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英総選挙、ブレグジット党が台風の目に―ジョンソン首相がEU離脱戦略を転換(下) (下)

増谷栄一The US-Euro Economic File代表

 

英下院は10月29日、ジョンソン首相が提出した早期選挙法案を圧倒的多数で可決した=英BBCテレビより
英下院は10月29日、ジョンソン首相が提出した早期選挙法案を圧倒的多数で可決した=英BBCテレビより

今のところ、総選挙はジョンソン政権が有利とみられている。英紙デイリー・テレグラフは10月29日付電子版で、何でも賭け事にしてしまう英国らしく、地元ギャンブル大手ウィリアムヒルのオッズ(払戻金倍率)を引用し、「保守党が選挙で勝つ確率が最も高い」と報じた。「保守党のオッズは5対6、つまり6ポンドの賭け金に対し5ポンドの利益でオッズは(1.8倍と)かなり低い(逆に言えば人気が高く勝率が高い)一方で、最大野党の労働党のオッズは14対1(15倍)、自民党もノーディールを阻止したと有権者にアピールして200議席は固いと豪語しているが、オッズは33対1(33倍)と、いずれも高い」と指摘する。また、「労働党の影の内閣のエミリー・ソーンベリー外相は、労働党がウェールズとスコットランドで議席を失う可能性が高いと警告している」とも伝えた。

 また、英選挙予想サイト「エレクトラル・カルキュラス」も10月30日、保守党は2017年6月の前回選挙時の318議席から354議席に獲得議席を伸ばし、野党を58議席上回るとの見通しを示した。得票率では保守党は34.5%となり、労働党の25.7%に対し約10%のリードとなる。これは10月1日から15日まで約1万人の調査対象から推計した予想だ。

 しかし、選挙は水物だ。英BBC放送の政治部デスクは10月29日、「テリーザ・メイ前首相の下で実施された2017年の総選挙では保守党が圧倒的有利とされたが、いざふたを開けてみると大敗し、単独過半数割れとなった」と指摘、予断は許さない。エレクトラルの9月時点での選挙予想は、保守党が381議席と、野党に対し112議席の差をつけるとしていたが、得票率は35.5%に対し、労働党は24.1%と、その差は11%超だったが、今は10%に縮まっているからだ。「これは(得票率でみると)最新予測に比べ保守党の絶対有利が後退していることを示す。全体として保守党は僅差で単独過半数を獲得すると予想されるが、他の選挙調査機関はハングパーラメント(宙ぶらりん議会)の可能性を否定していない」(エレクトラル)と微妙だ。

 また、保守党勝利のカギを握り、台風の目となりそうなのがブレグジット(英EU離脱)党の動きだ。テレグラフ紙は11月2日付で、「ブレグジット党は保守党が選挙協力に応じ、新離脱協定を破棄すれば、保守党の選挙区には候補者を立てず労働党の選挙区(ウェールズとイングランド北部)で150議席を奪う計画だ」と報じた。労働党の地盤を切り崩せれば、保守党は有利となる。しかし、ジョンソン首相は「選挙協力により保守党員が他党(ブレグジット党)に投票すれば、労働党のコービン党首が首相となる事態を招きかねない」(同紙)と述べており、拒否する構え。ブレグジット党が標榜するクリーンブレグジットでは有権者の保守党離れを助長する恐れがある一方で、ブレグジット党が全選挙区に候補者を立てれば、保守党との票の取り合いが懸念される。新首相は12月13日に決まる。(了)

The US-Euro Economic File代表

英字紙ジャパン・タイムズや日経新聞、米経済通信社ブリッジニュース、米ダウ・ジョーンズ、AFX通信社、トムソン・ファイナンシャル(現在のトムソン・ロイター)など日米のメディアで経済報道に従事。NYやワシントン、ロンドンに駐在し、日米欧の経済ニュースをカバー。毎日新聞の週刊誌「エコノミスト」に23年3月まで15年間執筆、現在は金融情報サイト「ウエルスアドバイザー」(旧モーニングスター)で執筆中。著書は「昭和小史・北炭夕張炭鉱の悲劇」(彩流社)や「アメリカ社会を動かすマネー:9つの論考」(三和書籍)など。

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