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930万人分の給食食材の行方 広がる食材活用の取り組み

松平尚也農業ジャーナリスト、龍谷大学兼任講師、AMネット代表理事。
休校となった東京の小学校(写真:西村尚己/アフロ)

廃棄される食材

 日本の小中学校で給食を食べている子ども達の数は全国で930万人(2018年5月)。小学校19,453校(全小学校数の99.1%)、中学校9,122校(全中学校数の89.9%)、特別支援学校等も含め全体30,092校で学校給食が提供されてきた。しかし今回の突然の給食とりやめで全国の給食業者や出荷農家から悲鳴の声が上がっている。

 給食への出荷農家で一番影響が大きいのが生乳を生産する酪農家だ。国内で消費される牛乳のうち学校給食分はなんと全体の約1割を占める。3月3日、江藤農林水産大臣は、給食向け生乳の廃棄を回避するため、加工用としてメーカーに受け入れを要請した。各地域の指定団体と乳業メーカーが廃棄阻止のために動いていたが、急な受け入れの具体化が困難な地域もある中で、生乳の廃棄が始まっている。全国の生乳出荷量は1日約2万トンで、学校給食向けが約2千トンを占める。全国の小中学校で春休みまで約3週間の休校が続けば、約3万トン余ることになる。農水省も牛乳等の消費を促しているが限界がある。

 

給食業者へのしわ寄せ

 休校から一週間が経過し、牛乳以外にも野菜やパンが廃棄されるケースも多くなってきた。その中で最も大きな影響を受けているのが給食業者である。給食業者は、数ヶ月前から決定しているメニューに従って、給食の原材料や製品を集め準備する必要がある。突然の休校という未曾有の事態の中で、業務停止や職員を自宅待機させるという対応を余儀なくされ、巨額の経営打撃を受けている業者も多い。

 給食業者で働く社員への影響も深刻だ。正社員は有給取得で対応し、非正規社員にいたっては自宅待機中の賃金保証もままならない状況だ。文部科学省は(2月28日の時点)、学校給食に供給する生産者や業者の支援について補てんは想定せず影響を踏まえ各省と連携し検討する、としていた。しかし影響の拡大から農水省は3月7日、検討を進めてきた牛乳に加え、野菜やパン、麺等についても、収入を国費で補てんする考えを示し、契約通り支払うように市町村に要請する、と対応を修正した。しかし影響は食材費用だけに留まらず、そこで働く社員や労働者にも深刻な影響が及んでいる。政府はこれら休校を契機とする全ての影響に対して補てん措置を講ずるべき、と言えるであろう。休校の影響のしわ寄せが弱者に行くことは絶対に許されない。

クックパッド、有料機能「人気順検索」の無料開放をはじめとする支援を開始(PRTimes クックパッド)
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広がる民間の取り組み

 政府の対応が遅れる中で、廃棄や食品ロスへを防ぐ取り組みも広がっている。愛知県一宮市では、給食で使用予定だった食材の即売会を実施し、価格設定が低かったこともあり長蛇の列ができすぐ売り切れた。東海コープ事業連合(名古屋市)は、給食に提供する予定であった牛乳が食品ロスにならないように、牛乳価格を緊急値下げし、宅配事業や店頭販売を実施している。ふるさと納税情報を取り集めるふるさとチョイスでは、「新型コロナウイルス被害事業者向け支援プロジェクト~給食事業者~」を始め、給食に納入予定であった事業者の製品を掲載し支援を呼びかけている。他にもドライブスルーでの給食販売(福岡市東区)、子ども支援NPOの弁当での活用、ネットレシピサイトでの牛乳大量消費レシピの特集など、現場や関係者の活動や知恵を生かした取り組みが広がっている。

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 政府や農林水産省は、せめてこうした取り組み紹介の一覧を紹介し、給食食材の活用と食品ロス防止を目指すべきではないだろうか?とはいえ縦型の官僚社会でそうした情報発信は困難な可能性もあるので、以下に全国の取り組みについてのニュースのリンクを共有し、給食食材活用に向けた取り組みが広がることを祈りたい。

○全国給食食材取り組み関連リンク

(取り組みニュースのリンクは3月9日12時時点。随時更新予定。)

・一宮市:学校給食用食材即売会の開催についてのお知らせ

https://www.city.ichinomiya.aichi.jp/shisei/houdouhappyo/1032048/1032397/1033379.html

・福岡市学校給食公社:学校給食用食材をドライブスルーで販売します!

http://www.f-gk.or.jp/news/detail/1686

・ふるさとチョイス「新型コロナウイルス被害事業者向け支援プロジェクト~給食事業者~」

https://www.furusato-tax.jp/feature/a/corona-virus_support

・給食材料活用し弁当販売 NHK 岐阜 NEWS WEB

http://mjk.ac/uxvBZK

・東海コープ事業連合:酪農家・生産者を応援!「学校給食での牛乳使用停止による せいきょう牛乳を普及価格」のご案内  

http://www2.tcoop.or.jp/news/001141.html

・クックパッド:学校の休校などでおうちごはんにお困りの方へ、負担軽減お助けレシピをまとめています。

https://cookpad.com/category/2096

・Nadia:Nadiaでは酪農家を応援する牛乳消費レシピを大募集! 牛乳を使ったアイデアレシピをお待ちしています!

https://oceans-nadia.com/contest/206

農業ジャーナリスト、龍谷大学兼任講師、AMネット代表理事。

農・食・地域の未来を視点に情報発信する農業ジャーナリスト。龍谷大学兼任講師。京都大学農学研究科に在籍し国内外の農業や食料について研究。農場「耕し歌ふぁーむ」では地域の風土に育まれてきた伝統野菜の宅配を行ってきた。ヤフーニュースでは、農業経験から農や食について語る。NPO法人AMネットではグローバルな農業問題や市民社会論について分析する。有料記事「農家ジャーナリストが耕す「持続可能な食と農」の未来」配信中。メディア出演歴「正義のミカタ」「めざましテレビ」等。記事等に関する連絡先:kurodaira1974@gmail.com(お急ぎの方は連絡先をご教示くだされば返信します)。

農業ジャーナリストが耕す「持続可能な食と農」の未来

税込550円/月初月無料投稿頻度:週1回程度(不定期)

食べ物、生命の根幹である農の世界には、食と農の未来を考える上で宝物のようなアイデアが豊富にあります。本企画では農業ジャーナリストとして研究する立場から現代の農業の潮流や政策をとらえ食と農のこれからを考えます。世界で注目されている小農や家族農業、アグロエコロジー、SDGsも紹介し、持続可能な食と農のイメージをお伝えします。また食べ物の栽培や歴史から流通、農協改革や持続可能な観光まで幅広く取り上げます。

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