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一度聴いたら忘れられない洗脳ソング!?「ちば映画祭」のテーマ曲をキミはもう聴いたか?

壬生智裕映画ライター
動画のキャプチャ画像

■一度耳にしたら、なんだか頭から離れない!

 一度耳にしたが最後、なんだか頭から離れなくて、知らず知らずのうちに鼻歌を口ずさんでいるような中毒性の高い楽曲というものがある。個人的にはスーパーで流れていた「おさかな天国」や、ディスカウントストア、ドン・キホーテの「ミラクル・ショッピング」などはそんな曲のひとつではないかと思っているのだが、そんな作品群の中に、一部映画ファン・映画関係者を虜にし、「洗脳ソング」と評された知る人ぞ知る楽曲がある。

花くまゆうさく氏によるイラストもインパクトがある(映画祭提供)
花くまゆうさく氏によるイラストもインパクトがある(映画祭提供)

 「ちば映画祭のテーマ~初期衝動~」というタイトルを持つこの楽曲は、映画祭会場で繰り返し流され続け、やがてそれを聴いているうちにハマッてしまう人が続出。とある映画関係者が集まる新年会でもここ数年、このテーマ曲が流されているそうで、そこではみんなの頬がゆるみ、思わず肩を揺らすのだとか――。論より証拠、YouTubeで2019年版の最新バージョンがアップされているので聴いてみてもらいたい。

【2019年版YouTube】

監督:大河原恵

出演:福永朱梨、笠島智、木村知貴、朝間優ほか

 歌詞がなかなか味わい深く、かつこの映画祭の本質をズバリと言い当てているので、こちらに引用してみよう。(掲載許諾済み)。

「ちば映画祭のテーマ~初期衝動~」

作詞/作曲:ユキミ

演奏:ジャパニーズ・ナード

ちょいとアンダーグラウンド だけど映画が何よりも好き

地味めな地方都市だって 最高にポップなのさ

僕らの好きな映画を 一緒に見てほしい

お金とかそうゆうんじゃなく 純粋な気持ち

ちばちば映画祭 ピーナッツ県からお届けします

ちばちば映画祭 初期衝動 忘れない

ここはホームグラウンド だけど味方は割と少ない

あのコと手を繋ぎたい 伸ばした手を引っ込めた

だから好きな映画を 1人で見るのさ

キャピタリズムをぶっとばす 上映が始まる

ちばちば映画祭 ピーナッツ県からお届けします

ちばちば映画祭 初期衝動 忘れない

自分に嘘はつきたくない まわるフィルムの中で

世界どこまでも広がる ブザーが鳴り響く

ちばちば映画祭 ピーナッツ県からお届けします

ちばちば映画祭 初期衝動

ちばちば映画祭 ピーナッツ県からお届けします

ちばちば映画祭 初期衝動 忘れない

 作詞作曲は映画祭スタッフのユキミさん。2019年版のMVを監督したのは第9回映画祭で特集上映を行った大河原恵監督。主演は、第10回映画祭上映作品となる『恋はストーク』(亀山睦実監督)や『彼女はひとり』(中川奈月監督)などに主演する女優の福永朱梨さん。すごい映画を観終わった時のような、人生を変えるような音楽を聴いた時のような、ビビビッと雷に打たれたような、思わず「チキショー」と言いたくなるような、なんだか泣けちゃうような、そんな青い感情を思い起こさせるようなギターポップチューンとなっている。

■この曲が生まれた背景

 この曲が生まれたのは2013年1月に開催された第5回映画祭から。そのきっかけについて、ちば映画祭実行委員会の鶴岡明史氏は「お金がない中、どうやって映画祭をいろいろな人に周知してもらおうかと話し合っていた時に、バンドをやっていたユキミちゃんが曲を作れますよと言ってくれたんです。それで周知されるかどうかは分からなかったんですが、映画祭のテーマソングって面白いなと思って。それでデモを作ってもらったんですけど、それがとても良かったんですね。そこで親交があった山田篤宏監督がMVを撮ってくれることになったんです。主演は前年の映画祭で上映した井土紀州監督の『犀の角』という映画に出ていた富岡英里子さん。音楽は地元のスタジオで録音して、バンドは即席。曲に関してのリクエストは特になかったですけど、当時の代表がひとつだけお願いしたのが『童貞っぽい曲にしてくれ』ということでした」。

【オリジナルバージョン】

監督:やまだあつ☆ひろ

出演:富岡英里子ほか

 「MVを撮った時、ケーブルテレビ局に持っていったら珍しがられて、結構流してくれたんですよ」と笑う鶴岡氏は、「他の映画祭にいくと、休憩時間のロビーがけっこう静かで。それが気になっていたんです。だからせめて僕らだけは賑やかにしようと思って、うるさいくらいに流していました。さすがに最近はうるさいなと思うようになってきたけど(笑)。でも当時は映画祭を覚えて帰ってもらおうとして流しまくってました。このテーマソングが流れるとテンションが上がるなと思って」と述懐する。

