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キプロス危機、ユーロ圏離脱や08年に起きたアイスランドの預金封鎖再現も

増谷栄一The US-Euro Economic File代表

欧州債務・金融危機の新たな震源地となっている地中海の小国キプロスのミハリス・サリス財務相が3月20日にロシアの首都モスクワに乗り込み、ロシア政府に対し金融支援を要請したことで、キプロス危機は第2幕に入った。しかし、

預金封鎖権限を持つキプロス中央銀行=中銀サイトより
預金封鎖権限を持つキプロス中央銀行=中銀サイトより

欧州銀行(ECB)は3月25日までに欧州連合(EU)などによる100億ユーロ(約1.2兆円)の対キプロス金融支援が決まらない場合、同日にキプロスの銀行への資金供給を停止するとの最後通牒を出したことで、キプロスのデフォルト(債務不履行)、そして、2008年にアイスランドで起きたような預金封鎖、ユーロ圏離脱の動きも同時進行し始めた。

サリス財務相の訪ソは、キプロス議会が3月19日に債務・金融危機を回避するため、いわゆるトロイカ(EUとECB、IMF(国際通貨基金))による同国への100億ユーロの金融支援の前提条件となっている58億ユーロ(約7100億円)の自己資金調達のための預金課税法案を否決したためだ。そこでプランAの預金課税に代わるプランB(代替案)で何とか58億ユーロを調達しようとしているのだ。

3月20日付電子版の米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)によると、プランBとして、ロシアからの金融支援や国営企業の民営化、増税(法人税とキャピタルゲイン税)、民間出資や国有財産などで団結基金を創設した上で特別債を発行して資金調達する案、さらには年金基金42億ユーロ(約5200億円)を国庫に入れることなどを検討しているが、年金基金案についてはトロイカの幹部は結局、キプロスの財政負担を増やすことになるだけとして難色を示している。

預金封鎖の可能性

他方、預金課税案も「ユーログループ」(ユーロ圏財務相会合)のイェルーン・ダイセルブルーム議長は10万ユーロ(約1200万円)超の大口預金者に限定した強制課税を主張しており、また、それより過酷な案がプランBに盛り込まれる可能性がある。英紙デイリー・テレグラフは3月21日付電子版によると、ユーロ圏各国の財務相は経営破たんの瀬戸際にあるライキ銀行とキプロス銀行の預金のうち、預金保険が適用されない10万ユーロを超える大口預金をバッドバンク(危ない銀行)に、10万ユーロ未満の預金はグッドバンク(優良な銀行)にそれぞれ移すという案を検討している。

同紙のデニス・ローランド記者らは「これは2008年に財政破たんしたアイスランドが危機回避のため、銀行預金を封鎖したやり方を真似るもので、バッドバンクに移された大口預金は銀行の資産が売却されるまで封鎖される。しかし、キプロス政府はこれでは大口預金の40%が損失を受けるため、最も被害が大きいロシアからの支援が得られず、キプロスのタックスヘイブン(租税回避地)としての存在価値も失われるとして反対している」と指摘する。

一方、キプロス中央銀行は21日にライキ銀行だけをバッドバンクとグッドバンクに分割して存続を案を発表し、政府はこの中銀案を含めたプランBの法案を議会に提出し、今週末の22日午前にも採決する見通しだ。

キプロスがロシアに金融支援を求めるのは政治的にも経済的にも深い関係があるからだ。米信用格付け大手ムーディーズ・インベスターズ・サービスは、昨年12月末時点で、ロシアの銀行がキプロスの銀行に預けている預金残高は190億ドル(約1.8兆円)、ロシアの企業が持っているキプロスの預金残高は120億ドル(約1.2兆円)で、計310億ドル(約3兆円)と推計。デフォルトになれば500億ドル(約4.8兆円)の損失を受けるという。

キプロス危機は単にEUとキプロスの問題ではなく、キプロスの背後にいるロシア、そして英国連邦のキプロスには6万人もの英国人(うち2万人が年金生活者)が居住し2大銀行の預金封鎖の影響を受けるため、英国も巻き込む政治の駆け引きと化す様相を呈している。英労働党のピーター・マンデルソン元ビジネス・イノベーション・技能相は、デイリー・テレグラフ紙の3月21日付電子版で、「キプロス救済は政治的な色合いがあり、特殊で、他の国の救済モデルにはならない」と特殊性を指摘する。他方、ロシア証券大手アトン・キャピタルのストラテジスト、ピーター・ウェスティン氏はWSJの3月20日付電子版で、「ロシアは、最初にユーロ圏がキプロスに金融支援を実施して、それでも不足する場合、支援に乗り出すという欧州の出方待ちの姿勢だ」と見ており、政治的な駆け引きが続いている。(了)

The US-Euro Economic File代表

英字紙ジャパン・タイムズや日経新聞、米経済通信社ブリッジニュース、米ダウ・ジョーンズ、AFX通信社、トムソン・ファイナンシャル(現在のトムソン・ロイター)など日米のメディアで経済報道に従事。NYやワシントン、ロンドンに駐在し、日米欧の経済ニュースをカバー。毎日新聞の週刊誌「エコノミスト」に23年3月まで15年間執筆、現在は金融情報サイト「ウエルスアドバイザー」(旧モーニングスター)で執筆中。著書は「昭和小史・北炭夕張炭鉱の悲劇」(彩流社)や「アメリカ社会を動かすマネー:9つの論考」(三和書籍)など。

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