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キプロス、ロシアに金融支援要請 ―キプロス危機は第2幕へ

増谷栄一The US-Euro Economic File代表

債務・金融危機に直面している

キプロスのサリス財務相=財務省サイトより
キプロスのサリス財務相=財務省サイトより

キプロスのミハリス・サリス財務相が20日、ロシアの首都モスクワを訪問し、ロシア政府に対し金融支援を要請したことで、キプロス危機は第2幕に入った。

サリス財務相の訪ソは、キプロス議会が19日に債務・金融危機を回避するため、いわゆるトロイカ(EU(欧州連合)とECB(欧州中央銀行)、IMF(国際通貨基金)の3国際機関)による同国への100億ユーロ(約1.2兆円)の金融支援の前提条件となっている預金課税を実現するための法案を否決したことを受けて行われたものだが、ロシアのイゴール・シュワロフ第1副首相とアントン・シルアノフ財務相との会談では何も具体的な成果は得られなかった。

それでもサリス財務相は今後もモスクワに残り、ロシアから金融支援の約束を取り付けるまでは辛抱強く協議を続ける意向を明らかにしている。20日の協議は1時間半にわたったが、会談後、サリス財務相は「協議は建設的だった状況は困難だがロシアの支援が得られるよう協議を続ける」と述べている。

会談内容は明らかにされていないが、キプロス側はロシアに対し、2016年に返済期限を迎えるキプロスへの期間5年の25億ユーロ(約3050億円)の融資返済期限の5年延長に加え、50億ユーロ(約6200億円)の新規融資を要請したと見られている。

また、米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は20日付で、キプロス政府はロシアから金融支援を獲得するため、ロシア人が持っているキプロスの銀行預金に20‐30%課税するのと引き換えに、キプロス沖の油・ガス田開発プロジェクトの事業体の株式(開発権)取得とキプロスの複数の銀行の経営支配権を与えるという交換条件を提案した可能性がある、と報じている。

これについては、ロシアのドミトリー・メドベージェフ首相はロシア国営ラジオ局ボイス・オブ・ロシアの20日付電子版で、西側のメディアとのインタビューに答える形で、「もし、キプロスがロシア企業に預金課税を課すようなことになれば、キプロスとの間で合意した二重課税免除の合意に違反することになり、2国間の問題として今後取り上げる可能性がある」と強硬な姿勢を示しており、預金課税を強行すればキプロスにとってロシア支援の獲得は暗礁に乗り上げる可能性がある。

また、同首相は、ロシア抜きでキプロス危機問題をトロイカとキプロスだけで協議するやり方について、「無神経極まりない」と強い不満を示しており、ロシアを含めた拡大協議を求めていることもロシアからの金融支援を難しくしているようだ。

ただ、キプロスのニコス・アナスタシアディス大統領はロシア政府からロシア訪問の招待を受けており、近く、ウラジーミル・プーチン大統領とトップ会談が開かれるほか、ジョゼ・マヌエル・バローゾEC(欧州委員会)委員長も21日にロシアを訪問する予定だ。

20日付のWSJによると、キプロス政府は強制的な銀行預金課税法案が議会で否決されたことから、58億ユーロ(約7200億円)の自助努力による資金調達を達成するため、代替案として、年金基金42億ユーロ(約5200億円)を国庫に入れることを検討しているが、トロイカの幹部は、結局はキプロスの財政負担を増やすことになるだけとして難色を示している。

また、政府は経営が悪化しているライキ銀行とキプロス銀行の不良債権をバッドバンク(危ない銀行)に移した後に合併させてグッドバンク(優良な銀行)とし、その上で、ロシア2位の国営金融大手VTB(対外貿易銀行)に売却することをも検討しているが、VTBは買い取る計画はないと冷淡な対応だという。

他方、キプロス政府は、25億ドル(約2400億円)の自己資本増強を必要としている同国の大手行キプロス・ポピュラー・バンクの幹部がモスクワを訪問し、ロシアの投資家に10億ドル(約960億円)での身売りを提案したとの地元メディアの観測記事を否定している。

ロシア証券大手アトン・キャピタルのストラテジスト、ピーター・ウェスティン氏は、WSJの20日付電子版で、「ロシアは、最初にユーロ圏がキプロスに金融支援を実施して、それでも不足する場合、支援に乗り出すという欧州の出方待ちの姿勢だ」と見ている。

キプロス中央銀行によると、1月現在のキプロスの銀行預金残高は680億ユーロ(約8.4兆円)で、そのうち、キプロス人の預金は430億ユーロ(約5.3兆円)、外国人の預金は200億ユーロ(約2.5兆円)超となっており、その大半はロシア人の預金だという。

また、米信用格付け大手ムーディーズ・インベスターズ・サービスの推計によると、昨年12月末時点で、ロシアの銀行がキプロスの銀行に預けている預金残高は190億ドル(約1.8兆円)、ロシアの企業が持っているキプロスの預金残高は120億ドル(約1.2兆円)で、計310億ドル(約3兆円)となっている。もし、預金課税が当初の計画通り実現すればロシアの企業と個人は約20億ドル(約1900億円)の損失、また、デフォルトになれば500億ドル(約4.8兆円)の損失を受けることになる。 (了)

The US-Euro Economic File代表

英字紙ジャパン・タイムズや日経新聞、米経済通信社ブリッジニュース、米ダウ・ジョーンズ、AFX通信社、トムソン・ファイナンシャル(現在のトムソン・ロイター)など日米のメディアで経済報道に従事。NYやワシントン、ロンドンに駐在し、日米欧の経済ニュースをカバー。毎日新聞の週刊誌「エコノミスト」に23年3月まで15年間執筆、現在は金融情報サイト「ウエルスアドバイザー」(旧モーニングスター)で執筆中。著書は「昭和小史・北炭夕張炭鉱の悲劇」(彩流社)や「アメリカ社会を動かすマネー:9つの論考」(三和書籍)など。

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