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【インディーズの現場】中学生から大人までの10年間を”フィルムで””10年かけて”撮影する映画始動!

壬生智裕映画ライター
塚田万理奈監督の長編第2作『刻』(harakiri films提供)

新人監督の登竜門と言われる第10回田辺・弁慶映画祭(2016年)でグランプリを獲得した初長編映画『空(カラ)の味』の新鋭、塚田万理奈監督が現在、長編2作目となる『刻』の企画に取り組んでいる。

『空(カラ)の味』予告編2016 | 125 分

第10回 田辺・弁慶映画祭弁慶 グランプリ・女優賞・市民賞・映検審査員賞

撮影の中心となるのは塚田監督の故郷となる長野県。実際に長野に住む中学生たちの成長を10年かけて追いかけ、撮影を行うという。どんなに時がたっても変わらず「なまもの」であり続けるフォーマットがフィルムであるという思いから、撮影は16mmフィルムで行われる。なお、今回、資金の一部はクラウドファンディングを募るとのこと。こちらのページに作品の詳細が記されているため、詳しくはこちらまで。

あらすじは以下の通りとなる。

中学二年生の春、小春は所属する陸上部の仲良し二人組の男の子と、いつも一緒にふざけては遊んでいた。小春の家族には、音楽に没頭する憧れの姉や、不登校気味の従兄弟、その従兄弟に頭を悩ます叔母がいる。受験期になり、それぞれの関係性が少しずつ変化する中、小春は中学を卒業する。

高校生になり、成長していく中で違う道を進み出す小春の仲間たちの人生。大人になり、小春は中学時代の友人と再会する。生死すらも超えていくその時間の中、ただ傍観者だった小春の、それでも忘れなかった時間。

人生の美しさを見つめた、誰もが持っている記憶のような、約10年間の人々のお話。

今回は、そんな10年がかりのプロジェクトを起ちあげた塚田万理奈監督に話を聞いた。

『刻』メインビジュアル(harakiri films提供)
『刻』メインビジュアル(harakiri films提供)

――2017年の『空(カラ)の味』の公開から3年。今回の新作の企画が始動した経緯はどのようなものだったのでしょうか?

塚田監督:『空(カラ)の味』が劇場で上映された時に、中学校の同級生から声をかけられたんです。その子とは、とある出来事があってから、10年ぐらい会えなくなった時期があったんですけど、その10年間、その子のことを忘れることがなかったんで、会えた時は感動して号泣してしまって。その後、連絡先を交換して、飲みに行ったんですけど、そこで10年間、何が起こったのか、いろいろと話してくれたんです。その時の内容は映画に関わることなので、ここでは詳しく話せないんですが、とにかくその子が10年間、生きていて良かった、どんなことがあっても、これからも生きていて欲しいなと思ったんですよ。でも口では、あまりうまく言えなくて。わたしは『空(カラ)の味』の時もそうだったんですけど、その人に言いたいことを、映画を通じて見せることが一番説得力があると思っているんです。

――とすると、『刻』は、その友だちのことが中心のモチーフとなるのでしょうか?

塚田監督:わたしの友だちをきっかけに、わたしの家族や親戚の10年間も振り返ってみたんですが、本当にいろいろなことが起きたなと思って。そうすると、みんなの10年間のことを全部残しておかないと一生後悔するだろうなと思ったんです。だから群像劇という形になります。

――今回は10年かけて撮影が行われるそうですが。

塚田監督:子どもたちが大人になるまでの10年間を撮りたいなと思っています。ただ、わたしは映画の中で時代を超える時に、ひとつの役を、子どもの役者さん、大人の役者さんと分けるのが、なんだか好きではなくて。もちろん大人の役と、子どもの役がぴったりハマっていることもたくさんありますし、2人の役者さんがやってくれて良かったな、と思う瞬間もたくさんあるんですけど、わたしは極力、本物にこだわって撮りたいなと思っていて。基本的に1人の人生は1人のものだし、1人の人に任せたい。だったら10年かけて、子どもたちが大きくなるまで、少しずつ撮ろう。無謀なチャレンジだけど、やりたいことは妥協できないと思いました。

『満月』より(harakiri films提供)
『満月』より(harakiri films提供)

――『刻』のパイロット版として、『満月』という新作短編が製作されたそうですが。これはどういった経緯で?

