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ますます子どもと教員を追い詰める全国学力テストの日程発表

前屋毅フリージャーナリスト
(写真:アフロ)

 全国の学校が新型コロナウイルス感染症(新型コロナ)で長期休校となった学習の遅れを取り戻すために必死になっているなかの7月10日、文部科学省(文科省)は2021年度の全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)の実施日程を発表した。

 当初は来年4月20日の実施を予定していたというが、それが5月27日と約1ヶ月後ろ倒しする。理由は、休校の影響で教育課程の遅れた分を次の学年に繰り越しする学校への「配慮」だという。

 文科省は5月15日に、休校の長期化で生じた学習の遅れを「複数年度」で解消することを認める通知をだしている。ただし進学を控えている小6と中3だけは年度中に終えること、としている。

 ともかく、たとえば小1でやるべき今年度の教育課程が年度中に終えられなかった場合、小2になってからやってもいい、というのが通知の趣旨だ。そうなると小2では、小1から持ち越された分と、本来の小2の分をやることになる。やるべきことが多くなるわけで、多すぎて終えられない分がでるかもしれない。それは小3に持ち越していけば、だんだんに消化していける可能性もある。だから、文科省は「複数年度で」としたのではないか、と考えることもできる。

 しかし10日公表の全国学力テスト日程では、休校での遅れを年度を繰り越して指導する学校がある可能性に配慮して、当初予定より1ヶ月ほど後ろ倒ししたと説明しているという。「配慮」と受け取れないこともないが、つまりは「持ち越ししても全国学力テストまでには終えろ」という「無言の圧力」を強く感じられる。「長期休校での遅れを複数年度で解消」としていたにもかかわらず、実は「早急に遅れを解消しろ」と言っているにすぎないのだ。

 さらに、全国学力テストが実施されるとなると、順位を上げるために教育委員会や学校は必死になるはずだ。新型コロナ以前と同じように、過去の問題をやらせたりのテスト対策を盛んにやることになるだろう。

 子どもたちや教員は、長期休校で遅れた教育課程を取り戻すための早足の授業にくわえてテスト対策にも取り組まなければならないことになる。子どもたちや教員は、さらに急ピッチでの学校生活を強いられるわけで、追い込まれることになる。なんのために文科省は、そんな状況にしようとしているのか。不思議、と言わざるをえない。

フリージャーナリスト

1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。2021年5月24日発売『教師をやめる』(学事出版)。ほかに『疑問だらけの幼保無償化』(扶桑社新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(kkベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『全証言 東芝クレーマー事件』『日本の小さな大企業』などがある。  ■連絡取次先:03-3263-0419(インサイドライン)

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