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米3月新規雇用者数、微増で4‐6月期以降の景気に赤信号点灯

増谷栄一The US-Euro Economic File代表

米労働省が5日に発表した3月の新規雇用者数(非農業部門で軍人除く、季節調整済み)は、前月比わずか8万8000人増と、昨年6月以来9カ月ぶりの低い伸びとなり、前月の26万8000人増(改定前は23万6000人増)の約3分の1にまで急減したことから、米国の多くのエコノミストは1‐3月期のGDP(国内総生産)伸び率は3%増と強い結果を予想しているものの、4‐6月期以降は2.2%増に減速すると予想しており、景気の先行きに赤信号が点灯したとの見方が強まっている。

また、3月の新規雇用者数は19万2000人増と比べても半分以下でいかにショックが大きかったかが

失業率推移=Briefing.comより
失業率推移=Briefing.comより

分かる。ただ、雇用者数は全体として2010年10月以降、26カ月連続でプラスの伸びを続けている。この結果を受けて、先週末のニューヨーク株式市場では主要株価指数のダウ工業株30種平均は一時、前日比171ドルも急落し、その後、持ち直したもの、それでも40.86ドル安の1万4565.25ドルで引けている。

一方、失業率は前月の7.7%から0.1%ポイント低下の7.6%と、2007年12月以来の5年3カ月ぶりの低水準となった。通常、新規雇用者数の増加ペースが人口の自然増を吸収して失業率の上昇を食い止めるために必要な月平均12万5000人増を上回り、失業率を短期間でかなり低下させるためには25万人増が必要といわれるが、今回はそれらを大幅に下回っているのにもかかわらず、失業率が低下している。

つまり、今回の失業率の低下は、新規雇用者数の増加によるポジティブな結果ではないということだ。

労働参加率、34年ぶり低水準の63.3%に低下

これは前月(2月)の雇用統計で見つかった問題点が3月にも当てはまる。労働力人口(就業者数と求職者数の合計)が前月比で50万人も減少し、労働市場への参加の程度を示す労働力人口比率(労働力人口を軍人除く16歳以上の総人口で割ったもの)も前月の63.5%から、1979年以来34年ぶりの低水準の63.3%にまで低下したことだ。

これは求職者が減少したこと、言い換えると、就職難から仕事を探すことをあきらめた人が3月だけで50万人も増加したことを意味する。米経済分析サイト、ブリーフィング・ドット・コムによると、仮に2月の労働力人口比率が前月と変わらなかった場合、失業率は7.9%だった、と指摘している。

今回、失業率が低下したのは、統計上、分母の労働力人口の減少幅(前月比0.3%減)よりも分子の失業者数の減少幅(同2.4%減)が大きかったためだ。統計上、職探しをあきらめている人は失業者として分類されず、反対に働く意思をもって仕事を探すようになれば失業者として分類される。このため、失業者数が減ったのは、職探しをあきらめた労働者が増えたためと見られる。ちなみに、3月の失業者数は前月比29万人減だった。

失業率については、前回2月の雇用統計の記事でも指摘したように雇用統計で発表される表向きの失業率だけで判断すると誤解を招きやすい。米国でリセッション(景気失速)が始まった2007年12月以前の労働人口比率は66.2%と高水準だったが、3月の雇用統計でもこの比率が続いていたと仮定すると、失業率は12%くらいになり、3月の失業率が7.6%に低下したとはいえ、それは求職を断念した人が増えたことによる労働人口比率の低下が要因なので素直には喜べないのだ。

失業率の低下、FRBの金融政策変えるほどでない

また、失業率が7.6%に低下したとはいえ、FRB(米連邦準備制度理事会)が今の金融政策を超低金利政策から利上げに転換し、量的金融緩和からも脱却する、いわゆる“出口戦略”に方向転換するほど改善しているわけではない。

FRBは出口戦略への転換を決める判断基準として、(1)失業率が6.5%を下回ること(2)1-2年先のインフレ率がFRBの長期達成目標(2%上昇)を0.5%ポイント超えない見通しであること(3)インフレ期待が抑制されていること―の3点を挙げているが、2月の失業率はこの6.5%の基準を依然として大幅に上回っている。失業率が2013年末までに、リセッション(景気失速)前の2007年12月の5%の水準に戻るには月平均40万人増が必要といわれるが、まだ、それにも程遠い状況だ。

長期失業者比率、39.6%に低下

ただ、失業状態の深刻さを示す6カ月以上(27週間)の長期失業者数は、前月の480万人から3月は461万人と、3.9%減少(改善)した。また、失業者全体に占める長期失業者の比率も前月の40.2%から39.6%に低下。前年同月の水準(42.2%)も下回った。しかし、それでも、長期失業者数は依然高水準には変わりはない。

全体の失業者数は前月比2.4%減の1174万人となったが、2007年12月のリセッション前の水準(2007年11月時点で724万人)の1.6倍で、依然高水準。これは景気回復のペースが緩慢なため、民間企業の雇用が慎重になっているためだ。

