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赤ちゃんポストに3歳児置き去り 4年後に出頭した男が問われたまさかの罪とは

前田恒彦元特捜部主任検事
(写真:アフロ)

2007年に熊本の慈恵病院が設置し、賛否両論を巻き起こした赤ちゃんポスト。約3年間に155人が預けられたが、病院側が想定していた早期新生児は85人だけで、残りはある程度育った子どもだった。初日に預けられたのは3歳の男児で、2例目と3例目も生後2か月ころの男児であり、4例目でようやく生後10日ほどの女児が預けられたという。

最初の男児には後日談がある。病院側は、赤ちゃんポストに子どもを預ける人について、一人で悩み困窮し、自宅で出産したものの、子どもを殺めることができない女性を想定していた。しかし、男児を預けたのは伯父だった。

この男は、男児の母親が交通事故で死亡したのち、母親の兄として男児の未成年後見人となったが、男児が相続した生命保険金など約6000万円をギャンブルなどに使い込んでいた。そのうえで、報道で知った赤ちゃんポストに男児を置き去りにし、行方をくらました。

男児は病院から児童相談所に移されたあと、熊本市の夫婦に里子として迎えられ、養子縁組をし、いまでは「子ども食堂」の活動に取り組んでいるという

東京都江東区の医療法人社団が国内の医療機関で2例目となる赤ちゃんポストの設置を構想しているが、これまで江東区は「医療ケアのない孤立出産を促しかねない」と慎重な姿勢を示していた

ことし4月の江東区長選で初当選を果たした新区長は赤ちゃんポスト設置構想へのサポートを公約に掲げており、当選後、「肝を入れてやっていきたい」と述べている

保護者が道ばたや駅、山中などに子どもを置き去りにしたら、保護責任者遺棄罪に問われる。最高で懲役5年だ。しかし、赤ちゃんポストは外側の扉を開けると温度が一定に保たれたベッドがある。そこに子どもを置き、扉を閉めるとブザーが鳴って、直ちに病院の職員らが保護する仕組みだ。子どもの生命や身体の危機に直結するとは言い難いことから、保護責任者遺棄罪は成立しないと考えられる。

熊本の赤ちゃんポストに3歳の男児を置き去りにした叔父の男は、男児の預金口座から引き出したお金を全て使い果たし、4年後の2011年に警察に出頭した。しかし、問われたのは保護責任者遺棄罪ではなく、未成年後見人として管理していた男児の財産を着服したという業務上横領罪だった。男はこの罪で書類送検され、起訴された。

2013年の判決で、裁判所は「後見人制度への信頼の根幹を揺るがした」「被害者にとって亡母の命の引き換えともいうべき財産を失い、その結果は極めて重大」「独善的で利欲的な犯行動機には酌量の余地はない」と述べ、男に懲役4年6か月の実刑判決を言い渡している。(了)

元特捜部主任検事

1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。刑事司法に関する解説や主張を独自の視点で発信中。

元特捜部主任検事の被疑者ノート

税込1,100円/月初月無料投稿頻度:月3回程度(不定期)

15年間の現職中、特捜部に所属すること9年。重要供述を引き出す「割り屋」として数々の著名事件で関係者の取調べを担当し、捜査を取りまとめる主任検事を務めた。のみならず、逆に自ら取調べを受け、訴追され、服役し、証人として証言するといった特異な経験もした。証拠改ざん事件による電撃逮捕から5年。当時連日記載していた日誌に基づき、捜査や刑事裁判、拘置所や刑務所の裏の裏を独自の視点でリアルに示す。

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