【2015version】

監督:村松正浩

出演:廣田朋菜、阿久沢麗加、Velma、今村左悶ほか

■くじけそうな時はこの曲を聴く

 観客からも「洗脳ソング」「耳から離れない」といった反応があったという。「こちらとしては狙ったわけではなく、半分思いつきで作ったものなのに。今となってはこんなに重宝するとは。でも今になって聴き返すと意外にも、当時からユキミちゃんは芯をついた歌詞を書いていたんだなと思います。僕らが東京の映画祭と同じことをやってもしょうがない。千葉なら千葉なりの見せ方もあるだろうと。お金がないことを好転させるには手作りで戦うしかない。僕も映画祭を続けていく上でくじけそうになることが多いんですけど、そんな時はこの歌を聴いているんです」(鶴岡氏)。

【2016ver. ほりはるmeetsちばピナ】

監督:村松正浩

出演:堀春菜、廣田朋菜、阿久沢麗加、Velma、今村左悶ほか

 そしてその後も回数を重ねるごとに、いろいろな監督がMVを担当してきた。そしてその監督はほぼ、映画祭の打ち上げの場で決まるという。自分の作品を上映してくれた映画祭に対する感謝の気持ちもあるようだ。「こちらからお願いしたわけではないんですが、皆さんが好意で撮ると言ってくれる。ちば映画祭を応援しよう、盛り上げようという気持ちがうれしいですよね」(鶴岡氏)。

【2017version】

監督:杉田協士

出演:北村美岬、伊東茄那ほか

■では今年の映画祭は?

3月30日、31日に分けて開催される清原惟監督の特集上映は、「わたしたちの家」のほか、数々の貴重な短編も上映(映画祭提供)
3月30日、31日に分けて開催される清原惟監督の特集上映は、「わたしたちの家」のほか、数々の貴重な短編も上映(映画祭提供)

 「第10回」という記念すべき年となる今年のちば映画祭は、3月29日から31日にかけて千葉・千葉市生涯学習センターで開催される。今年は、ベルリン国際映画祭フォーラム部門に出品された『わたしたちの家』の清原惟監督の、ほぼ上映機会のない短編映画も含めた特集上映。そして2007年12月のクランクインから9年、幾多の困難を乗り越え、2017年に完成させたはずなのに、今でも編集をやり続けているという杉作J太郎監督の『チョコレートデリンジャー』など、数々のインディーズ作品が上映される(その他の上映作品は公式HPにて)。映画祭のラインナップについて鶴岡氏は「このまま埋もれていってほしくないなと思うような作品を選んでいます」と自負する。

『チョコレート・デリンジャー』は3月29日(金)の前夜祭で上映。(c)吾妻ひでお・男の墓場プロダクション(映画祭提供)
『チョコレート・デリンジャー』は3月29日(金)の前夜祭で上映。(c)吾妻ひでお・男の墓場プロダクション(映画祭提供)

■映画愛に満ちあふれたピーナッツ県の映画祭

 これまでのちば映画祭では、『ディストラクション・ベイビーズ』の真利子哲也監督や『溺れるナイフ』の山戸結希監督、『チワワちゃん』の二宮健監督、『真っ赤な星』の井樫彩監督、『ひかりの歌』の杉田協士監督ら、現在、第一線で活躍する監督たちの作品をいち早く紹介してきた。しかし鶴岡氏はそれを誇ることなく、「うちの映画祭は箸休めでいいんです」とキッパリ言い切る。そんなゆるさも、ちば映画祭の魅力のひとつである。

 デジタル機器の発達で自主制作の映画監督は次から次へと誕生している。日本の文化を豊かにするためには、“映画を作る”新たな才能の発掘ももちろん大切だが、それと同時に“映画を上映する場”、“映画を上映する人たちの力”も大切である。ちば映画祭のプログラムは、映画祭スタッフが各地の映画祭に足繁く通い、選りすぐった作品ばかりだ。それだけにちば映画祭は映画愛に満ちあふれている。まずはMVを通じて映画祭の魅力に触れてみてはいかがだろうか。

 なお余談だが、この原稿を書いている間も「ちば映画祭のテーマ~初期衝動~」のMVをリピート再生し続けていたのはここだけの話である。「うるせー! やりたかったんだよぉっっ!!」と頭に鳴り響いている――。

映画ライター

福岡県生まれ、東京育ちの映画ライター。映像制作会社で映画、Vシネマ、CMなどの撮影現場に従事したのち、フリーランスの映画ライターに転向。コロナ前は年間数百本以上のイベント、インタビュー取材などに駆け回る毎日で、特に国内映画祭、映画館などに力を入れていた。2018年には、プロデューサーとして参加したドキュメンタリー映画『琉球シネマパラダイス』(長谷川亮監督)が第71回カンヌ国際映画祭をはじめ、国内外の映画祭で上映された。近年の仕事として、「第44回ぴあフィルムフェスティバル2022カタログ」『君は放課後インソムニア』のパンフレットなど。

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