塚田監督:プロデューサーの今井さんがVIPOに助成金を申請した時に、パイロット版のフィルムを提出してくださいと言われたことがひとつ。それからおととしに、子どもたちを集めるために、地元の長野で映像を作るワークショップをやったんです。そこに集まった子たちに「一緒に映画を作らない?」と声をかけたんですけど、子どもたちに、映画っていうのはこういう風に作るんだよ、ということを具体的に見せられたらいいなと思って。あの子たちと1本、短編を撮りたいなと思っていたところだったので、ちょうどいいなと思ったんです。

――パイロット版は、本編とは内容が違ってくるんですか?

塚田監督:そうです。10年間の話ではなく、1日か2日くらいの、中学生の日常の話になります。これは『刻』とは全然違うし、キャラクターも一緒ではないんですが、出てくる子たちはけっこう一緒。中学生の彼らに『刻』はこうやって作られるんだよ、ということを見せられたらと思いました。

――撮影は10年ということですが、スケジュールはどのように考えていますか?

塚田監督:脚本としては3時間くらいの作品になる予定で。撮影は10年間で行いますが、例えば中学生編では、春に2日、夏に2日、冬に2日といった具合で撮影して。高校生編では高校1年生の部分を春に2日、夏に2日、冬に2日といった具合で撮影します。大学生編はおそらくワンシーンくらいしかないと思うので、撮らない年もあるんですが、大人になってからはおそらく一気に撮影できると思います。撮影スケジュールとしては、ここまでで10年かかる計算になります。

――わりとコツコツと撮りためていくという感じですね。

塚田監督:そうですね。やはり学校もあるし、受験もあるから。春は金土日の中から2日間だけとか、ちょっとずつ撮っていけたらいいなと。そうすれば、あの子たちの成長もそんなに止めないでいられる気がするかなと。彼らの負担になったり、人生の邪魔になったりしないようにしたいと思っています。

撮影風景(harakiri films提供)
撮影風景(harakiri films提供)

――中学生というと、思春期で、難しい年頃だったりはしませんか?

塚田監督:最初からやる気がある子もいるし、わたしがやろうよと誘ってみて、腰が重いけどやってみよう、というような子もいます。高校生ぐらいになったら「万理奈さんだるいっす」みたいになるかもな、という男の子も女の子もいます。本当にバラバラなんですけど、あの子たちが辞めたくなったり、気持ちが変わっていったりしたら、それはそれでその子の人生だから。そのたびに脚本を直したりしてもいいかなと思っています。きっとそれが一番、本物っぽくなる気がするので。

――それぞれにモデルとなっているキャラクターがいるということですよね。

塚田監督:そうですね。一応、自分の人生でモデルになっているキャラクターがいて。脚本が最初から最後まであるので、そのキャラクターと近い部分があるなという子たちにその役を任せたいと思っています。その役のことや、わたしの思い出を話して、分かる子もいれば、ちょっと分からないとかいう子もいるけど、そういうことを一緒にやっていきたいと思っているので。極力あの子たちに、最後までこの人生を見届けて欲しいなと思っていますけど、先のことは分からないですからね。

――新型コロナが撮影に影響していることはありますか?

塚田監督:本当は昨年の春から撮り始めようと思っていたんですが、撮影は1年延期しました。撮影は春からしかできないので、春が駄目なら翌年の春に延期しようと。でもこの1年間、長野に帰ることができていないため、子どもたちにもしばらく会えていないんですが。でもあの子たちと電話やメールではやり取りを続けていて。でも、電話していても「この子、こんなこと言う子だったっけ」「そんなことを考えていたんだ」とか、毎回ものすごく感動しているから。彼らの成長は止まらないので、本当にコロナが悔しいですね。

――コミュニケーションを重要にしているということですね。

塚田監督:彼らのことが好きになっちゃったんですよね。おととしに短編を撮った時も、みんな初めは緊張しすぎて、カチコチになって。泣いちゃうこともあったんですけど、現場でみんなとしゃべりながら、ちょっとずつ撮り出したんです。全部が本当に面白かったです。

――子どもたちは演技初体験の子たちを集めたと思うのですが、大人のキャストはどのようになるのでしょうか?

塚田監督:やはり子どもたちが素人なので、おそらく子どもたちを相手にするだけでいっぱいいっぱいになってしまうと思うんです。ですから大人の役者さんたちは、ちゃんとお芝居のできる方にお願いしたいなと思っています。

中学生から大人になるまでの10年間を撮影する(harakiri films提供)
中学生から大人になるまでの10年間を撮影する(harakiri films提供)

――今回、製作資金の一部を捻出するため、クラウドファンディングが行われています。

塚田監督:わたしは「お金のために作品は売らない」と思っているところが強かったので。今思うと、そういうわけじゃないんだなと思いますけど、昔から警戒心がむき出しで、お金の話は嫌だ嫌だ、クラウドファンディングなんかやりたくないと言い続けてきたんです。でもプロデューサーの今井さんからは「お金を集めましょう。そうでないとあなたのやりたいことは全部できない。だったらいろいろなことをやって味方を見つけていくしかないでしょ」と言われ。ずいぶん長い時間をかけて説得をされまして。確かにそうだなと思い、やってみようと思いました。

――プロデューサーに、『見栄を張る』の今井太郎さんが参加されていますが、一緒に組もうと思った経緯は?

