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英保守党が総選挙で圧勝、EU離脱大きく前進へ(中)

増谷栄一The US-Euro Economic File代表

 

総選挙圧勝後、初めて開かれた下院本会議で演説するジョンソン首相=英BBCテレビより
総選挙圧勝後、初めて開かれた下院本会議で演説するジョンソン首相=英BBCテレビより

これより先、ボリス・ジョンソン首相は10月29日、下院にクリスマス前の投票を求める早期総選挙法案を提出した。結果は438票対20票の大差で可決され、英国は一気に総選挙モードに入った。ジョンソン首相はこの総選挙で与党・保守党による単独過半数政権を復活させることに全力を挙げた。これまでの絶対多数の政党不在というハングパーラメント(宙ぶらりん議会)から抜け出し、EU(欧州連合)残留支持の反対勢力が議会で強行成立させたベン法(離脱日延期法)法に従ってEU離脱日を10月末から来年1月末に3カ月延期させられた屈辱を晴らし、今度こそEU離脱を成就させる最後の手段だった。

 ジョンソン首相が総選挙を選択したのは、テリーザ・メイ前首相のEU離脱協定(旧協定)に代わる新離脱協定が10月17日にEUと最終合意したものの、10月末の離脱日前の議会通過が困難となったためだった。最大野党の労働党や自民党、SNP(スコットランド国民党)などEU残留を支持する野党に加え、ジョン・バーコウ下院議長(元保守党議員)までもがノーディール・ブレグジット(合意なしのEU離脱)阻止を狙った巧みな離脱延期戦術を繰り広げた。

 選挙前、多くの世論調査機関の関心はジョンソン首相が圧倒的大勝利となるのか、または僅差で勝利するのかに焦点が移っていた。11月28日時点のユーガブの世論調査によると、保守党は野党に対し68議席の差をつけて単独過半数政権を樹立すると予想したが、前日(12月11日)時点では労働党が猛追し、保守党の支持率は41%、労働党は36%(7日時点より3%ポイント上昇)で、リードはわずか5%ポイントに縮まっていた。これは保守党が単独過半数を取っても、野党との議席差はわずか6議席になることを意味した。前回2017年総選挙の結果を正確に予測した世論調査モデル(MRPモデル)を使うと、12月10日時点では、保守党は339議席、労働党は231議席、SNPは41議席、自民党は15議席で、保守党のリードは28議席だった。

 保守党の勝利要因について、2017年の総選挙でメイ前首相の選挙公約を作成したニック・ティモシー氏は、テレグラフ紙の11月24日付コラムで、「2017年選挙では保守党が勝利するという誤った判断の下で、政府のことばかり選挙公約に盛り込んだため、敗北した。しかし、今度の選挙では保守党は政策について沈黙を破り、投票を呼び込むため、以前のような当たり障りのない政策から支持を得る政策を打ち出した。特に緊縮財政を過去のものとし、労働者階級にも配慮した政策を示した」と指摘する。

 保守党は選挙公約でメイ政権当時の緊縮財政を放棄し、15年ぶりの大幅な財政支出を行うことを鮮明に打ち出した。まず、2021年までに全省庁の歳出規模を138億ポンド拡大するほか、低所得者支援策として、110億ポンドの個人向け減税を行うと発表した。個人向け減税は国民健康保険の課税最低限を現在の年間8628ポンドから来年4月に9500ポンド、さらに2025年までに1万2500ポンドに引き上げることにより、3100万人の国民に対し、健康保険料負担を年間100-465ポンド減額するというもの。

 また、看護師を労働党の2万4000人の2倍の5万人を新規採用することや、今後10年間で新たに病院を40カ所建設するとした。さらに、NHS(国民保険サービス)の財源を強化するため、2023年度まで毎年340億ポンドを投資することも政策の目玉に挙げた。

 EU離脱のメリットを強調するため、保守党は4つの重要な企業向け課税の一つであるビジネスレート(非居住用資産に対する固定資産税である)や研究・開発税、建設請負事業者が国に支払うVAT(付加価値税)である建設業界スキーム(CIS)、国民健康保険料の事業主負担の税率を引き下げる。他方、3つの大型税項目である国民保険料とVAT、所得税の税率を増税しない方針も打ち出した。(「下」に続く)

The US-Euro Economic File代表

英字紙ジャパン・タイムズや日経新聞、米経済通信社ブリッジニュース、米ダウ・ジョーンズ、AFX通信社、トムソン・ファイナンシャル(現在のトムソン・ロイター)など日米のメディアで経済報道に従事。NYやワシントン、ロンドンに駐在し、日米欧の経済ニュースをカバー。毎日新聞の週刊誌「エコノミスト」に23年3月まで15年間執筆、現在は金融情報サイト「ウエルスアドバイザー」(旧モーニングスター)で執筆中。著書は「昭和小史・北炭夕張炭鉱の悲劇」(彩流社)や「アメリカ社会を動かすマネー:9つの論考」(三和書籍)など。

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