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ブラジル中銀、利上げサイクルは短命か―インフレ、4-6月期から低下へ

増谷栄一The US-Euro Economic File代表

ブラジル中央銀行は先月17日の金融政策決定会合で、インフレ懸念が強まったとして、約2年ぶりに利上げに転換した。しかし、中銀が今後も引き続きインフレ抑制のため、長期にわたって利上げするかどうかといえば疑問符がつきそうだ。

ブラジル財務省のネルソン・バルボサ経済政策局長は4月29日に行われたブラジル銀行傘下のブラジル銀行保険の会合に出席した際、記者団に対し、インフレの先行きの見通しについて興味深いコメントを述べている。

3月のIPCA(拡大消費者物価指数)は前年比6.59%上昇と、1年4カ月ぶりに中銀の今年と来年の物価目標(2.5-6.5%)と中央値(4.5%上昇)を上回り、インフレ見通しに赤信号が灯ったが、バルボサ局長は、「今年末時点で、IPCAは5-5.5%上昇に低下する」と述べ、さらに、「来年には物価目標の中央値の4.5%上昇にまで低下する」と指摘している。

インフレが低下するという根拠について、同局長は、昨年は干ばつ被害でブラジル国内と世界の穀物相場の上昇でインフレが加速したが、「これから農業の収穫期に入るため、(これまでの食料品物価の上昇圧力が緩和され)インフレは4-6月期と下期(7-12月)は低下していく」と指摘している。

また、バルボサ局長は、経済成長率の見通しについても、今年は、昨年の0.9%増から3.5%増に加速すると見ている。通常、景気が強まればインフレも加速し始めるのだが、同局長は、「成長率が加速する一方で、過剰な需要の増大は避けられるため、需要インフレは起きず、むしろ低下する」という。

中銀の利上げは一時的

中銀の金融政策についても、同局長は、「(中銀は)インフレの加速が需要過多と直接関係していない場合でも、供給不足によって生じる物価上昇と戦わなければならないときがある」とし、あくまでも今回の利上げ転換は、干ばつ被害による農産物の収穫量の減少に起因する一時的な物価上昇という認識だ。その上で、同局長は、「(従って)中銀の利上げは一時的なもので長期化することはない」と述べている。

中銀が先月22日に発表した先週の経済週報「フォーカス・ブルティン」でも、同中銀の委託を受けた民間アナリストが予想した次回5月28-29日の金融政策決定会合時の政策金利(翌日物金利誘導目標)の見通しは、前週予想の7.75%のまま据え置かれている。

また、2013年末時点の政策金利の見通しは、前週予想の8.5%から8.25%へ引き下げられており、利下げが続くという見方は後退しているのだ。 (了)

The US-Euro Economic File代表

英字紙ジャパン・タイムズや日経新聞、米経済通信社ブリッジニュース、米ダウ・ジョーンズ、AFX通信社、トムソン・ファイナンシャル(現在のトムソン・ロイター)など日米のメディアで経済報道に従事。NYやワシントン、ロンドンに駐在し、日米欧の経済ニュースをカバー。毎日新聞の週刊誌「エコノミスト」に23年3月まで15年間執筆、現在は金融情報サイト「ウエルスアドバイザー」(旧モーニングスター)で執筆中。著書は「昭和小史・北炭夕張炭鉱の悲劇」(彩流社)や「アメリカ社会を動かすマネー:9つの論考」(三和書籍)など。

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