すべての傷はつながっている。当事者親子が対話する映像とは

映像作品『わたしの傷/あなたの傷』(31分)。母親が出演協力した。渡辺さん提供

 世間ではネガティヴに見られがちな「ひきこもり」経験や様々な「こころ」の問題をアートの価値の中に捉え直して、積極的に話をしたい――困窮した当事者の世界をアートによってアプローチしようという、現代美術家・渡辺篤さん(39歳)の映像作品『わたしの傷/あなたの傷』上映&トークイベント「当事者性と表現」が、1月20日(土)午後7時(午後6時40分開場)から、東京湾岸にある天王洲セントラルタワー別館1階「Art Alone Place」で開催される。

 ひきこもり経験者でもある渡辺さんは、昨年8月、六本木ヒルズで個展『わたしの傷/あなたの傷』を開催。「あなたの傷を教えてください」というプロジェクトを通じて応募してきた様々な人たちの辛辣でリアルな言葉を展示した。

 これは、自分の傷ついた経験や視点を通じて、どうやって他者の傷につながるかを社会や自分自身に提案しようという試み。「すべての傷はつながっている」というコンセプトのもと、様々な他者の傷を見せることで誰もが自分の中に持っている傷に気づき、社会の痛みを知るきっかけにもなるのではないかと考えたという。

 また今回、上映される映像は、8月の個展でもインスタレーション(空間芸術)として流されていたもの。映し出されているのは、セメント素材の実家のミニチュアをつくり、渡辺さんと母親が対面しながら、一緒にハンマーで壊す。そしてふたたび、一緒に修復していく過程の中で、お互いの当事者視点の立場を回想しながら対話していくという30分ほどのドキュメントだ。

 そこには、元当事者同士の親子が向き合って、一方を命令に従わせるのではなく、お互いの言い分を可視化しながらアートとして修復し、それぞれの当事者問題と接続させる、そんな仕掛けが施されている。

 渡辺さんの母親はこれまで、1人の人間として息子と向き合うことは、ほとんどなかったという。

「家の中においては、夫の妻であり、母親であるという役割性の中で、自分の立場を私に見せてきた。そんな母が、映像作品の中では、まるで女優のスイッチが入ったかのように、1個人として饒舌にしゃべり出す。対話の中で、自分の弱みを吐き出し始めちゃったんですね。僕も予想外のことで、息子としては面白い部分でもありました」

渡辺さんがひきこもった実家のミニチュア(渡辺さん提供)
渡辺さんがひきこもった実家のミニチュア(渡辺さん提供)

 

 昨今、収入のない子と親が共に高齢化していく「8050(はちまるごーまる)」世帯の問題が話題になっているが、当事者である子どもの側に話を聞くと、多くの親世代は体裁を気にして、子に弱さを見せないようにする傾向が強い。

「自分も無自覚に、親子の関係性の中で守られていたり恩恵を受けられる関係性の中で生きていたりする。同時に、守らなければいけない他者がいることに気づかされることは、自分の存在を構造的に客観視できて、自分の弱さだけに執着しなくて済みます」(渡辺さん)

 出演者である渡辺さんが母親と対等に向き合っている映像は、もう1つ別の視点で、天井からも映している。

「傷ついた当事者は、自分の傷に執着してしまう。傷つき続ける囚われの再生産をしている気がしていて、どのように自分の傷を癒すかという過程においては、自分以外の傷を知ることによる客観視、つまり、メタ認知の視点が、執着や捉われを和らげられると思うんです」

 イベントでは、映像作品を上映した後、やはり元当事者で「ひきこもり新聞」編集長の木村ナオヒロさんとのトークショーも行われる。

 木村さんは2016年11月、「メディアのひきこもり像を払拭したい」をコンセプトに掲げて、「ひきこもり新聞」という媒体を創刊。最近の“当事者発信”の時代の流れを切り開き、牽引してきた。

「木村さんは、当事者の集まる新聞というツールを通じて言葉を持っている。映像を見てもらっての感想や対話についての批評、当事者による当事者という概念などについて、意見交換したい」(渡辺さん)

入場料は500円(このイベント日のみの特別料金)。予約不要。問い合わせ:

渡辺篤ウェブサイト