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きょうから始まる日本シリーズでチケット転売横行 1枚20万円も、その罪と罰

前田恒彦元特捜部主任検事
日本シリーズ観戦チケット(筆者撮影)

 きょうから始まるプロ野球の日本シリーズでは、チケット流通サイトなどを介し、観戦チケットの高額転売が横行している。定価の10倍のものや、1枚20万円といった高額な出品もあるという。

不正転売禁止法で規制

 ダフ屋は都道府県の迷惑防止条例で規制されているが、ネット空間における転売には適用できない。そこで、東京五輪のチケットがネットを介して高額で転売されると見込まれたこともあり、2018年に「チケット不正転売禁止法」が制定された。

 最高で懲役1年、罰金だと100万円以下だ。肝心の五輪は無観客開催で終わったものの、2019年の施行後、アイドルグループのコンサートチケットなどを転売した「転売ヤー」らが相次いで検挙されている。日本シリーズの観戦チケットもこの法律で転売が規制されるチケットにあたる。

 ただし、単なる転売ではダメで、「業として」という要件をみたす必要がある。「反復継続の意思をもって」という意味であり、警察が検挙するか否かを判断する際は、多数回にわたって転売しているとか、多額の利益を上げているといった客観的な実績が重視される。

刑法の詐欺罪もある

 もっとも、「業として」にあたらないからといって無罪放免かというと、必ずしもそうではない。転売はNPB側が定めるチケットの販売規約に反する。転売そのものではなく、その一歩手前、すなわち転売目的を隠し、嘘をついてNPB側からチケットをだまし取ったという部分をとらえ、刑法の詐欺罪で立件することが可能だ。現にコンサートチケットなどの「転売ヤー」が詐欺罪で起訴され、有罪となった例もある。

 こちらは最高で懲役10年と重いし、罰金刑がないから罰金を納めて終わりということにもならない。しかも、「転売ヤー」がNPB側からだまし取った転売禁止のチケットを、薄々とはいえ、そうと分かりつつ購入したということであれば、購入者も刑法の盗品等有償譲受罪に問うことができる。「盗品等」とは財産犯により得られたものという意味であり、NPB側からだまし取ったチケットも含まれる。最高刑は同じく懲役10年と重い。

本気で「転売ヤー」排除を

 「転売ヤー」が検挙された場合、購入者も捜査の対象となり、取調べを受け、購入時に使用したスマホなどの提供を求められ、通信履歴まで調べられる。SNSを介した取引だと、転売名目で代金をだまし取られるケースも多い。「転売ヤー」が取り扱っているチケットには手を出さない方が身のためだ。

 とはいえ、こうした刑罰法規には限界があるし、NPBが単に転売禁止を叫ぶだけでは不正転売の根絶など不可能だ。「転売ヤー」から高額で購入してでも良い席で見たい、転売チケットだとバレるはずがないと考える一部のファンもいるからだ。

 NPBも、抽選販売直後に転売サイトなどで高額転売が行われているチケットについては、警察に対して積極的に被害を届け出るほか、当日は本人確認を厳密に行い、身分証明証の提示を原則とするなど、本気で「転売ヤー」の排除に努めるべきだ。彼らから購入した者が入場を拒否される事態となれば、転売チケットの買い控えも期待できる。(了)

【参考】

元特捜部主任検事

1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。刑事司法に関する解説や主張を独自の視点で発信中。

元特捜部主任検事の被疑者ノート

税込1,100円/月初月無料投稿頻度:月3回程度(不定期)

15年間の現職中、特捜部に所属すること9年。重要供述を引き出す「割り屋」として数々の著名事件で関係者の取調べを担当し、捜査を取りまとめる主任検事を務めた。のみならず、逆に自ら取調べを受け、訴追され、服役し、証人として証言するといった特異な経験もした。証拠改ざん事件による電撃逮捕から5年。当時連日記載していた日誌に基づき、捜査や刑事裁判、拘置所や刑務所の裏の裏を独自の視点でリアルに示す。

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