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英国の都市封鎖解除の前に立ちはだかる老人ホーム感染拡大(上)

増谷栄一The US-Euro Economic File代表
ロックダウン(都市封鎖)の段階的緩和を国民向けのテレビ演説で発表するボリス・ジョンソン首相=英テレビ局スカイニュースより
ロックダウン(都市封鎖)の段階的緩和を国民向けのテレビ演説で発表するボリス・ジョンソン首相=英テレビ局スカイニュースより

英国は中国湖北省武漢で昨年12月に発症した新型コロナウイルス(COVID-19)のパンデミック(感染症の世界流行)対策として、3月23日からロックダウン(都市封鎖)に入ったが、5月13日からロックダウンは解除しないまま、外出制限などさまざまな規制措置を段階的に緩和する戦略に転換した。

段階的緩和に先立って、ジョンソン首相は5月10日の国民向けテレビ演説で、6月1日の学校再開を含むロックダウンの段階的緩和の道筋を示す51ページにわたるロードマップ(行動計画)を発表している。その段階的緩和は3段階からなる。

第1段階は5月13日から始まっているが、この段階では主に公園などでのエクササイズなど屋外活動を1日何回でも無制限にできる。これまでは1日1回に限定されていた。ただ、他人との距離を2メートル空けるソーシャル・ディスタンスイング(社会的距離)ルールを維持することが条件だ。友人や家族との面会についても可能となった。ただ、2メートルの距離を取ることや屋外で会うことの2つの条件を満たす必要がある。

スポーツについてはテニスや釣り、ゴルフなどが認められるが、屋外で行われることが条件で、他他人との対戦は認められない。同じ世帯の家族同士の対戦だけが認められる。また、スタジアムで行われるサッカーなどの試合については無観客でテレビ放送することは認められる。屋内のジムや有料のゲーム施設でのプレーは感染リスクが高いため、禁止される。また、工場や建築現場での作業も再開が可能となる。ただ、職場通勤については、政府は地下鉄やバスなどの公共輸送機関を使わず、マイカーや自転車、歩行が望ましいとしている。剪定など園芸・造園業についても第一段階から再開が認められた。

第2段階は6月1日からスタートする。これは1年生から6年生までのプライマリースクールの児童を対象に学校での授業を再開できる。7-12年生のセカンダリースクールの生徒については、特に来年試験がある生徒については、夏休み前に先生と過ごす時間が持てる。この段階では一般小売店の営業再開が認められるが、屋外施設を持っていることが条件だ。また、規模によっても認められるかそうでないかが決まる。すでに緊急性の観点からロックダウンの早い段階から営業が認められていた「B&Q」などの大手ホームセンターでは、屋内で一定の距離を保つなど、また、入場制限などのガイドラインが適用される。

第3段階は7月からスタートする。これは一部の接客サービス業で、営業再開が認められる。パブやレストラン、また、理容室などは7月4日から営業開始が認められる。そのほか、教会やレジャー施設(映画館など)も再開されるが、2メートル・ルールなど感染対策が条件。また、公共施設の利用が再開される。ただ、地下鉄や在来線の駅利用に関しては警察官が常駐し、混雑しないよう利用客を誘導する。ただ、基本的には公共輸送機関の利用は自粛が求められる。

この点について、グラント・シャップス運輸相は5月10日の会見で、2メートルのソーシャル・ディスタンシング・ルールを守る必要があると指摘している。これは10人につき1人(10%)の割合で電車に乗れることを意味する。また、この段階ではパブやレストランの再開は認められず、冬か、または来年初めごろになる。再開が認められた場合でもテーブルの配置数が少なくなり、入店者数も制限される。また、営業時間も短縮される。

また、今週末、外国旅行者の空港での入国制限も6月8日から導入されることが決まった。これはアイルランドを除き、海外から飛行機で英国に入国するすべての乗客(医療従事者や外国政府の関係者など一部を除く)は、日本やシンガポールで行っているのと同様に、2週間の自主隔離と感染検査が義務付けられ、主に自宅での自主隔離となる。パテル内相は5月22日の会見で、この2週間ルールに違反した場合、1000ポンド(約13万円)の罰金を課すことを明らかにした。

しかし、これは外国からの観光旅行者を締め出す措置に等しく、アイルランドの格安航空会社ライアンエアーのマイケル・オライリーCEO(最高経営責任者)は「ばかげて、実行不可能な政策だ」(5月22日の英テレビ局スカイニュース)と痛烈に批判する。いずれにしても、入国者は空港に到着後、連絡先や宿泊先を明らかにしなければならない。それが不可能な場合、政府が指定する施設で自主隔離する。また、入国者は自宅まで公共輸送機関を使わず、自動車で直接移動することが求められ、さらに、NHS(国民保険サービス)の感染者追跡アプリをスマホなどにダウンロードし、濃厚接触者の追跡の対象となる。

ただ、ジョンソン首相が発表したロードマップに対しては、英国連邦を構成するイングランド以外の北アイルランドやウェールズ、スコットランドの各自治政府は難色を示しているため、当面はイングランドだけに適用される。これについて、ジョンソン首相は、「このロードマップについてはスコットランドや北アイルランド、ウェールズとは基本的に合意した」(5月10日の英放送局BBC)としているが、「当面はイングランドだけのロードマップとなる。イングランド以外の3地域は独自の判断で、ロックダウンの段階的緩和を進める権限を持っているため、それぞれの判断で緩和を進める。このため、緩和のスピードが地域によって差が出てくる」(同)という。(『中』に続く)

The US-Euro Economic File代表

英字紙ジャパン・タイムズや日経新聞、米経済通信社ブリッジニュース、米ダウ・ジョーンズ、AFX通信社、トムソン・ファイナンシャル(現在のトムソン・ロイター)など日米のメディアで経済報道に従事。NYやワシントン、ロンドンに駐在し、日米欧の経済ニュースをカバー。毎日新聞の週刊誌「エコノミスト」に23年3月まで15年間執筆、現在は金融情報サイト「ウエルスアドバイザー」(旧モーニングスター)で執筆中。著書は「昭和小史・北炭夕張炭鉱の悲劇」(彩流社)や「アメリカ社会を動かすマネー:9つの論考」(三和書籍)など。

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