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ベトナム消費者の8割、「リセッションに入った」と認識

増谷栄一The US-Euro Economic File代表

東南アジアの新興市場国として脚光を浴びているベトナムの昨年の経済成長率が5%増(推定)と、1999年の4.8%増以来の低い伸び率に落ち込み、景気低迷感が漂っているが、先週、米市場調査大手ニールセンが四半期ごとに実施している「世界消費者信頼感・購買動向調査」で、ベトナムの消費者の約8割が同国の経済がリセッション(景気失速)に入っていると認識していることが分かった。

調査結果によると、ベトナムの昨年10-12月期時点の消費者信頼感指数は88と、7-9月期調査時点を1ポイント上回ったものの、1年前の前年同期の調査時点を11%ポイント下回った。この指数は100が「楽観的」と「悲観的」の分かれ目となっているので、悲観度合いが一段と強まっていることが分かる。

また、ベトナム経済の状況について、回答全体の79%が「リセッションにある」と指摘。リセッションに入った時期についても、全体の76%が「昨年7-9月期」とし、「昨年の年初」と回答したのは18%だった。

さらに、雇用状況については、「良い」と「かなり良い」と回答した割合は全体の37%を占め、7-9月期時点の40%を下回り、1年前の時点の58%を大幅に下回った。今年の懐具合が「良くなっている」と「かなり良くなっている」と予想する割合は全体の44%となり、1年前の時点でより10%ポイント低くなっている。

社会科学院、今年が景気の底になると予想

しかし、ベトナム社会科学院(VASS)が最近発表した景気見通しでは、ベトナム経済は景気循環的には今年が景気の底になる可能性が高く、今年から2015年にかけて景気回復期に入ると予想している。

ただ、その後、ベトナム経済が持続安定成長の軌道に乗るまでにはさらに相当な期間が必要になるとも指摘している。今年の成長見通しについては、最も楽観的なシナリオでも昨年の5.03%増から5.3%増となるものの、政府予想の5.5%増を下回ると予想している。その上で、政府の景気刺激策が今後必要になるとし、具体的な政策として、生活必需品に対するVAT(付加価値税)の税率を0.5-5%引き下げることや所得税の見直しを7月まで待たずに早急に実施すべきだと提言している。

今年は消費財・不動産セクターでM&Aブームか

その一方で、ベトナムは今年、消費財・不動産セクターでM&A(企業の買収・合併)ブームを迎えると、多くの専門家が指摘している。

専門家は、多くのベトナム企業は潜在成長性があるものの、世界的な景気低迷で経営がぜい弱になっている上に、経営のノウハウや経験が浅く、経営戦略の立案能力にも欠けていることから、外国の大手投資家にとって格好のM&A対象になっていると分析している。

実際、すでに外国投資家は乳業最大手ビナミルクや食品加工大手マサングループ(MSN)、菓子大手キンド食品(KDC)、レストランチェーン大手ゴールデン・ゲートへの投資に成功しており、ベトナムのピザ専門のピザ・ホームの創業者ホアン・チュン氏は、今年は米国のバーガーキングやサブウェイ、ドミノ・ピザ、スターバックス、マクドナルドなど大手外食チェーン大手がベトナム市場への参入を計画していると指摘している。

また、ベトナム通信(5日付電子版)によると、ホーチミン不動産協会のレ・ホアン・チャウ会長は、不動産セクターも最近の株式市場の低迷を映して、不動産銘柄も安くなっていることから、個別の不動産プロジェクトを買収するよりも株式市場を通じて不動産会社を丸ごと買い取った方がいいとも述べている。(了)

The US-Euro Economic File代表

英字紙ジャパン・タイムズや日経新聞、米経済通信社ブリッジニュース、米ダウ・ジョーンズ、AFX通信社、トムソン・ファイナンシャル(現在のトムソン・ロイター)など日米のメディアで経済報道に従事。NYやワシントン、ロンドンに駐在し、日米欧の経済ニュースをカバー。毎日新聞の週刊誌「エコノミスト」に23年3月まで15年間執筆、現在は金融情報サイト「ウエルスアドバイザー」(旧モーニングスター)で執筆中。著書は「昭和小史・北炭夕張炭鉱の悲劇」(彩流社)や「アメリカ社会を動かすマネー:9つの論考」(三和書籍)など。

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