【豊洲移転問題】土壌汚染について東京都が築地市場の人たちに約束してきた“ゼロリスク”

土壌汚染対策工事と地下水管理に関する協議会(6月28日・都庁)撮影:加藤順子

9月29日、豊洲新市場(江東区)敷地内で行われている地下水モニタリング調査で、ついに環境基準を超えるベンゼンとヒ素が検出された。

それを受け、東京都の小池百合子知事は、翌30日の定例会見で、今後の対応をこう語った。

「土壌汚染対策法の観点から、(汚染区域である)形質変更時要届出区域の指定解除のために行ってきた2年間のモニタリングは続けます。その後、市場問題プロジェクトの検証や、専門家会議座長、土壌汚染と地下水管理に関する協議会座長などの意見を聞いて、総合的に判断したい」

開場を認可する農水省の『改正土壌汚染対策法の概要』によると、同区域では、<汚染の除去の措置を行わず、盛土等のみを行った上、区域指定を受けたまま土地利用をすることは可能>であるものの、<生鮮食料品を取り扱う卸売市場用地の場合には想定し得ない>と明記している。

土壌汚染対策法にのっとって、同区域の指定解除を行うのであれば、汚染が残っているかどうかの周辺調査をした上で汚染対策を行い、そこから新たに2年間の地下水モニタリングで経過を見なければいけない。

「ただ、自然由来のものが含まれるということですから、そもそも指定解除ということにはならないのではないでしょうか」

そう説明した小池知事に、筆者が「汚染区域の指定解除を目指すことは、市場の人たちが求める安全宣言の前提となるものではなかったか?」と尋ねると、小池知事は、こう言いよどんだ。

「ど、土壌汚染…、土対法上の観点と、全体的な観点と、農林水産大臣のほうに、この土地は市場に適していますからと、お願いし…、するというポイントがありますから…」

いつも歯切れのよかった小池知事が、答えにくそうに話す光景を初めて見た。

埋め立て地である豊洲埠頭の有害物質には、ガス工場の操業由来と自然由来のものがある。

基準を超えたベンゼンは操業由来のもので、ヒ素はどちらかわからないが、以前、高濃度汚染されていた箇所から見つかっていることから、操業由来の可能性もある。

「食の安全が守られない」「市場としてふさわしい場所なのか」というリスクがずっと指摘されてきたこの土地で、都は移転に当たり、「安全宣言」の前提となる汚染区域の指定解除を求める市場の人たちに対し、操業由来の汚染物質の除去をさんざん説明してきた。

例えば、2014年11月27日に開かれた最後の「第18回技術会議」(座長・矢木修身東京大学名誉教授)では、土壌汚染対策法に基づいて地下水モニタリングの採水を開始し、「地下水と土壌の現在汚染しているものを完全にきれいにする」ことを確認している。

今年6月28日に開催された都の「第7回土壌汚染対策工事と地下水管理に関する協議会」(座長・細見正明東京農工大学大学院教授)でも、「地下水基準の超過があった場合、該当する街区内の全ての井戸で再モニタリングを実施し、環境基準の超過が確認されたら、対策を実施していく」と、市場団体の代表者たちの前で説明している。

当初、都の豊洲移転への方針に反対してきた市場の業者たちも、「都がそこまで言うのならば、豊洲に行くしかない」と、苦渋の決断をしてきた歴史的な経緯がある。

操業由来の有害物質の除去と汚染区域の指定解除は、全敷地での4・5メートルの盛り土と並んで、「安心・安全」の前提になるものとして、これまで都が市場の人たちについてきた約束だった。

しかし、明確な食品の安全基準があるわけではなく、自然由来の有害物質は残すことになり、今から思うと、指定解除への都の返答もどこか曖昧だった。

状況を熟知しているはずの小池知事の答弁は、その「曖昧さ」から来るものだったのかもしれない。また、移転時期に関わる判断だけに「総合的に判断します」と濁すしかなかったのかもしれないし、今は判断するタイミングではなく、今後の選択肢のカードとして取っておきたかったのかもしれない。

