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ラグビー日本代表のA5Nのテーマは

松瀬学ノンフィクション作家(日体大教授)

ラグビーの2015年ワールドカップ(W杯)イングランド大会の出場権をかけたアジア5カ国対抗が始まり、日本は敵地マニラでフィリピンに99-10で圧勝し、8大会連続W杯出場に向けて好スタートを切った。

世界ランキング13位(5月5日発表)の日本にとっては、フィリピン(56位)ほかスリランカ(41位)韓国(23位)香港(25位)と格下相手がつづく。勝利は当然として、大事なことは「日本がやろうとしていことを徹底的にやることができるかどうか」。レベルアップできるかどうか、である。とくに「判断とプレーのはやさ、精度」がポイントとなる。

「勝ち点(6)をしっかりとれたので、グッドスタートといっていい」。フィリピン戦の勝利後、日本のエディー・ジョーンズ・ヘッドコーチ(HC)はコトバに安ど感を漂わせた。最高気温が35度。高速道路そばのグラウンドの芝生の状態はひどく、更衣室もない。日本ではまず、あり得ない環境だった。「すごくいい経験になった」とも漏らした。

“エディー・ジャパン”が目指すラグビーとは、堅守速攻、素早いパスで多彩なシェイプを重ねて防御網を崩し、トライを奪うことである。フィリピン戦では大量15トライを奪った。相手の力が落ちたこともあるが、1週間前の「アジア・パシフィックドラゴンズ」戦より、「アタックのシェイプ(形)はよくなった」とジョーンズHCは評価した。

ただジョーンズHCが選手に求めることは、まず「瞬時の判断」である。だから、ボールを持っていない時の選手の動きを重視する。どうやってスペースを見つけ、タイミングを計り、ボールをもらいにいくのか。ポジショニングはどうか。

そういった意味で、初キャップの期待の星、WTB松島幸太朗(サントリー)のボールを持たない時の動きはよくなかった。それでも相手ディフェンスがモロいから、2トライを挙げることはできた。とくに後半序盤の持ち味のバネを生かした約30メートルランのトライには大器の片鱗をのぞかせた。

チームの課題は試合の入りの悪さ、前半序盤にインターセプトでトライを献上したことである。ジャパンはラインを勢いづかせるため、フラットなラインを引いて攻めた。前のめりになったところで、不必要なパスをカットされた。若いバックスが相手防御に対応できていなかったからである。もっとダイレクトにトイメンと勝負したほうがよかった。

日本は世界トップクラスと比べると身体能力でやや劣るため、フラットなラインで素早く攻めていく。結果、いくつかハンドリングミスも起きた。ジョーンズHCは指摘する。「コミュニケーションミスと、判断の遅さゆえだ。決断が遅ければ考える時間が増え、スキルも落ちてしまう」と。

つまりは、ハンドリングの精度とメイキング・デシィジョン(決断)のはやさはリンクしているのである。ラグビーという競技において、この一瞬、一瞬の決断がいかに大切か。松島ほかCTB村田大志(サントリー)、林泰基(パナソニック)らフィリピン戦の初キャップ5人はまた、ゲームを見る目と判断力も磨いていいかないといけない。

このほか、キックオフのディフェンス、ラックの2人目の入りの精度が悪かった。どんな環境であろうとも、どんな相手であろうとも、日本のやるべきことを当たり前にやる。そのため、合宿では早朝5時からの筋力トレーニングなど、猛練習を継続してきた。

大会の第一の目標はW杯出場権確保であろうが、視線の先には「世界トップ10入り」「W杯決勝トーナメント進出」がある。

その成長プロセスのひとつとして、アジア5カ国対抗がある。格下相手でも、若手にとっては、文字通り、ジャパンへの生き残りをかけた「テスト」マッチでもある。敵は対戦チームだけでなく、自分たち自身なのだ。

ノンフィクション作家(日体大教授)

早稲田大学ではラグビー部に所属。卒業後、共同通信社で運動部記者として、プロ野球、大相撲、五輪などを担当。4年間、米NY勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。1988年ソウル大会から2020年東京大会までのすべての夏季五輪ほか、サッカー&ラグビーW杯、WBC、世界水泳などを現場取材。人物モノ、五輪モノを得意とする。酒と平和をこよなく愛する。日本文藝家協会会員。元ラグビーワールドカップ組織委員会広報戦略長、現・日本体育大学教授、ラグビー部部長。著書は近著の『荒ぶるタックルマンの青春ノート』(論創社)ほか、『汚れた金メダル』『なぜ、東京五輪招致は成功したのか』など多数。

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