、楽しく語り合い、仲直りしました」と述懐。

 また新しくなった会場を見て「今日はビックリしました。こんな素敵な場所に立てるというのは。映画というのは環境が良くなれば、映画ももっと良くなるということで。これから映画祭が新たな出発をするというのをとても楽しみにしております」と祝福のコメントを寄せるひと幕も。

 映画上映後には観客とゲストが意見を交わし合う、映画祭恒例のシンポジウムを実施。まずは本作に奥田が出演することになった経緯について。上西監督は「奥田さんに『ひとくず』を観ていただいたことでご縁をいただいたんです。実は(『ひとくず』が映画祭で上映される)前日に奥田さんが映画祭にお越しになっていて。『ひとくず』のポスターにサインをしてから、帰っていかれたんです。僕は去年、(辛口の批評が飛び交うこともあるということで)ビビりながら湯布院に来たんですが、入り口に奥田さんのサインが入った『ひとくず』のポスターを見つけて。それを見た瞬間に目頭が熱くなりました。そのポスターは今も、リビングに大事に飾っています」。

数々の出会いを生み出した旧会場・湯布院公民館は老朽化のため閉館となった(筆者撮影)
数々の出会いを生み出した旧会場・湯布院公民館は老朽化のため閉館となった(筆者撮影)

 まさに奥田とは、湯布院映画祭を通じてつながった縁だった。「今、その話を聞いてしまったら、”これは断りたいなという作品”にも出なきゃいけなくなっちゃいますね」と奥田は軽口をたたきつつも、「それが上西組に奥田あり、ということならば、映画人としてすごくしあわせなこと。熊井啓組に奥田ありとか、黒澤組に三船敏郎ありとか、映画というのは名匠がちゃんと組を持って。映画を一緒に作っていくというのが伝統みたいなところはありますから。そうやってお互いをよく知り、高め合いながら良い作品にするということだと思うんで。どんな低予算でも、ビッグバジェットでも、出ますよということですね」とさらなるタッグを予感させるコメントも。

シンポジウムの上西監督(筆者撮影)
シンポジウムの上西監督(筆者撮影)

 本作は2部構成となっており、この日上映されたのは前編のみ。「死闘篇(後篇)」もすでに完成しており、「どうして今日は前編だけしか上映しないのか。後編も一緒に上映すべき」といった観客の声も。それには上西監督も「今から後編を上映しましょう! 124分ありますけど」と実行委員にリクエストし、会場は大笑い。「前編を見たら絶対に後編も観たくなるはず。後編の『死闘編』は、前編の10倍面白いです。前編は誕生の話ですから、はじまりを見せているんですが、死闘編からはいよいよ西成ゴローが動き出しますので。ぜひ劇場で観てください」と呼びかける。

 上西監督はこの「西成ゴロー」をシリーズ化したいという展望を抱いているという。「もともとはシリーズで続けていくということを念頭に、取りあえずこの1作目を作ったんです。あとはVシネのシリーズで続けようかと思っていました。でも昔の映画って毎年のようにシリーズの続編が上映されていたじゃないですか。僕らが子どもの頃はそういうのを楽しみにしていたんですけど、今はそういう映画はないですよね。この映画も僕らが子どもの頃にスクリーンで観た映画のようにしたいと、そういう思いで作っているので。今日は奥田さんが、僕の映画にずっと出てくれると言っていただいたんで。シリーズを大事に作っていきたいと思います」と決意を語るひと幕もあった。

映画ライター

福岡県生まれ、東京育ちの映画ライター。映像制作会社で映画、Vシネマ、CMなどの撮影現場に従事したのち、フリーランスの映画ライターに転向。コロナ前は年間数百本以上のイベント、インタビュー取材などに駆け回る毎日で、特に国内映画祭、映画館などに力を入れていた。2018年には、プロデューサーとして参加したドキュメンタリー映画『琉球シネマパラダイス』(長谷川亮監督)が第71回カンヌ国際映画祭をはじめ、国内外の映画祭で上映された。近年の仕事として、「第44回ぴあフィルムフェスティバル2022カタログ」『君は放課後インソムニア』のパンフレットなど。

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