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ハトをひき殺して逮捕の運転手が不起訴に…浮かび上がった問題は #専門家のまとめ

前田恒彦元特捜部主任検事
(写真:イメージマート)

東京都内の路上でハト1羽をひき殺したとして昨年12月に逮捕されたタクシー運転手の事件を覚えているでしょうか。青信号に変わった途端、ハトの群れに向かって急加速し、時速約60キロで突っ込んだというものでした。「鳥獣保護法違反」という異例の罪名とも相まって大々的に報じられましたが、結局、勾留には至らず数日で釈放され、1月16日付で不起訴となっています。犯罪報道や刑事司法に関する様々な問題が浮かび上がったことから、参考となる記事をまとめました。

通行人の110番通報で逮捕された男性は、取調べに対して「道路は人間のものなのでよけるのはハトの方」などと供述していた

実名や送検される姿まで報じられたが、「しっかり罰するべき」という声と同じくらい「やりすぎ」などと違和感を示す声があがった

動物は法律では「物」とされており、この考え方が知らず知らずのうちに国民に浸透していることが炎上の根底にあるとみる弁護士も

逮捕状発付の要件を欠く事件であり、裁判所は令状自動発券機だと指摘する弁護士と、逮捕には何の問題もなかったと主張する元刑事

急ブレーキや急な進路変更をしたら通行人やほかの車と衝突して大事故になる状況だったので「緊急避難」としてやむなく直進してしまったとか、不注意による「過失」でハトをひき殺してしまったとしても、鳥獣保護法違反に問われることはありません。今回はあえて急加速し、「故意」に突っ込んだという点が問題とされました。

東京地検は不起訴の理由を明らかにしていませんが、動機や経緯が何であれ、鳥獣保護法違反に当たることは確かです。初犯であることや逮捕報道で社会的制裁を受けたことなどを考慮したうえでの「起訴猶予」ではないかと思われます。(了)

元特捜部主任検事

1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。刑事司法に関する解説や主張を独自の視点で発信中。

元特捜部主任検事の被疑者ノート

税込1,100円/月初月無料投稿頻度:月3回程度(不定期)

15年間の現職中、特捜部に所属すること9年。重要供述を引き出す「割り屋」として数々の著名事件で関係者の取調べを担当し、捜査を取りまとめる主任検事を務めた。のみならず、逆に自ら取調べを受け、訴追され、服役し、証人として証言するといった特異な経験もした。証拠改ざん事件による電撃逮捕から5年。当時連日記載していた日誌に基づき、捜査や刑事裁判、拘置所や刑務所の裏の裏を独自の視点でリアルに示す。

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