ECB、FRBの金融緩和継続を歓迎―欧州南北格差拡大が今後の課題か

世界の金融関係者が注目する中、9月18日の米FRB(連邦準備制度理事会)の公開市場委員会は、懸念された第3弾の量的金融緩和(QE3)の縮小を決定せず、金融引き締めへの転換を先送り決定したことで、主要メディアやエコノミストの間ではECB(欧州中央銀行)は当面、ユーロ圏の金融市場の混乱を回避できるとの見通しが強まってきた。

ECBのアスムッセン理事=ECBサイトより
ECBのアスムッセン理事=ECBサイトより

今回のFRB決定に先立つ9月10日、ECBのヨルグ・アスムッセン理事(元ドイツ財務次官)はブリュッセルでの講演で、出口戦略(利上げへの転換や量的金融緩和からの脱却を目指す戦略)のリスクについて、「米国の景気回復が強まった1994年初め、FRBは金融引き締めに転換して利上げを開始した。その結果、米国だけでなく世界各国の債券市場が暴落し、(債券価格と反対方向に動く)利回りが急騰した」と指摘。その上で、「1994年の金融市場の混乱が大きい方だったと見るならば、もし、同じことが世界の金融市場が相互に密接に絡み合っている今日に起きれば、市場混乱の規模はもっと大きくなる」と警告していた。

ただ、アスムッセン理事は、「1994年当時、米10年国債の利回りが急騰した10回のうち8回までは予想より良かった経済指標に債券市場が(インフレ加速懸念に)過度に反応したためだ」とし、「(FRBの利上げ転換という事実よりも)インフレ期待の上昇懸念に対する市場の過剰反応の方が問題だった」と指摘している。

英紙フィナンシャル・タイムズ(『FT』)のラルフ・アトキンス記者は9月17日付電子版で、「FRBのQE3の早期解除の憶測が5月ごろから市場に流れ始めてからは、新興国でも金融市場の混乱が起こり始めた。その意味でアスムッセン理事の警告は正しいといえる」とし、さらに、「FRBの次期議長の後継者レースから量的金融緩和に懐疑的なローレンス・サマーズ氏(オバマ米大統領の前経済問題顧問)が脱落し、ハト派(景気リスク重視の金融緩和派)のジャネット・イエレン副議長が最有力候補となったとの17日の報道で、新興国の債券相場が堅調となった」と報じたように、いかに欧州だけでなく新興国にとってもFRBの金融引き締め転換に神経質になっているかが分かる。

話は前後するが、アスムッセン理事は、「1994年の教訓として、ECBが7月に発表したフォワードガイダンス(中銀がゼロ金利の継続期間を明示するなど市場との対話を通じて金利上昇圧力を軽減する金融政策の指針)で、当分の間、低金利を維持するとした。これによって、もし、FRBが金融引き締めに転換したとしても、ECBがすぐに追随利上げに走らないということが明確に債券市場に伝わり、債券の利回りが急騰(価格は暴落)するという混乱の再現を阻止できる」としている。FTのアトキンス記者は、「これ(ガイダンスの導入)は、1994年の大混乱は世界各国の中央銀行が景気回復によるインフレ加速懸念を強め一斉に利上げに走ると市場の思惑が原因だったことへの反省からだ」という。

FRB先送り決定、ユーロ圏短期金利の低下促す

ロイター通信が9月19日に伝えたところによると、FRBの毎月850億ドル(約8.4兆円)もの長期国債とMBS(不動産担保証券)の買い取りによるQE3の解除が先送りになった安ど感から、同19日のユーロ圏短期金融市場ではユーロ圏のインターバンク金利であるユーロ圏無担保翌日物平均金利(EONIA)とユーリボー(欧州銀行間取引金利)がいずれも6週間ぶりの低水準となった。これはQE3の継続は、ドルに限らずユーロなどの流動性資金が欧州市場に潤沢に、より長期にわたって供給され続けることを意味し、インターバンク金利の低下を促したからだ。

ECBはFRBの決定前まで、ユーロ圏のインターバンク金利が高止まりしていたため、景気回復の障害になるとして懸念していた。マリオ・ドラギECB総裁も9月初め、ユーロ圏の景気回復がまだ緒に就いたばかりの時期に、こうした高い短期金利の状況は容認できない、としていた。それだけにFRBの先送り決定は景気回復の腰折れを是が非でも避けたいECBにとっては朗報となっている。

デンマーク金融大手ノルディア銀行のチーフアナリスト、アンダース・スベンセン氏もロイターの9月19日付記事で、「今回のFRBの決定は、世界の各中央銀行が当分の間、ハト派のスタンスを維持することを意味し、追加利下げをしやすい環境を整えた」と分析する。実際、19日の3カ月物EONIAの利回りを見ると、ECBの政策金利であるリファイナンス金利の0.5%を超えて0.75%になるのは2015年9月となっており、FRB決定前の2015年4月から5カ月も利上げ転換時期が後ろにずれ込んだ。

しかし、英大手会計事務所アーンスト・アンド・ヤング(『EY』)は9月18日に発表した最新リポート「ユーロ圏経済予測2013」で、ユーロ圏経済は4~6月期GDP(国内総生産)が前期比0.3%増と、7四半期ぶりにプラス成長となり、ようやくリセッション(景気失速)を脱し、今後も財政緊縮の緩和の動きや世界貿易の拡大で緩やかながら成長が見込める状況になったが、南北経済格差の拡大が新たな問題として浮上してくる、と警告する。

EY予測によると、ユーロ圏全体の今年の成長率は0.5%減となるが、10~12月期は緩やかな成長し、来年は0.9%増(全世界は2.1%増)、2015~2017年は年率1.5%増(全世界は2014~2017年で3.5%増)になると予想しているが、この低成長は失業率が来年半ばに約2000万人の失業者に相当する12.6%になるため、企業投資が制約され、生産拡大も抑えられるからだ、としている。

それよりも、EYが危惧しているのは、2014年のスペインとギリシャ、ポルトガルの失業率は各27.6%、29%、18.8%となる半面、ドイツとオランダ、ベルギーはわずか5.4%、7.4%、8.6%と格差は拡大することだ。EYの上級エコノミック・アドバイザーのマリー・ディロン氏は、「雇用状況だけでなく、企業の借り入れコストでも南北格差が拡大する。ユーロ圏の政策決定者は依然として気を緩めることはできない」という。ユーロ圏の危機脱却の道のりは遠い。(了)