マイクロソフト、iPad攻略作戦を開始

マイクロソフトのタブレット、Surfaceを発表するパノス氏

マイクロソフトを悩ませていた”パーソナルコンピュータ”における求心力低下を止める手段はあるのか。北米を中心にしたiPadの浸透は急進的なもので、個人が所有し使うコンピュータという意味でのパーソナルコンピュータは、WindowsパソコンからiPadへと移り変わろうとしている。10インチ前後の画面サイズを持つ端末の大多数はiPadであり、他製品が手出しできないほどの存在感になってしまった。

その結果、先日アップルが強調したように、iPadには9.7インチ画面に最適なレイアウトでユーザーインターフェイス設計がされた27万5000本のアプリケーションが集まっている。デスクトップ型アプリケーションが無数に存在するWindowsだが、タブレットの全画面アプリの世界では新参者であることは明らかだ。

マイクロソフトWindows事業担当社長のスティーブン・シノフスキー氏は、iPadを逆転する手立ては十分に揃ったと考えている。マイクロソフトは10月25日、米ニューヨーク市に作った特設会場でWindows 8を発表。パートナー各社とWindows対応製品を搭載するコンピュータの発表を行った後、満を持して自社のブランドを初めて掲げたパーソナルコンピュータ「Surface」を発表。自らハードウェアを開発することで、消費者に対して”PCの次に来るなにか”を自分たち自身で示した。

アップルの”ポストPC”に対する、マイクロソフトの回答

マイクロソフトCEOのスティーブバルマー氏は「パソコンが何かという既成概念を完璧に打ち砕く製品を作った」と、自らがその礎を築いてきたパソコンの世界を打ち砕き、新しい製品カテゴリを創造していくという気概を激しく語った。

マイクロソフトCEOスティーブ・バルマー氏
マイクロソフトCEOスティーブ・バルマー氏

ハードウェア開発部門のトップ、パノス・パネイ氏は「Windows 8は今の時代、今の技術を鑑みてWindowsを再創造したものだが、SurfaceはWindows 8世代のパーソナルコンピュータの姿をマイクロソフトの視点から再創造したものだ」と話したが、その仕上がりは想像以上のものだった。

英語の”Surface”には、現れる、表面化するという意味もある。北米市場が、”PCはもう古い。新しいパーソナルコンピュータの形はiPadだ”という方向に傾きつつある中、それが欧州市場へも飛び火しそうなのが現状。しかし、古いPCの次に本命として登場するのは自分たちだ、という気持ちを表しているのだろうか。

パネイ氏は「なぜマイクロソフトがSurfaceを作る必要があったのか。それはマイクロソフトが考えるパーソナルコンピュータの姿を表現する必要があったからだ。たいていの機能はソフトウェアで実現できる。しかし、ハードウェアでなければ表現できないこともある。我々がサーフェイスに情熱を傾けてきた理由は、ユーザーが新しい世代のコンピュータを使うときの体験を、ユーザーの手元に製品が届くところまできちんとコントロールし、演出したいと考えたからだ。そのためにソフトウェアとハードウェアを一体化した開発を行う必要があった」と話した。

過去のWindowsパソコンを改良するのではなく、過去のWindowsとの互換性を持たせながら、新しいスタイルのコンピュータを求めることで、Windows=旧世代というイメージを払拭しようとしている、と筆者は感じた。

端々に見えるiPadへの対抗意識

Windows部門責任者のスティーブン・シノフスキー氏
Windows部門責任者のスティーブン・シノフスキー氏

従来のWindowsパソコンよりも、”これからのパーソナルコンピュータ”を考慮したというマイクロソフトは、一方で具体的な名前こそ出さないものの、Surfaceが備えるスペック、デモの端々にiPadへの対抗意識を見せている。

たとえば10.6インチの画面サイズは、よく見るとiPadの9.7インチ4:3ディスプレイをそのまま16:9に引き延ばしたように見える(厳密に一致というわけではないが)。パノス氏は、10.6インチという他にないユニークなサイズはWindows RTマシンとしての使いやすさとモバイル性のバランスに拘った結果生まれたものだと話す。

Windows RTであるSurfaceでは既存のアプリケーションは動かない。多くはWindows 8用の全画面アプリケーションになるだろう。全画面アプリケーションならば、10.6インチ16:9の画面は使い勝手がちょうど良くなるという(余談だが16:9で使いやすくなるよう、画面分割などの工夫がWindows 8には施されている)。

タイプ、色を選んで付け替えることが可能なキーボード
タイプ、色を選んで付け替えることが可能なキーボード

液晶は広視野角タイプでClear Typeに対応しており、オプティカルボンディング(前面パネルと液晶面の間を樹脂で埋める加工。コントラストが良くなり画質が向上する)で、低反射コーティングも施しているのはiPadと同じだが、表面の耐指紋性加工はSurfaceの方が優れていると感じた。

