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河野行革相のスタンドプレーに文科省は振りまわされているのだろうか

前屋毅フリージャーナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 文科省が学校と保護者間での押印廃止に向けた検討を各教育委員会に促したのは10月20日のことだった。ところが河野太郎行政改革担当相が、それを予告するような文章を「Twitter(ツィッター)」に書き込んでいる。まるで「やらせたのは自分だ」と言わんばかりで、これでは文科省の立場がないではないか。

河野行革相はなぜ先回りしたのか

 文科省が各教育委員会などに向けて「学校が保護者等に求める押印の見直し及び学校・保護者等間における連絡手段のデジタル化の推進について」という「通知」をだしたのは、10月20日のことである。しかし歯切れが悪い内容で、どうにも「腰が引けている」印象でしかないのは前回の記事でもふれている。

前回記事、「押印廃止は、わざわざ文科省が『通知』で指示するようなものなのか」

 なぜ、文科省は歯切れが悪かったのか。それは、河野行革担当相のツイッターでの書き込みにも関係しているのかもしれない。以下が、10月15日の彼の書き込みである。

「保護者と学校の間のやりとりに関して、学校の業務の効率化、保護者の負担軽減の視点から文科省が動きます。近々の発表に乞うご期待」

 この書き込みと押印見直しの「通知」との関係が気になったある教育関係者が文科省に確認してみたところ、「近々の発表」が「通知」であることを認めたという。つまり、文科省の発表を、河野行革相が事前に通告していたことになる。河野行革相のスタンドプレーでしかない。

 さらに勘ぐれば、押印見直しにあまり積極的ではない文科省の尻を河野行革相が叩いているようにもおもえてくる。だから文科省の「通知」は腰が引けているように読めるのかもしれない。

 そこまでは勘ぐり過ぎかもしれないのだが、文科省の動きを河野行革相が事前に承知していたことだけは確かである。

学校と保護者間の押印は行政手続きなのか

 10月7日に開かれた初の規制改革推進会議で菅義偉首相は、すべての行政手続きについて書面や押印を抜本的に見直すよう指示した。これを受けて、政府は年末調整書類の押印を不要とする検討をはじめているし、22日に警察庁は道路使用許可や車庫証明の申請など警察が関係する全315の行政手続きについて申請者の押印を廃止することを決めた。菅政権が目玉としているデジタル化推進のためである。

 これを取り仕切っているのが河野行革担当相である。10月16日の会見で彼は、約1万5000の行政手続きのうち「99.247%の手続きで押印を廃止できる」と言明し、自らが押印廃止の先頭に立っていることをアピールしている。

 押印について河野行革相は、文科省にも対応を求めたはずである。それも、インパクトのある対応を求めたはずだ。学校と保護者間の押印であれば、保護者も関係することなので関心を惹いて、インパクトも強い。押印廃止に注目を集めるには、絶好の対象ではないだろうか。

 しかし、菅首相が指示しているのは「行政手続き」における押印の見直しである。学校と保護者間の押印は、はたして行政手続きなのだろうか。かなり微妙であり、文科省としても躊躇いがあったのではないか。その背中を押したのが、もしくは尻をたたいたのが河野行革相だったとも考えられる。どちらにせよ、文科省が発表する前に、それを予告してしまう河野行革相のやり方には違和感を感じる。

フリージャーナリスト

1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。2021年5月24日発売『教師をやめる』(学事出版)。ほかに『疑問だらけの幼保無償化』(扶桑社新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(kkベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『全証言 東芝クレーマー事件』『日本の小さな大企業』などがある。  ■連絡取次先:03-3263-0419(インサイドライン)

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