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英国、6月からロックダウン段階的緩和か=10日にロードマップ提示(上)

増谷栄一The US-Euro Economic File代表
コロナ感染から無地生還したジョンソン首相は4月27日、3週間ぶりに職務復帰し、コロナ危機克服に向け、記者会見に臨んだ=英スカイニュースより
コロナ感染から無地生還したジョンソン首相は4月27日、3週間ぶりに職務復帰し、コロナ危機克服に向け、記者会見に臨んだ=英スカイニュースより

ジョンソン首相は5月10日に国民向けのテレビ演説で、中国湖北省武漢で発症した新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大を阻止するため、3月23日から実施しているロックダウン(都市封鎖)を見直し期限の5月7日以降も継続した上で、6月1日の学校再開からロックダウンの制限を段階的に緩和するロードマップ(行動計画)を発表する見通しだ。ただ、首相は発表直前までコロナ感染の封じ込め効果や、いわゆる、「R(リプロダクティブ)レート」(再生産数:1人の感染者から何人に感染するかという比率)などのデータを注視し、専門家の意見を参考にした上で、制限緩和に踏み切るか最終判断したい考え。

英国のロックダウン開始から約1カ月経った4月25日、英世論調査大手オピニアムがロックダウン関する最新の世論調査結果を公表した。それによると、回答者の大半(71%)がロックダウンの見直し期限が来る5月7日以降も延長すべきとした。

この世論調査の結果は、ラーブ外相が当時、コロナ感染で入院治療中だったジョンソン首相の代理として臨んだ4月16日の記者会見で、ロックダウンを5月7日まで3週間延長すると発表したことが正しい決断だったことを裏付けると同時に、今度は、ゴーブ内閣府担当大臣が5月3日の会見で、7日以降もロックダウンを再延長する見通しを示したことにもつながっている。

しかし、この世論調査は国民がロックダウンの再延長を望む一方で、次の段階として、ロックダウンから早期に離脱し、経済活動を再開することを望んでいることも示している。調査ではコロナ感染拡大防止のための経済抑制策の悪影響が深刻化している現状を考慮し、ロックダウンを続けるものの、段階的に緩和していくべきとし、緩和後の第2波の感染爆発が起きないことを条件に、学校やオフィス、レストラン、ショッピングセンターから優先して営業再開を認め、パブや劇場、スタジアムなど人が密集する施設はワクチンが開発される来年まで再開を遅らせるべきだと指摘している。

ロックダウンの制限緩和を巡っては、政府は政策決定の透明性を高めるため、5つの条件を設定した。1つ目は医療崩壊の回避、2つ目は1日当たりの死者数の持続的な減少、3つ目はRレートが「1」以下となること、4つ目は医療従事者向けPPE(防護服)が将来の需要を満たし、不足しないこと、そして、5つ目がロックダウンを緩和しても第2波の感染爆発が起きないという確信となっている。

政府はこの5つの条件のうち、最初の4つまでは達成に自信を持っているが、最近まで5つ目だけが不十分として懸念を残していた。しかし、ハンコック保健相が4月28日の会見で5つ目の条件の文言を修正したことにより、5つの条件のすべてをクリアする見通しとなった。修正は、「国営の医療サービス機関「NHS」の崩壊を引き起こすような第2波の感染爆発が起きないと確信できること」というもので、新たにNHSの文言を加えた。

これに関し、ハンコック保健相は会見で、「これまでNHSの崩壊は起きていない。今後もNHSが崩壊するような2度目の感染爆発は起きないと自信を持っている」と述べたことから、「政府は5つのすべてのテストで合格していると言いやすくなった」(4月28日付英紙デイリー・テレグラフ)というわけだ。

ロックダウンの完全解除はワクチン開発までのかなり遠い先だとしても、段階的緩和の時期は早まる見通しだ。政府の青写真では、早ければ6月1日から高齢者に比べ比較的感染率が低いといわれるプライマリースクール(1-9年生の小・中学生)の児童から学校を再開し、製造業や建設業の職場再開を優先し、テレワーク(在宅勤務)が可能な企業は当面、続ける方向だ。