筐体は”VaperMag Case”と呼ばれているもので、マグネシウム合金にマグネシウム合金蒸着加工を行い、丈夫で軽量なボディを実現している。同一強度ならアルミの1/3の薄さで作ることができる、蒸着加工で凹凸がついているため、指紋も付きにくい。

「なぜ、ここまで時間とエネルギーをハードウェアに注ぐのか。それは、パソコンを手にした時の体験が重要だからだ。デバイスを最初に手にした時、とてもいい感触が手から伝わり、軽量でなければならない。また、画面を見たときに暗く見えてはだめだ。明るいディスプレイも必須。こうした条件の中で1.5ポンド(680グラム)の軽さを求めた」とパネイ氏。

他にもキックスタンドを取り付け、Micro SDカードスロットを通じてメモリカードに収めた映画を飛行機の中で10時間以上見れるといった部分にもこだわりがある。「無線LANのアンテナも2x2のMIMOで、ホテルからは「この部屋はWiFiが届かない」と言われた場所で完璧に受信できた(パネイ氏)」

iPadの弱点(アンテナの性能、メモリカードスロット、スタンドの有無など)を狙ったデモが続く。デジタル一眼レフカメラとUSBで接続し「ほら、すぐに読み込んでブログが書けるよね。世の中にある4億2000万以上のデバイスとすぐにつながるんだよ」と、ハーバード大学在住の女子大生を発表会に招いてデモしてみせたのも、写真の取り込みひとつとっても自由がないiPad(彼らは決して口にすることはなかった)を意識したものであることは間違いない。

マグネット・カプリングのキーボードは振っても本体が落ちることはない
マグネット・カプリングのキーボードは振っても本体が落ちることはない

パネイ氏はFlex Foundというマグネット式ジョイントでつながるキーボードを操作しながら、このジョイントがいかに優れているかを力説した。このジョイントはキーボード側をつまんで振ってみても、本体が離れて落ちないよう設計されている。にもかかわらず、取り外す時は一瞬だ。

アップルのMag Safeとよく似た電源コネクタもあった。ただし、落としたとしても大丈夫。「体験会場で実際に落としても構わないよ。絶対に壊れないから(パネイ氏)」

Surfaceは全米に60店舗を展開するMicrosoft Storeと、インターネット上のMicrosoft Online Storeで明日、10月26日から販売が開始される。価格は32Gバイト版で499ドル。実物は高性能かつ、とても高い質感を持っていた。iPadを多分に意識した価格だが、実は条件は同じではない。

Type Keyboardを使えばノートPCライクな使い勝手を実現できる
Type Keyboardを使えばノートPCライクな使い勝手を実現できる

なぜなら同じメモリ容量でも、フリーで使える空き容量が異なるためである。Windows RTはOS本体のサイズがiOSよりも大きい上、ベータ版のMicrosoft Officeがバンドルされている。32Gバイト版の残り容量は13Gバイトに足りない程度(リカバリー領域などと推定される)だ。

ただし、マイクロソフトのSkyDriveが7Gバイトを無償で利用できる。iPadには存在しないMicroSDカードスロットを活用すれば、ストレージ不足はあまり問題ないという人も多いと思う。しかし、本当の問題はそこにはない。マイクロソフトの課題は、彼らがこれまで経験したことっがなかったところにある。それはWindows 8専用アプリケーションの不足である。

おそらくマイクロソフトはWindows 8専用アプリケーションを増やすことに成功するだろうが、現時点で豊富に存在するわけではない。メジャーなSNSの純正クライアントさえない(ただし、SNS連動はOSそのものに、ある程度は組み込まれている)。マイクロソフトは有数の開発ツールベンダーでもあり、多くの開発者がマイクロソフトのツールでコードを書いている。しかし、スマートフォンやタブレットのアプリケーションを書いている人たちとは、少しばかり毛色が違うことは否めない。

Windows 8が新たなコンピューティングスタイルの創造を目指している以上、使い方の中心はWindows 8専用アプリになるだろう。特にWindows RTは、従来のアプリケーションがそのままでは動作しない。将来、Windows 8専用アプリが増える確率が高いとはいえ、現時点で数が少ない事実は覆せない。互換性が一番の売りであり続けたWindowsがアプリ不足に悩むとは実に皮肉なことだが、iPad用に最適化された27万5000本までは望めないにしろ、メジャーなネットワークサービスのアプリを揃えていく必要はある。

個人的な第一印象は良いSurfaceだが、もう少し使い込んだら、どうだろう。感想は変化するだろうか・サクサクと動いているSurfaceが、とつぜん機嫌悪くなったりするのだろうか。早速、ニューヨークのMicrosoft StoreでSurfaceを個人購入してみた。ひとまず日本語言語キットをインストールし終えたところ。近いうちに、詳細なインプレッションをお届けするようにしたい。

(初出時、SkyDriveの無償領域を25Gバイトとしていましたが、正しくは7Gバイトです。ただし過去に25Gバイトが付与されていたユーザーは25Gバイトを利用可能です)