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米7月雇用者数を読み解く:デルタ株拡大でも2カ月連続90万人超の大幅増―QE巻き戻し観測強まる(下)

増谷栄一The US-Euro Economic File代表
米7月雇用統計の結果を報じた米経済専門チャンネルCNBCテレビ

 一方、失業率は5.4%と、前月の5.9%を下回り、昨年3月以来16カ月ぶりの低水準となり、市場予想の5.6―5.7%も下回った。失業率はこれまで第2次大戦後で過去最高となった昨年4月の14.8%をピークに11月の6.7%まで7カ月連続で低下し、12月も同率となった。今年に入り、1-4月は6%台が続いたが、5月(5.8%上昇)以降は5%台となっている。

 ただ、7月の失業率が低下したとはいえ、市場では働きたくても仕事が見つからないため、労働市場を去っている数百万人の労働者予備軍を失業者に含めると、失業率は2-3ポイント上昇し、9%超になるとみている。FRB(米連邦準備制度理事会)も実際の失業率は10%近いと推定している。また、経営者が人件費を減らすため、従業員の一部を恣意的に労働者に分類されない独立契約者(個人請負、misclassified workers)として扱っている事例も少なくなく、これらの非正規雇用者を失業者に含めると、失業率は0.6ポイント上昇するとの見方もある。

 また、いわゆる、広義の失業率(狭義の失業者数に仕事を探すことに意欲を失った労働者数と経済的理由でパート労働しか見つからなかった労働者数を加えた、いわゆる、“underemployed workers”の失業率)は、季節調整後で9.2%と、前月の9.8%や5月の10.2%、4月の10.4%、3月の10.7%を下回り、5カ月連続で低下した。昨年の12月の11.7%や11月の12%、10月の12.1%、9月の12.8%、8月の14.2%、7月の16.5%、6月の18%、5月の21.2%、4月の22.9%から着実に低下している。

 また、市場が注目している労働市場への参加の程度を示す労働参加率(軍人を除く16歳以上の総人口で労働力人口を割ったもの)は61.7%と、前月の61.6%を上回り、4月の61.7%に戻った。しかし、昨年6月(61.4%)以降、ほとんど変わっておらず、パンデミックが始まったばかりの2020年3月の62.6%やパンデミック前の2019年12月の63.3%を大きく下回っている。労働者の雇用市場への参加が依然として弱く、労働者不足を深刻化していることを示す。

 雇用統計の内訳は、民間部門が前月比70万3000人増と、前月の76万9000人増(改定前66万2000人増)からさらに伸び、5月の55万5000人増(同51万6000人増)や4月の22万6000人増から伸びが加速した。また、市場予想の65万人増を上回った。一方、政府部門も24万人増と、前月の16万9000人増(改定前18万8000人増)を大幅に上回り、5カ月連続の増加となった。これはパンデミックの影響が治まり、多くの州や市町村などの地方自治体が学校再開で教職員やスクールバスの運転手、食堂スタッフなどの採用に動き出したためで、州と市町村の教育関連の雇用は計23万0600人増となっている。こうした一時的要因を除くと、全体の新規雇用者数は前月とあまり変わらなかった可能性がある。

 雇用統計は約14万5000社(政府機関含む)を対象に調査した事業所統計と、約6万世帯を対象に聞き取り調査した世帯統計からなり、新規雇用者数の増減は事業所統計、失業率は世帯統計で示される。今回、世帯統計が示した7月の失業者数は前月比78万2000人減の870万2000人となった一方で、雇用者数は同104万3000人増と、前月の同1万8000人減から増加に転じ、雇用の改善(回復)ペースが大きく加速した。

 失業者数のうち、全体の約14%に相当する123万9000人(6月は約19%相当の181万1000人)がパンデミックを受けた経済活動の自粛によって発生した「一時帰休による失業者」に分類された。7月はこの一時帰休者数が、規制解除が進む中、前月比で57万2000人減少(6月は1万2000人減少)となっている。パンデミックが猛威を振るった2020年12月以降、一時帰休者は1月が29万3000人減、2月も51万7000人減、3月も20万3000人減と、パンデミックの鎮静化とともに減少。4月は増加したが、5月以降、再び減少している。この結果、計180万人が過去7カ月間で職場復帰したが、昨年6月に職場復帰者が約480万人と、ピークに達して以降、職場復帰のペースは鈍化傾向にある。

 一時帰休による失業者は昨年4月の1804万7000人(失業者全体の78%)がピークだった。それから15カ月経過した7月時点で123万9000人に低下した。この差、つまり、15カ月間で約1680万8000人が職場復帰した。しかし、職場復帰率はまだ93%で、完全な雇用回復とは言えない。

 また、27週間以上の長期失業者数の割合は39.3%(342万5000人)と、前月の42.1%から大きく低下し、昨年12月の37.1%以来7カ月ぶりの低水準となった。実数ベースでも前月比56万人減と、月間の減少としては過去最高となった。ワクチン接種の加速や、ジョゼフ・バイデン大統領の1兆9000億ドル(約209兆円)の追加景気刺激策の効果で職場復帰が進んだことを示す。

■過去3カ月の雇用者数の月平均は83.2万人増に加速

 また、7月雇用統計では、過去3カ月間(5-7月)の月平均の雇用者数の伸びは83万2000人増と、昨年の5月時点の651万人減や6月時点の433万3000人減から改善し、今年の2月時点の15万4000人増や3月時点の51万8000人増、4月時点の53万人増、5月時点の55万6000人増、6月時点の60万7000人増を上回った。ちなみに、パンデミック前の2019年は月平均17万5000人増、2018年も同19万2000人増だった。景気回復が持続安定的に進むためには15万人増が必要といわれる。

 また、市場が注目していた7月の賃金(平均時給)の伸びは雇用需要の拡大と労働者不足を反映し、前月比0.4%(11セント)増と、市場予想の同0.3%増を上回り、4カ月連続の増加となった。前年比は4%増と、前月の3.7%増を上回り、3月(4.3%増)以来4カ月ぶりの高い伸びとなった。一方、週平均労働時間は34.8時間と、6月と変わらずとなったが、市場予想の34.7時間を上回った。(了)

The US-Euro Economic File代表

英字紙ジャパン・タイムズや日経新聞、米経済通信社ブリッジニュース、米ダウ・ジョーンズ、AFX通信社、トムソン・ファイナンシャル(現在のトムソン・ロイター)など日米のメディアで経済報道に従事。NYやワシントン、ロンドンに駐在し、日米欧の経済ニュースをカバー。毎日新聞の週刊誌「エコノミスト」に23年3月まで15年間執筆、現在は金融情報サイト「ウエルスアドバイザー」(旧モーニングスター)で執筆中。著書は「昭和小史・北炭夕張炭鉱の悲劇」(彩流社)や「アメリカ社会を動かすマネー:9つの論考」(三和書籍)など。

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