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英保守党が総選挙で圧勝、EU離脱大きく前進へ(上)

増谷栄一The US-Euro Economic File代表

 

総選挙で勝利し、単独過半数政権が確実になったあと、官邸入りするジョンソン首相(左)=英BBCテレビより
総選挙で勝利し、単独過半数政権が確実になったあと、官邸入りするジョンソン首相(左)=英BBCテレビより

英国の2019年総選挙の投票が12月12日、650選挙区で一斉に行われた。開票前、BBCとITV、スカイニュースの大手テレビ局3社が共同で出口調査の結果を投票締め切りの同日午後10時に発表したが、この段階でボリス・ジョンソン首相が率いる与党・保守党の1987年以来32年ぶりの歴史的大勝利となったことが明らかになった。最終的には保守党は365議席と、47議席増やし、単独過半数に必要な326議席を超え、野党との議席差も80議席と、選挙前に英市場調査会社ユーガブが予想していた6議席のリードをはるかに上回るサプライズとなった。これを受け、翌13日には英ポンドが急伸し、ロンドン株式市場も10年ぶりの大幅上昇となり、FTSE100種・250種総合株価指数の時価総額は合計で510億ポンドも膨らみ歓迎一色ムードとなった。

 また、今回の総選挙では台風の目になると見られていたEU(欧州連合)離脱強硬派のブレグジット(英EU離脱)党がゼロ議席となった。保守党がブレグジット党の有権者を奪ったためで、圧勝要因の一つになったとみられている。

 一方、最大野党の労働党は59議席失う大敗北となった。労働党はEU残留を狙って2回目の国民投票を選挙公約に掲げたものの、「選挙後半にジェレミー・コービン党首が反ユダヤ主義の烙印を押された」(6日付メトロ紙)ことで、EU残留支持の有権者から思うほど支持が得られなかったからだ。英紙サンデー・タイムズは8日付で、「労働党が反ユダヤ主義のせいで敗北した場合、コービン党首は辞任し、暫定的にジョン・マクドネル氏(影の財務相)が党首を引き継ぐ」と報じていた。ユダヤ人の労働党後援組織「ユダヤ・レーバー・ムーブメント」も12日、ツイッターで、「労働党の敗北は党首の問題だ。国民はコービン党首が首相として不適切と判断し、ブレグジット(英EU離脱)を混乱させたことや反ユダヤ主義への対応の失敗を反省すべき」とし、辞任を求めた。しかし、コービン党首は「次回の総選挙では戦わない」とし、居残りを決めている。

 選挙前、ジョンソン首相は7日付のデイリー・テレグラフ紙への寄稿文で、「自民党とSNP(スコットランド国民党)がそれぞれ6議席増やせば、労働党との連立政権が誕生する。その場合、イギリスは2つの国民投票が行われることになる。1つはEU離脱、もう1つはスコットランドの英国からの独立だ。労働党はEU離脱の国民投票で英国在留の数百万人もの外国人にも投票権を与えると主張している」と指摘。その結果、「英国議会は今後何年間も、また、何十年間も国民投票をするだけしか何もできなくなる」と警告していた。

 実際、テレグラフ紙は9日付で、保守党の内部メモ(7日付)を引用し、「コービン党首は現状の議席から1議席も増やさなくても、自民党やSNPなどの少数野党がわずか12議席増やすだけで、労働党連立政権が成立すると危機感を募らせていた」と暴露していた。それほど今回の選挙は「close call(きわどい差)」(同紙)が予想されていた。(「中」に続く)

The US-Euro Economic File代表

英字紙ジャパン・タイムズや日経新聞、米経済通信社ブリッジニュース、米ダウ・ジョーンズ、AFX通信社、トムソン・ファイナンシャル(現在のトムソン・ロイター)など日米のメディアで経済報道に従事。NYやワシントン、ロンドンに駐在し、日米欧の経済ニュースをカバー。毎日新聞の週刊誌「エコノミスト」に23年3月まで15年間執筆、現在は金融情報サイト「ウエルスアドバイザー」(旧モーニングスター)で執筆中。著書は「昭和小史・北炭夕張炭鉱の悲劇」(彩流社)や「アメリカ社会を動かすマネー:9つの論考」(三和書籍)など。

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