日本の食卓を支えてきたコメと麦、大豆の種子の安定供給を都道府県に義務付けてきた主要農作物種子法(以下、種子法)が今年4月1日に廃止されました。政府は、廃止の目的に、種子産業への民間参入を促すためと説明しています。一方で、種子法廃止で種子の生産を行ってきた都道府県への予算が今後確保されるか不透明なため、種子供給の不安定化や価格高騰が起こるのではないか、という不安の声が上がっています。

  

中央と異なる地方の動き

 昨年(2017年)2月に種子法の廃止が決定して以来、実に64の地方議会が国会に対し意見書の提出を行い、財源の確保や種子の独占への懸念、種子法に代わる法律の必要性について訴えました。重要な法案に関わらず国会での議論が不十分という意見も多く、廃止に対して懸念の声が高まっているといえます。

 新潟・埼玉・兵庫県の3県は、種子法が廃止された同日に独自の条例を制定し施行しました。条例の内容は、3県とも種子法と同様の内容で、種子計画の策定・生産体制確立や、原種・原原種生産、指定ほ場や品質審査の規定が主な内容となっています。さらに富山・長野県等も条例制定などの独自の取り組みを始める予定です。

 その中で埼玉県では、在来種の生産と維持に県が協力するという規定を新たに盛り込み、独自の取り組みも始めています。また特筆すべきは、埼玉では農協の要請等を背景に自民党が条例案を提出した点です。上述した意見書の提出においても、自民党がとりまとめるケースが見られ、中央とは異なる動きが地方で生まれていると言えます

 

 都道府県や関係機関における混乱

 種子法において種子生産の業務を担ってきた農業試験場など都道府県の公的研究機関に行われた調査(※1)では、戸惑う声も多い現状があります。種子法廃止を不支持の理由には「価格上昇・品質低下、需給不安定化」や「予算確保の不透明性」が上がり、生産現場でも不安の声があることが明らかになりました。

 種子法廃止を契機に農家や消費者の間でも種子への関心が高まり、種子法をテーマにする学習会や映画の開催も広がっています。市民社会の動きにおいて中心となっているのは「日本の種子(たね)を守る会」です。同会は、種子法廃止決定後に設立され、有識者や農業関係者と議論を重ねてきました。同会のホームページでは、全国の種子に関する取り組みや国会の議論を紹介しています。

 さらに市民団体「たねと食とひと@フォーラム」が行ったアンケート調査(※2)からは、これまで種子生産のほ場指定をしていた46道府県のうち、今年度の指定を行ったのが25道県にとどまること等が明らかになり、都道府県の対応の混乱が露になりました。

  

求められる議論の継続

 こうした様々な動きの中で、6野党・会派(社民党・日本共産党・立憲民主党・希望の党、無所属の会、自由党)は、種子法の復活法案を4月19日に国会に提出しました。同法案(※3)では、廃止前の内容を条文として復活させ、業務用米など種子生産における国内民間企業への配慮や都道府県が持つ種子生産の知見の海外流出を防ぐ規定も盛り込まれています。

 6月6日、衆院農林水産委員会でこの復活法案の質疑が行われました(※4)。法案を提出した野党側は、都道府県の安定的な種子生産や予算確保の手段として同法の重要性を指摘。また政府の運用方針における都道府県の役割が民間参入までの限定的な位置づけとなっており、これが種子法廃止法の附帯決議の趣旨に沿ってないと批判しました。

 一方、政府・与党側は、民間活力を生かした主要農作物の種子の生産、普及体制を構築していくことが重要で、野党側の懸念である種子生産の知見の海外流出に関しては、国内の民間事業者に限定しており、種子法ではなく種苗法の新たな問題として考えるべきと主張。さらに農水省は、全ての都道府県において、種子の安定供給に影響が生じないよう2018年度も予算が計上されているとし、外食・中食需要に適した低コストで多収の品種等の多様な需要に応じる必要性を指摘しました。

 国内の多様な種子供給については野党も同内容の主張をしており、議論が堂々めぐりで終わったともいえます。ただし注意すべきは、農水省は、都道府県への種子生産に関する交付税は、あくまでも民間業者参入が進むまでの時限的措置としている点です。農水省はそうした背景を国会の質疑で語らず、都道府県の種子生産の予算が現状は確保されているという曖昧な表現をしています。

 民間参入が進むと予算を見直し、都道府県への交付金も削減されていくことも予想されます。削減された場合、都道府県の種子生産事業がどこまで継続されるか不透明であり、安定的な種子生産の基盤が崩れていくことになります。現に2018年度から、大阪府と奈良・和歌山県が種子生産業務の民間委託を始めました。さらに民間委託が進むと種子生産の不安定化などの影響が起こることが懸念されており、今後の都道府県の動向に注意する必要があります。

 議論なき種子法の廃止に象徴されるように、政府・与党は、上述してきた農業関係者や市民社会そして地方議会における廃止への反発を予想していませんでした。現在の状況の中で求められるのは、種子法を入り口に市民と農業者そして行政がそれぞれの視点から取り組みを継続することです。議論を活性化させることで、タネをめぐる未来の方向性や政策への道しるべを創造していくことが求められているといえるでしょう。

(※1)たねと食とひと@フォーラム「主要農作物種子法廃止後の都道府県の取り組みアンケート結果」2018年4月

http://nongmseed.jp/?p=2866

(※2)共同通信と矢野経済研が2月に都道府県の農業試験場など農作物の種子や品種開発に携わる56カ所の公的研究機関を調査。 廃止「支持」回答はゼロ。「どちらかといえば支持」4%。「どちらかといえば支持しない」(16%)「支持しない」(16%)と32%が否定的。無回答は18%。

(※3)「主要農作物種子法復活法案について(概要)」

http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_annai.nsf/html/statics/housei/pdf/196hou13siryou.pdf/$File/196hou13siryou.pdf

(※4)衆議院農林水産委員会「種子法復活法案・会議録」2018年6月6日,

http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_kaigiroku.nsf/html/kaigiroku/000919620180606020.htm