塚田監督:わたしは今までプロデューサーさんと組んだことがなかったんですけど、10年間この企画に関わるにあたって、子どもたちをはじめ、みんなと付き合っていくのに1人だと、メンタル的にも、資金的にもパンクしそうだなと思って。それからわたしは『空(カラ)の味』以外は全部フィルムでやってきた人間なので、フィルムが好きなんです。フィルムはなんだかホッとするというか。生き物がデジタル化せずに記録されているという感覚があって。できるならすべての作品をフィルムで撮りたいくらいなんですが、この映画は、自分の最後の1本になったとしても撮りたいと思う作品なので。せめてフィルムで撮りたいと思ったんですが、お金がすごいことになるなと思って。それをどうしようかと思った時に、せめて相談だけでも乗ってくれる方がいたらいいなと思って。そこで今井さんにプロデューサーをお願いしたということです。今井さんは厳しくて。だからたまにすごいケンカになったり、ムカつく瞬間もいっぱいあるんですけど、でも常に作品作りを諦めないでいてくれるので、本当に感謝しています。

――では最後に意気込みをお願いします。

塚田監督:脚本にも自信がありますし、10年後、とんでもない作品を見せられるんじゃないかと思っています。だからこそこの10年、妥協しないで作りたいですし、作品に不誠実なことをしたくない。これをやらなければ死ねないなというような気持ちで作ろうと思っています。

撮影現場での塚田監督(harakiri films提供)
撮影現場での塚田監督(harakiri films提供)

監督・脚本 塚田万理奈

1991年長野市出身。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。卒業制作『還るばしょ』が、第36回ぴあフィルムフェスティバル(PFF)入選、第8回田辺・弁慶映画祭文化通信社賞受賞、第12回うえだ城下町映画祭自主制作映画コンテスト審査委員賞受賞、第9回福井映画祭入選。初の長編映画となった『空(カラ)の味』が第10回田辺・弁慶映画祭で弁慶グランプリ・女優賞・市民賞・映検審査員賞と史上初の4冠に輝き、東京テアトル新宿、長野松竹相生座ロキシー始め、全国公開を果たす。

還るばしょ

2014 | 36 分

第36回 ぴあフィルムフェスティバル(PFF) 入選

第8回 田辺・弁慶映画祭 文化通信社賞受賞

第12回 うえだ城下町映画祭 自主制作映画コンテスト 審査委員賞受賞

第9回 福井映画祭 入選

『刻』のこれまでの歩み

2018年11月:ベルリン映画祭との提携ワークショップ Talents Tokyo 2018 参加

ここで初めて企画が発表される

2019年3~4月:キャスティングを兼ねて、長野で小・中学生を対象に映像制作ワークショップ開催

2019年4月:企画開発費として「コンテンツグローバル需要創出等促進事業費補助金」交付決定

2019年7~8月:長野で映像制作ワークショップ第2弾開催

2019年9~11月:補助金を活用してパイロット版短編映画『満月』制作

2020年3月:コロナで撮影開始を1年延期

2020年10月:『満月』が Spain Moving Images Festivalで最優秀アジア短編賞を受賞

2020年11月:Torino Short Film Market の Oltrecorto 部門で『刻』の企画を海外のバイヤーに向けてプレゼン

第15回 Jogja-NETPAC Asian Film Festival にて『満月』上映

作品およびクラウドファンディングの詳細はこちら

映画ライター

福岡県生まれ、東京育ちの映画ライター。映像制作会社で映画、Vシネマ、CMなどの撮影現場に従事したのち、フリーランスの映画ライターに転向。コロナ前は年間数百本以上のイベント、インタビュー取材などに駆け回る毎日で、特に国内映画祭、映画館などに力を入れていた。2018年には、プロデューサーとして参加したドキュメンタリー映画『琉球シネマパラダイス』(長谷川亮監督)が第71回カンヌ国際映画祭をはじめ、国内外の映画祭で上映された。近年の仕事として、「第44回ぴあフィルムフェスティバル2022カタログ」『君は放課後インソムニア』のパンフレットなど。

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