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学力日本一が自殺の要因とする福井県議会の判断に、文科省は聞く耳をもつのか

前屋毅フリージャーナリスト
(ペイレスイメージズ/アフロ)

 今年3月に福井県の中2男子生徒が担任の行き過ぎた叱責が原因で自殺した問題で、12月19日、福井県議会が教育行政の抜本的な見直しを求める意見書を可決した。

 意見書は、「学校の対応が問題とされた背景には、学力を求めるあまりの業務多忙もしくは教育目的を取り違えることにより、教員が子どもたちに適切に対応する精神的なゆとりを失っている状況があったのではないかと懸念するものである」と指摘している。

 多忙で精神的なゆとりを失い、子ども一人ひとりと向き合っての適切な指導ができなかった。それが、自殺にまで追い詰めるような叱責につながったというのだ。

 そして多忙の原因を、「学力を求めるあまりの業務多忙」とも指摘している。ここでいう学力とは、「全国学力テストでの成績」もふくまれている。文部科学省(文科省)の実施する全国学力テストで、福井県は10年連続で上位の成績を続けている。文科省方針を忠実に実践している「模範県」なのだ。

 それが教員の多忙を生み、生徒と適切に向き合えず、自殺につながった。そこを福井県議会は反省し、次のように意見書に述べている。

「このような状況は池田町だけにとどまらず、『学力日本一』を維持することが本県全域において教育現場に無言のプレッシャーを与え、教育、生徒双方のストレスの原因となっていると考える」

 さらに意見書には、強い表現が続く。「これでは、多様化する子どもたちの特性に合わせた教育は困難と言わざるを得ない」

 文科省が推し進めてきている学力重視、全国学力テストの成績重視に対する批判と聞こえる。多様化する子どもたちの特性を伸ばしていくためには、学力日本一にこだわらず、生徒一人ひとりと教員が向き合える環境が必要だと訴えているのだ。

 福井県議会の訴えに、福井県の行政はどう応えていくのだろうか。文科省は、こうした声に耳を傾けるのだろうか。

フリージャーナリスト

1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。2021年5月24日発売『教師をやめる』(学事出版)。ほかに『疑問だらけの幼保無償化』(扶桑社新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(kkベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『全証言 東芝クレーマー事件』『日本の小さな大企業』などがある。  ■連絡取次先:03-3263-0419(インサイドライン)

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