広義の失業率、13.8%

一方、広義の失業率(狭義の失業者数に、仕事を探すことに意欲を失った労働者数と経済的理由でパート労働しか見つからなかった労働者数を加えた、いわゆる、“underemployed workers”の失業率)は前月の14.3%から13.8%へ、2カ月連続で低下した。

しかし、正規雇用をあきらめて、やむを得ずパート労働者(involuntary part-time workers)となった数は前月の799万人から3月は764万人へと、3カ月ぶりに減少に転じた。1年前の766万人とほぼ同じ水準に戻ったものの、依然、高水準だ。

新規雇用者数は、2007年12月のリセッション入り以降、2008年と2009年で計866万人減少し、2010年に計102万人の純増が見られたにすぎない。2010年は月平均8万5000人の増加ペースだったが、2011年は210万人増となり、月平均では17万5000人増と、増加ペースは加速した。

2012年は217万人増(月平均18万1000人増)とさらに加速し、同年時点で計529万人の雇用が回復したものの、866万人の雇用損失を帳消しにするにはあと337万人の雇用増が必要となる。今年3月までの過去4カ月の月平均は約18万人増なので、このペースで行けば過去の雇用損失を完全に取り戻すことができるのは、今から約19カ月後の2014年9月ごろになる計算だ。

民間部門、9万5000人増=前月は25万4000人増

話は新規雇用者数に戻るが、前月(2月)の雇用者数は速報値の23万6000人増から26万8000人増へ、3万2000人の上方改定となった。また、前々月(昨年1月)に前回発表時の11万9000人増から14万8000人増へ、2万9000人の上方改定となった。その結果、前2カ月合計で6万1000人の上方改定となっている。

ところで、減少が続いている政府部門を除いた民間部門だけの雇用状況を見ると、3月は前月比9万5000人増と、市場予想の21万人増や前月の25万4000人増(改定前24万6000人増)を大幅に下回った。

これより先、4月3日に発表された政府の雇用統計を占う、大手給与計算代行会社ADP(オートマチック・データ・プロセッシング社)の3月のADP雇用統計(政府部門を除いた民間部門だけ)は前月比15万8000人増と、前月の23万7000人増(改定前19万8000人増)を下回り、20万人台を割り込んだ。

今回の政府統計の民間部門は9万5000人増だったので、このADP統計を大幅に下回っている。政府の雇用統計では、民間部門の昨年1年間の雇用増加数は224万7000人で、これは月平均18万7000人増となるが、3月分のデータはその水準を49%も下回っている。景気が2番底に向かわないためには、民間部門だけで月平均10万人増、さらに、景気回復が持続安定的に進むためには15万人増が必要と見られているが、これらの基準値を下回っている。

一方、政府部門は前月比7000人減となった。政府部門は昨年10月の5万7000人減から1月まで4カ月連続で減少し、前月は1万4000人増(改定前は1万人減)と増加に転じたものの、3月は再び減少に変わった。

◎3月失業率は7.6%=2月7.7%

◎3月サービス産業就業者、前月比+7万9000人=2月+18万1000人

うち、小売業就業者は同-2万4000人==2月+1万5000人

専門・ビジネスサービス業は同+5万1000人=2月+8万人

教育・健康関連サービス業は同+4万4000人=2月+3万1000人

レジャー・接待業は同+1万7000人=2月+2万6000人

政府部門就業者数は同-7000人=2月+1万4000人

◎3月建設業就業者数、同+1万8000人=2月+4万9000人

うち、住宅建築関連は同+2300人=2月+1100人

非住宅建築関連は同+1000人=2月+5200人

◎3月製造業就業者数、同-3000人=2月+1万9000人

うち、自動車産業、同+800人=2月+1300人

家具製造業、同-100人=2月+900人

◎3月1時間当たり賃金、23.82ドル=2月23.81ドル

◎3月週平均賃金、824.17ドル=2月821.45ドル

◎3月週平均労働時間、34.6時間=2月34.5時間

うち、製造業の週平均労働時間は40.8時間=2月40.9時間

製造業の週平均残業時間は3.4時間=2月3.3時間

◎3月週平均労働時間指数、98.2=2月97.9 (2007年=100)

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◎2月雇用者数、前月比+26万8000人へ上方改定=前回発表時+23万6000人

◎1月雇用者数、前月比+14万8000人へ上方改定=前回発表時+11万9000人  (了)

The US-Euro Economic File代表

英字紙ジャパン・タイムズや日経新聞、米経済通信社ブリッジニュース、米ダウ・ジョーンズ、AFX通信社、トムソン・ファイナンシャル(現在のトムソン・ロイター)など日米のメディアで経済報道に従事。NYやワシントン、ロンドンに駐在し、日米欧の経済ニュースをカバー。毎日新聞の週刊誌「エコノミスト」に23年3月まで15年間執筆、現在は金融情報サイト「ウエルスアドバイザー」(旧モーニングスター)で執筆中。著書は「昭和小史・北炭夕張炭鉱の悲劇」(彩流社)や「アメリカ社会を動かすマネー:9つの論考」(三和書籍)など。

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