政府のロックダウン離脱のロードマップの中身について、5月3日付の英紙サンデー・テレグラフ紙と英紙ガーディアンは6月1日からプライマリースクールの生徒を対象に学校再開し、Rレートが第2波の感染爆発の恐れがある閾値にまで上昇しない可能性が高い場合、10-12年生(高校生)のセカンダリースクールの生徒を復学させると、スクープしている。

ただ、今週中に王立統計局から発表される感染に関するデータの結果次第によっては、学校再開が遅れる可能性がある。ジョンソン首相はRレートが極めて重大だとし、これが1を下回ることが絶対条件としている。先週、この数値は0.5から1の間となった。

また、会社通勤の再開については、政府は時差出勤やシフト勤務の採用、2メートルのソーシャル・ディスタンシング(社会距離)が困難な場所では顔を隠す透明なスクリーンなどウイルスから身を守る個人用防護具(PPE)を用意すること、さらには個々の企業が従業員の感染の有無を日常的にチェックし、感染の疑いがあれば隔離、追跡することを義務付けるもようだ。

通勤再開の場合、鉄道路線の運行が正常レベルに戻るには2週間かかるとみられているため、緩和実施には時間がかかる見通しだ。一方、オンラインで日常業務のコミュニケーションを行うテレワーク(在宅勤務)が可能な企業に対しては今後もテレワークを続ける可能性が高い。建築現場や工場の操業再開についてはソーシャル・ディスタンシングと殺菌消毒の徹底など衛生に関する厳格なルールを義務づけることで認める方向だ。

社会生活については、公園などの公共施設の閉鎖を解除するが、第2波の感染爆発を防ぐため、マスクの着用と、学校や職場、自宅以外の場所で人との接触機会を家族や友人を含め1日当たり5-10人に制限するよう求められる可能性がある。「スコットランドのダンディー大学の研究によると、経済活動の再開の一方で、個人の接触機会を90%削減することで、Rレートを1以下に維持し、第2波の感染爆発を防げる」(5月2日付英紙デイリー・テレグラフ)という。また、問題となっている高齢者については、原則として、さらに18カ月か、または、ワクチンが開発されるまで、外出制限のロックダウンが適用されるが、「70歳以上の健康な高齢者はロックダウンの厳しい規制を免れる可能性がある」(5月5日付テレグラフ紙)という。

5月3日の英テレビ局スカイニュースによると、英国政府はロックダウン緩和後の第2波の感染爆発を防ぐため、スマホを使ったデジタル追跡を計画している。ハンコック保健相も5月4日の会見でデジタル追跡を行うと発表した。

このアプリはある一人の感染患者の濃厚接触者(感染予備軍)を自動的に記録し、それらの濃厚接触者の誰か一人が検査で陽性と判明した場合、NHS(国民保険サービス)から他の残りの濃厚接触者に自主隔離を指示することができるというものだ。

また、このNHSのアプリは、ワイヤレス通信用のブルートゥース(近距離間データ通信技術)を使って、近場にいる他人のブルートゥース・デバイス(スマホなど)を自動的に登録し、電車内やオフィスなどどこにいても近場にいるすべての接触者(濃厚接触者とはかぎらない)を確認・登録する。もし、これらの接触者のうち、だれかがその後、感染症状を現した場合、NHSから自主隔離の連絡が届く仕組みだ。(「中」に続く)

The US-Euro Economic File代表

英字紙ジャパン・タイムズや日経新聞、米経済通信社ブリッジニュース、米ダウ・ジョーンズ、AFX通信社、トムソン・ファイナンシャル(現在のトムソン・ロイター)など日米のメディアで経済報道に従事。NYやワシントン、ロンドンに駐在し、日米欧の経済ニュースをカバー。毎日新聞の週刊誌「エコノミスト」に23年3月まで15年間執筆、現在は金融情報サイト「ウエルスアドバイザー」(旧モーニングスター)で執筆中。著書は「昭和小史・北炭夕張炭鉱の悲劇」(彩流社)や「アメリカ社会を動かすマネー:9つの論考」(三和書籍)など。

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