Yahoo!ニュース

「温泉で亡くなる人が続出」は本当か 冬場の安全な入浴のポイントとは?

市川衛医療の「翻訳家」
(写真:アフロ)

 先週、ツイッター上で、ひとつの投稿が話題になりました。

 12月22日(金)に、あるユーザーが「温泉評論家さんから聞いた話」を投稿したところ、広く拡散。現在、投稿は削除されているようですが、25日夜の時点で確認したところ、投稿に付いたリツイートといいねの数はそれぞれ5万件以上にのぼっていました。

 内容を要約すると、下記のようなものです

・毎年風呂で亡くなる人は約2万人。5千人は自宅で、後の1万5千名は温泉などで亡くなっている

・防ぐには「旅館に着いたらお茶とお菓子をとる」「朝風呂の前には水分補給する」

 本当だとしたら、とても重要な情報です。投稿した方も、誰かのお役に立ちたいという思いからつぶやかれたと思います。

 ただ、もし情報が間違っていた場合、誤解が広がってしまう可能性もあります。そこで実際のデータを、少し調べてみました。

入浴中に亡くなる人は1万9千人との推計も。ただし温泉で亡くなる人は少ない

 まず調べたのは、厚生労働省の人口動態統計です。1年間で亡くなった人の死因ごとにデータを公表しています。

 

厚生労働省 平成28年(2016)人口動態統計(確定数)の概況より
厚生労働省 平成28年(2016)人口動態統計(確定数)の概況より

 赤枠で示した「不慮の溺死もしくは溺水」の数を確認すると、7705人となっています。川や海などでおぼれた人も含めての数ですので、入浴中のケースはもっと少なくなると考えられます。

 溺死(おぼれて亡くなる人)が交通事故(5278人)の死者数より多いというのは意外ですが、2万人と比べるとずいぶん少ないですね。

 ただこの数字には、入浴中にとつぜん心臓病を発症して、死因が「心臓病」となった場合などは含まれないのだそうです。

 そこで、こうした入浴中の病気も含んだ死亡者数のデータが無いか調べたところ、2015年に厚生労働省研究班による報告書(※1)が出されていることがわかりました。

 報告書によると、病気なども含めた入浴中の死亡者数は、年間で1万9千人以上と推計されるとのことです。ただ、報告書では同時に次のデータも示しています。

文献1より引用。平成23年人口動態統計における発生場所別の溺死・溺水者数
文献1より引用。平成23年人口動態統計における発生場所別の溺死・溺水者数

浴槽内での溺死・溺水では家における発生が80%を超えている。

出典:文献1より

 実際のところ、入浴中の死亡の大部分は自宅で起きているようです。

 さらに報告書では、温泉地では、たとえ入浴中に異変があって救急車で搬送されても、心肺停止にまでは至らず救命される割合が多いとするデータも示しています。

文献1より引用
文献1より引用

 

 考えてみれば、温泉地や銭湯など公衆浴場では、他にも入浴客がいるケースが多いと思われます。おぼれたときに早く発見される可能性が高く、自宅より安全と言えるかもしれません。

 というわけでまとめると、実際には温泉でたくさんの人は亡くなっていないし、温泉は自宅より危険ではないといえそうです。

入浴中の事故が多い日本 高齢者は特に危険

 それにしても、推計で年間1万9千人もの人が入浴中に死亡しているというのは驚きです。

画像:Pixabay
画像:Pixabay

 実は日本は、国際的に見た場合、入浴中に亡くなる人がとても多い国なんだそうです。

文献1より 各国男性の年齢別の溺死率(10万人当たり、WHO2000-02データより作成)
文献1より 各国男性の年齢別の溺死率(10万人当たり、WHO2000-02データより作成)

 年代別に、おぼれて亡くなる人の割合を示したグラフです。他の国に比べて日本が多く、特に、65歳以上を示す赤のグラフが突出して高いことがわかります。この多くが、入浴中の事故です。

 高齢になると、温度の変化にあわせて血液の流れを調整するなどの働きが衰えます。そして日本では熱い風呂に長くつかるのが好きな人が多く、それが入浴中の事故につながっていると指摘されています。

 特に気温が下がって入浴時との温度の変化が大きくなる冬場(12月~2月)は、入浴中に亡くなる方が最も多くなります。たとえ持病がなかったとしても、ご高齢のかたの場合は気を付けたほうが良いかもしれません。次に示す「安全な入浴のポイント」を参考にしてみてください。

安全な入浴のポイント

画像

(文献2より抜粋 全文はこちらを)

(1)入浴前に脱衣所や浴室を暖める

 温度の急激な変化はリスクになります。入浴前に浴室や脱衣所を暖めておくことが体への負担を減らすポイントです。お湯を浴槽に入れる時にシャワーから給湯すると、蒸気で浴室の温度を上げることができます。

※脱衣所などで暖房器具を使用するときは、火事や熱傷に気を付けてください。

(2)湯温は41 度以下、湯に漬かる時間は10 分までを目安に

(3)浴槽から急に立ち上がらない

 入浴中、体にはお湯による水圧がかかっています。急に立ち上がると、体にかかっていた水圧が無くなり、血管が急にひろがって意識障害を起こすことがあります。浴槽から出るときは、手すりや浴槽のへりを使ってゆっくり立ち上がるようにするのがおすすめです。

(4)アルコールが抜けるまで、また、食後すぐの入浴は控える

(5)入浴する前に同居者に一声掛けて、見回ってもらう

 入浴中に体調の異変があった場合は、早期に対応することが重要です。ただ意識を失ったり、気分が悪くなったりして自力では浴槽の外に出られないこともあるかもしれません。

 ご家族などと同居している場合は、入浴前に一声掛けてからお風呂に入ったり、家族が寝ている深夜や早朝の入浴は控えるなどの対策が勧められています。

(参考文献)

※1 入浴関連事故の実態把握及び予防対策に関する研究 : 厚生労働科学研究費補助金循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究事業

[堀進悟], 2014.3平成25年度総括・分担研究報告書

全文へのリンクはこちら

※2 消費者庁ニュースリリース「冬季に多発する高齢者の入浴中の事故に御注意ください! 」平成29年1月25日

全文へのリンクはこちら

医療の「翻訳家」

(いちかわ・まもる)医療の「翻訳家」/READYFOR(株)基金開発・公共政策責任者/(社)メディカルジャーナリズム勉強会代表/広島大学医学部客員准教授。00年東京大学医学部卒業後、NHK入局。医療・福祉・健康分野をメインに世界各地で取材を行う。16年スタンフォード大学客員研究員。19年Yahoo!ニュース個人オーサーアワード特別賞。21年よりREADYFOR(株)で新型コロナ対策・社会貢献活動の支援などに関わる。主な作品としてNHKスペシャル「睡眠負債が危ない」「医療ビッグデータ」(テレビ番組)、「教養としての健康情報」(書籍)など。

市川衛の最近の記事