「自然由来の汚染が残るから指定区域の解除ができない」という話は、都の中央卸売市場当局が最近になって説明し始めたものだ。もしかすると、そう知事も事前に市場の職員から吹き込まれたのだろうか。

「“こんな土地、現実的に無理でしょ?”“お願いだから止めてくれ!”って何十回と訴えてきた。そのたびに都の土壌や建築の担当者が“いや、大丈夫ですから”“技術を駆使してやります”と難しい話を俺らにしてきたのに、今度は言い訳ばかり。いったい何やってんだよ!」

すでに1億円以上をかけて「豊洲移転」の準備を進めてきた水産仲卸業者は、そう怒る。

都が「築地再整備」から「豊洲移転」へと方針転換して以来、築地市場の人たちは20年以上にわたって移転問題に翻弄され、「移転容認派」と「反対派」に分断されてきた。

「みんな、しょーがねえなって、豊洲もできちゃってるし。あそこまで都が言ってるんだから、こっちだって腹を真ん中に据えて命をかけて豊洲移転に賛成したんだよ。それが“都を信用しないでどうするんだ?”って移転を説得してきた人たちまで騙しておいて、本当に行政は悪だよ」

その怒りの矛先は、専門家や技術者にも向けられる。

「“人体に影響はない”とか“触れなければいい”とか言ってる専門家や外部の人がいるけど、我々当事者からしてみれば、ここまでウソつかれた土地に行かされて、本当に買わなくなったときに誰が商売の責任とってくれるのか。専門家や技術者が保証してくくれるのか。“人体に影響ない”とか、そういう問題ではない。ふざけてる。安心安全がここまでブレてきたら、本当の安心安全は我々のエンドユーザーである消費者が決めることであって、もう都が何やろうと信用してないよ」

「豊洲移転」に1000万円以上を予定し、すでに数百万円を支払ったという別の仲卸業者も、こう落胆する。

「お客様からは“豊洲に移転したら買いに行かない”と言われ、デパートやホテルからも“豊洲のモノは売りたくない”って言われてます。お金のことはともかくとして、もう無理ですよ」 

6日と7日の両日、水産仲卸の東京魚市場卸協同組合(東卸)では、組合員向けに説明会を開催する。

しかし、東卸から4日付で組合員に配布された文書には、9月21日の組合総代報告会での<発言内容が録音され、その音声の一部が、テレビ番組内で流されました>として、今回の説明会では<録音行為を禁止すると共に、万が一発見した場合は、録音機器を没収>などと記されるなど、すでにピリピリムードが漂う。

9月28日の所信表明で小池知事が、東京市第7代市長・後藤新平氏の「自治三訣」を引用し、「溢れんばかりの贅肉を付けてしまった巨大な肥満都市東京を叱っている気がする」と都庁に勤めるすべての者に向けて発したメッセージは、格調高く心に訴えかけるものだった。

「公の意識を持合ない者が、個の利害のために、公益を捻じ曲げることがあってはなりません。私利私欲を満たすことがあってはなりません。私たちは、今改めて、後藤新平に問われている気がします。あなたは、“人のお世話にならぬよう、人のお世話をするよう、そしてむくいを求めぬよう”に努めているかと」

そんな小池知事の言葉に、前出の仲卸業者は、こう明かす。

「もういいんじゃない。小池さんの言ってることは間違ってない。歴代知事がやれなかったことをやっている。当時から、都の市場職員の中にも“どうせ豊洲に市場なんてできっこない”と、言ってた人がいるけど、結局、その通りになった。開場2か月前になって、こんなにいろいろ出ちゃってさ。やっぱり神様がいるんだよ。“あんな所、絶対行っちゃいけない”って、言ってるんだと思うよ」