Yahoo!ニュース

自家製の梅酒が違法な「密造酒」に? ホームリカーを巡る酒税法上の注意点は

前田恒彦元特捜部主任検事
(写真:イメージマート)

 梅酒など果実を漬け込んだ自家製のお酒づくりが盛んになる季節だが、こうしたホームリカーも原料や製法によっては「密造酒」として酒税法に抵触する可能性があるので、注意を要する。

梅酒は「みなし製造」になる

 すなわち、酒税法の規定により、「酒類」を製造するには税務署長の免許が必要だ。「酒類」とはアルコール分が「1%以上」の飲料を意味する。これを密造したら、最高で懲役10年、罰金だと100万円以下の刑罰に処されるし、酒税も徴収される。

 梅酒のように、すでにできあがっているお酒の中に果実や砂糖などを混ぜ入れ、漬け込んだ場合でも、酒税法では「新たに酒類を製造した」とみなされる。リキュールの製造免許が必要だ。

 もっとも、わが国では長年にわたって各家庭で当たり前のように梅酒がつくられてきた歴史がある。そこで、1962年の酒税法改正の際、例外規定が設けられた。具体的には、次のような条件をみたす場合に限り、特別に酒造免許を要しないとされている。

(1) ベースとなる漬け込むお酒のアルコール分は20%以上で、市販されているホワイトリカーなどすでに酒税を課税済みのもの。

(2) これに混和する原料は、ぶどう、山ぶどう、米、麦、あわ、とうもろこし、こうりやん、きび、ひえ、でん粉、アミノ酸、ビタミン類、酒かすなどといった禁止物品ではないこと。

(3) 自分や同居の親族で飲むためのものに限られ、販売しないこと。

自家製のサングリアは?

 (1)や(2)の条件が課せられているのは、酵母などの働きによって新たにプラス1%以上のアルコール発酵が行われる可能性があるからだ。ぶどうと山ぶどうを除いた梅やレモン、いちごなどの果実類であれば問題ない。ベースのアルコール分が20%以上であれば、新たな発酵も抑制される。

 むしろ、アルコール分が35%の甲類焼酎であるホワイトリカーを使うのがベターだとされている。無味無臭に近く、クセもないので、漬け込む果実の風味が生かされるし、腐敗も防止され、長期保存が見込めるからである。

 これに対し、ワインは酒税法でアルコール分が20%未満と決まっているし、コンビニやスーパーマーケットなどのお酒売り場で簡単に手に入る日本酒もアルコール分が20%を超えるものはまずないので、これらで梅酒を作るとアウトだ。

 ワインに果実などを漬け込んだ自家製のサングリアも、この条件をクリアしておらず、違法だ。バーのカクテルのように飲む直前に混ぜる場合には酒税法の別の規定によりセーフとされているので、もしワインベースのお酒を楽しみたいのであれば、漬け込まず、直前にワインを注ぎ入れる必要がある。

酒をつくる自由は?

 (3)は、消費者が自ら消費する場合に限って例外を認めるという趣旨だ。もっとも、旅館や飲食店が自家製の梅酒を客に提供する場合については特例措置があり、あらかじめ税務署長に申告しておけば、酒造免許をとる必要はない。また、自分で飲むためにつくって余った梅酒を知人らに無償で「おすそ分け」する場合は「販売」とはいえず、酒税法違反にはあたらないから、問題ない。

 とはいえ、こうした酒税法の様々な規制について、過剰であり、そもそも米や麦、ぶどうなど好みの原料を使って自分が飲みたいお酒を自宅でつくることは料理と同じく個人の自由だと考える人もいるだろう。

 しかし、最高裁が、1989年に酒税法の規制に対して「お墨付き」を与えている。自分で飲むために自宅でどぶろくなどをつくっていた男性が、酒税法違反で起訴され、罰金30万円の有罪判決を受けた事件だ。

 「どぶろく訴訟」と呼ばれる有名な裁判であり、個人の幸福追求権などを不当に制限し、憲法違反ではないかと争われた。最高裁は、酒税の徴収を確保するための合理的な規制であり、違憲ではないと判断している。

 テレビの料理番組などで日本酒やみりんに漬け込んだ梅酒が紹介され、酒税法違反ではないかと問題になったこともある。自家製の梅酒に税務署がいちいち目くじらを立てることはないだろうが、違法な梅酒などをつくってSNSにアップしていると、思わぬ炎上を招くおそれがある。この機会に、酒税法の規制内容を知っておくとよいだろう。(了)

元特捜部主任検事

1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。刑事司法に関する解説や主張を独自の視点で発信中。

元特捜部主任検事の被疑者ノート

税込1,100円/月初月無料投稿頻度:月3回程度(不定期)

15年間の現職中、特捜部に所属すること9年。重要供述を引き出す「割り屋」として数々の著名事件で関係者の取調べを担当し、捜査を取りまとめる主任検事を務めた。のみならず、逆に自ら取調べを受け、訴追され、服役し、証人として証言するといった特異な経験もした。証拠改ざん事件による電撃逮捕から5年。当時連日記載していた日誌に基づき、捜査や刑事裁判、拘置所や刑務所の裏の裏を独自の視点でリアルに示す。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

前田恒彦の最近の記事