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英・EUの自由貿易協議は前哨戦の漁業交渉で難航する見通し(上)

増谷栄一The US-Euro Economic File代表
ジョンソン首相は首相官邸の外壁にビッグベン(国会議事堂の時計台)と英国連邦のユニオンジャック旗をプロジェクションマッピングで映し出しEU離脱のカウントダウンを演出=英BBCテレビより
ジョンソン首相は首相官邸の外壁にビッグベン(国会議事堂の時計台)と英国連邦のユニオンジャック旗をプロジェクションマッピングで映し出しEU離脱のカウントダウンを演出=英BBCテレビより

英国は1月31日午後11時、1973年のEU加盟以来47年ぶりにEU(欧州連合)から正式離脱した。この日、ボリス・ジョンソン英首相は首相官邸の外壁にビッグベン(国会議事堂の時計台)と英国連邦のユニオンジャック旗をプロジェクションマッピングで映し出し、EU離脱のカウントダウンを演出した。また、50ペンスの記念硬貨も発行した。しかし、その一方で、英国から独立し、EU残留を主張し続けるスコットランド自治政府のニコラ・スタージョン首相(スコットランド国民党党首)はツイートで、「独立国としてEUの中心に戻る」と誓うなど悲喜こもごもの離脱日となった。

ジョンソン首相の新EU(欧州連合)離脱協定法案が1月22日、議会で成立したのを受け、同23日、EUのウルズラ・フォン・デア・ライエン欧州委員長とジョンソン首相は英EU離脱協定合意文書にそれぞれ署名。これによって1月31日の英国のEU離脱が確定したが、今後、英国とEUは「EUとの将来の関係(自由貿易協定)」の大枠を示す政治宣言に従って、3月2日から自由貿易協定(FTA)の締結に向けた第2段階協議に入る。しかし、FTA交渉開始の前提条件となっている新漁業協定の締結を巡る両者の主張の隔たりが大きく、また、ジョンソン首相が中国通信機器大手ファーウェイ・テクノロジーズ(華為技術)の英国の5G通信網市場への参入を容認したことを受け、英国メディアの論調は「FTA協議は難航する」との見方が大勢となっている。

EU残留支持寄りで知られる英紙タイムズは1月31日付のEU離脱特集で、フォン・デア・ライエン欧州委員長ら3人のEU首脳の連名による寄稿文を掲載した。内容は英国のEU離脱を嘆く一方で、FTAの締結は「人の移動の自由」に始まり、EUルールの合致(適用)を基本とした共通の土俵(貿易ルール)を要求する厳しいものとなっている。

一方、かつて、ジョンソン首相も新聞記者時代を過ごし、EU離脱支持のジョンソン首相を全面擁護する姿勢を打ち出して現政権寄りの報道で知られる英紙デイリー・テレグラフは水面下で進められている漁業交渉に関するスクープ記事を1月24日付で掲載した。それによると、(1)EUは今年12月末までにFTAを締結するためには、7月1日までに漁業交渉で合意する必要があると主張している。(2)ジョンソン首相はEU離脱後、1年間だけ英国漁業専管水域(12海里内)でのEU加盟国による漁獲を認めるとしているが、(3)EU理事会の下部組織である常駐代表者(コレパー)の非公開会議でフランス側が25年間、英国がEU加盟国に全面的な専管水域へのアクセスを認めることを主張し、早くも厳しい協議の先行きが予想されている―という。

その上で、同紙は1月23日付で、「オランダのマーク・ルッテ首相がスイス・ダボスで開かれた世界経済フォーラムで、英テレビ局スカイニュースに対し、ジョンソン首相の年内のEUとのFTA合意の確率は五分五分で、クリフエッジ(EU単一市場から即離脱)の可能性があると指摘した」と報じている。(「中」へ続く)

The US-Euro Economic File代表

英字紙ジャパン・タイムズや日経新聞、米経済通信社ブリッジニュース、米ダウ・ジョーンズ、AFX通信社、トムソン・ファイナンシャル(現在のトムソン・ロイター)など日米のメディアで経済報道に従事。NYやワシントン、ロンドンに駐在し、日米欧の経済ニュースをカバー。毎日新聞の週刊誌「エコノミスト」に23年3月まで15年間執筆、現在は金融情報サイト「ウエルスアドバイザー」(旧モーニングスター)で執筆中。著書は「昭和小史・北炭夕張炭鉱の悲劇」(彩流社)や「アメリカ社会を動かすマネー:9つの論考」(三和書籍)など。

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