我慢しなくていい空気感がみんなの「つながりたい」を刺激する―福島のひきこもり大学から感じたこと

生きづらさ学部発達障害学科の講師を務めた大橋史信さん

「“ひきこもり経験”を価値に変えたい」――そんな当事者たちの思いを伝える「ひきこもり大学KHJ全国キャラバン2015」http://khj-c.net/が始まった。

ひきこもり大学とは、ひきこもっている本人や経験者が講師となって、経験を通じて得た見識や知恵などを自らの意思で自由に伝えようという対話形式の講義で、発案者は、都内の30歳代の当事者。同大学には、「他人からは無駄に見える“空白の時間”も決して無駄ではない」ことを家族や社会に理解してもらい、関係性を改善したいという当事者の思いが詰まっている。

今回、キャラバンを主催しているのは、当事者ではなく、唯一のひきこもり家族会全国組織であるNPO「全国ひきこもりKHJ家族会連合会」(池田佳世理事長)。日本財団の助成を受けた事業で、すでに5月からスタート。今年度は、全国22カ所で開催される。

筆者も初めて6月28日、そんなキャラバンの一環で開催された「ひきこもり大学in福島」に、進行役として参加した。

この日の1限目の講義は、生きづらさ学部発達障害学科として、講師の大橋史信さん(35歳)が、ひきこもっていたときの経験から、親にしてほしかったこと、してほしくなかったことなどを約60人の参加者に伝えた。

2限目では、大橋講師の話を受けて、4~5人のグループごとに対話した。一方、話すのは苦手だけど場の空気を共有していたい参加者のために、見学席も設けられた。

3限目では、希望者が感じたことなどをみんなに共有。ファシリテーターは、これまでもたびたび「ひきこもり大学」の運営を手伝ってきた『ひきこもりフューチャーセッション「庵‐IORI‐」』https://www.facebook.com/iorihikiのスタッフ2人が務めた。

参加者との約束事で、話し合われた内容を紹介することはできない。ただ驚いたのは、これまでずっと言葉にすることを我慢してきた人たちの「みんなとつながりたい」「動き始めたい」意識を刺激した柔らかな空気だ。

「友だちができました。いつか自分が中心となって、このようなイベントを開催してみたいです」

30歳代の男性当事者は、ひきこもり大学に参加して、そう意識が変わったと明かす。

「地方でもこのような催しがもっとあればと思いました。とりあえずいろいろなイベントに参加してみたい。いろいろな人の話を聞きたい」

また、同じく最近までひきこもっていたという八巻光さん(30歳)は、「みんなとつながることが、初めはとても怖かった」という。

10年前、大学生のとき、一緒に社会的な活動をしてきた大切な仲間が自殺し、助けられなかった自分を責め続けた。

「ひきこもり大学に参加し、人とつながって行動を共に起こしてみたいという気持ちがわいたのは、予想以上に僕たちのひきこもり体験で抱いた感想が同じだったからです。多様な感性をまとめて、1つの一致点を見い出だす。これならラクに、楽しくやれる。つながることでしかできない大きなアクションをやれる。ふと勇気がわきました」

この日、八巻さんらは、福島に当事者団体「リーブ(libre)」を立ち上げた。ネーミングは、フランス語の自由という意味から名付けられ、「みんながそれぞれ縛られている自分の外からの圧力や偏見、障害物から自由な状態になることを目指せたらいいな」ということや、「そうした状態を目指すために努力するのは、無理やりではなく、自分の素直な気持ちに従ってであってほしい」などの思いが込められている。

13日には情報共有のための初会合も開かれるという。

「福島でも、こんなことできるんだ」。

終了後の「ふりかえり」で、そんな主催者のKHJ家族会福島支部スタッフのコメントが印象的だった。

思いや感じたことを言葉にしてもいいんだという安心感をつくりだすのは、その場にいる参加者たちなんだとつくづく感じる。そんな勇気を後押しするうえで、ファシリテーター2人の存在も大きかったように思う。

ちなみに今後、ひきこもり大学は、7月4日に大阪で「生きたくないけど、生きなしゃーない」学科(当事者主催)のほか、全国キャラバンとしては、同4日に青森、11日に徳島、12日に宮崎、18日に愛媛、26日に横浜、8月23日に仙台、9月6日に水戸、12日に大阪…と、各地で開催される予定だ。