Yahoo!ニュース

東京都8区市で「ひきこもり家族会」続々誕生

池上正樹心と街を追うジャーナリスト
(ペイレスイメージズ/アフロ)

 東京都内では、今年度1年間に8区市で「ひきこもり家族会」が続々と誕生する見通しであることがわかった。

 そのうちの1つ、国立市では2月11日(日)、市の社会福祉協議会の呼びかけで、「ひきこもり大学家族学部inくにたち」を開催し、参加した家族や当事者らで家族会を設立する予定だ。

 ひきこもり大学とは、発案者である「ひきこもり」当事者によれば、親の会や支援団体に行くと、「どうやって外に出てきたの?」「親にどうしてほしかった?」などと質問攻めに遭うので、そんなに聞きたいことがあるのなら、ネガティブだと思っていた“空白の履歴”にも価値があるのではないかという考えから生まれたアイデア。話を聞きたい人たちには自分の元に来てもらって、自分が講師になって経験や思い、知見などを授業する。「だったら、ひきこもり大学だよね」と、発案者がネーミングして始まった当事者発信活動だ。

 学部や学科名は、講師が伝えたいテーマに合わせて、自由にネーミングする。

 今回、国立市で開講される家族学部父親学科、母親学科は、まさに講師を家族たちが務め、ひきこもる子、あるいは兄弟姉妹との向き合い方などの経験や知見を伝えようというものだ。 

糸のようなつながりを続けて

 同市社協では、2014年以来、地域の困りごとの解決を手伝う「コミュニティーソーシャルワーカー(CSW)」を配置し、現在は3人で全地区をカバーしている。

 この間、「ひきこもり」というカテゴリーだけでは括れない、社会的孤立に手が届きにくい現状を目の当たりにしてきた。

 象徴的なのは、親が亡くなって初めてわかる「8050」世帯の問題だ。子どもにSOSを出す力がなく、地域で孤立している親が認知症になってしまったような事例では、家の中で親は自分のシモの世話もできなくなっていたことが、初めてわかったりする。

 家の庭が密林状態になっていたり、ゴミ屋敷のようになっていたりして、近所から「あの家、おかしい」と連絡してくることもある。そうした家庭を訪ねると、両親が亡くなって、社会の誰ともつながっていない当事者がいることも少なくない。

 お金はある家なのに滞納が続き、誰もいないのかと思ってライフラインを止めてしまったこともあった。

「文教都市のイメージを持たれていますが、もっと早めに気づけなかったのか?という思いが、私たちの中に残っているのです」(同市社協)

 現在は、CSWたちが、電話で生存確認したり、玄関のドアをノックしたり、手紙やチラシをポストに入れたりしているという。

「親御さんが体調悪くなると、(親も)こちらに来れなくなるので、我々がアウトリーチして、お手紙を入れ続けている。糸のようなつながり。いつ切れてもおかしくない。それでも、見捨ててないよ、とお伝えし続けています」

 市社協では、家族には1人で抱え込まずに、まずは家族に関わってもらうことが大事だとして、家族会の必要性に辿り着いた。

 CSW主任、奥村真以子さんも、弟がひきこもっていたという家族の立場でもある。今回のひきこもり大学では、メインで父親と母親が講師を務めるほか、彼女も姉の立場から語る。

父が変わり始めて出られるように

 これまで奥村さんは、弟のことをオープンにしてこなかったし、弟と話すこともなかった。正月、姉の立場で(家族会で)話してもいいか?と、ドキドキしながら聞いたら、「いいんじゃない」と言われて驚いた。

 そのことをきっかけに、初めて突っ込んだ話をした。

 弟は、人によって傷つけられ、不登校になり、ひきこもっていた。それまで、家の中で荒れる弟の存在を否定している自分がいた。

 ところが、そういう弟を一切認めなかった父親が変わり始めて、丸ごと受け入れるようになった。

 弟を否定していた奥村さんも含め、家族が変わったことで、弟は一歩、出られるようになった。

 たまたまホームレス支援の人とつながり、いろんな人と出会って、支援活動の場に受け入れらたことで、社会に出ていけるようになった。

 そんな話の詳細も、11日のひきこもり大学の中で、聞けるかもしれない。

他の家族会と連携して連絡協議会も

 都内の家族会は、国立市外にも、すでに今年度、設立済みの足立区や八王子市をはじめ、杉並区、荒川区、豊島区、練馬区、日野市でも立ち上げの準備が進められていて、3月末までの1年間に8自治体で発足することになりそうだ。

 各地域で家族会の立ち上げを応援しているのは、KHJ全国ひきこもり家族会連合会の東東京支部「NPO楽の会リーラ」だ。今後は、KHJ家族会として歴史の古い西東京「萌の会」(中央区)や「グループコスモス」(大田区)をはじめ、町田市、北区、西東京市など、大小の既存の会にも声をかけ、ネットワーク化を目指し、都内に連絡協議会をつくって、9月頃にはイベントも企画している。

 家族はひきこもる本人を近隣に隠したがることが多く、抱え込んでいる悩みを誰にも言えないことが、長期高齢化の背景の1つにもなっている。

 なかなか自分の住んでいる自治体にはカミングアウトできない一方で、近隣の自治体であれば、相談に行きやすいという人たちも多い。

 国立市社協でも「多くの自治体に家族会が立ち上がれば、広域で連携して、地域や家族会の色で選べるようになるのではないか」と期待する。

 ひきこもっていても、恥ずかしいことではない。「カミングアウトしても大丈夫」という空気に、まず自分の地域が変わることによって、孤立していた親子も動き出せるようになる。

 11日のイベントは午後1時20分から、くにたち福祉会館4階大ホールで。「楽の会リーラ」スタッフの大橋史信氏がファシリテーターとなって、家族講師たちの話を聞く。参加費無料。申し込み不要。お問い合わせは、csw@kunitachi-csw.tokyo(送信の際は「@」を半角の「@」に変換してお送りください)電話042-580-0294、FAX042-575-3554まで。

心と街を追うジャーナリスト

通信社などの勤務を経てジャーナリスト。KHJ全国ひきこもり家族会連合会副理事長、兄弟姉妹メタバース支部長。28年前から「ひきこもり」関係を取材。「ひきこもりフューチャーセッション庵-IORI-」設立メンバー。岐阜市ひきこもり支援連携会議座長、江戸川区ひきこもりサポート協議会副座長、港区ひきこもり支援調整会議委員、厚労省ひきこもり広報事業企画検討委員会委員等。著書『ルポ「8050問題」』『ルポひきこもり未満』『ふたたび、ここから~東日本大震災・石巻の人たちの50日間』等多数。『ひきこもり先生』『こもりびと』などのNHKドラマの監修も務める。テレビやラジオにも多数出演。全国各地の行政機関などで講演

池上正樹の最近の記事