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たけし氏の襲撃から1週間 なぜ犯人の実名が報じられないか、今後の捜査は?

前田恒彦元特捜部主任検事
(写真:GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート)

 ビートたけし氏を襲撃した男の逮捕から1週間。社会に衝撃を与え、暴力団関係者だとも言われているのに、いまだに警察は男の実名や顔写真などを明らかにせず、マスコミも同様の姿勢を貫いている。

 確かに、もし襲撃が顔と名前を売り込むためだったとか、組織を背景にしているといった事情があれば、実名などを大きく報じると男の思うつぼなので、これを避けるという配慮が働くのも当然だろう。

 しかし、刃物を所持した銃刀法違反の容疑であれば、警察は逮捕時に実名などを明らかにするのが通常だし、マスコミも当たり前のように広く報じる。むしろ警察は、男の責任能力に疑いを抱き、慎重に見極めているのではないか。取調べでも、つじつまが合わない供述をしているという。

 芸能界に入りたくて土下座したが無視されたとか、6月にもテレビ局付近で待ち構えていたと説明しているというものの、だからといってつるはしなどで襲撃に至るには飛躍がありすぎる。裏付けすらも取れていないのかもしれない。

 一部メディアでは、男には覚醒剤の前科があり、周囲の関係者に対し、テレビを見ていたら画面に出ていたビートたけし氏から名前を呼ばれ、暴力団をやめて芸能界に来いと呼びかけられたので会いに行ったが、無視されたと憤慨していたなどと報じられている。

 こうした話が事実であれば、幻覚や幻聴により被害妄想を抱いた末の犯行だった可能性が出てくる。そうなると、警察が実名を明らかにすることはないし、マスコミも仮名による報道が原則となる。

 動機や経緯が了解可能なものか否かは責任能力の有無や程度を左右する。検察としても、捜査段階で簡易鑑定や本鑑定といった精神鑑定を実施し、これを見極めなければならない。しばらくは捜査の推移を見守る必要があるだろう。(了)

元特捜部主任検事

1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。刑事司法に関する解説や主張を独自の視点で発信中。

元特捜部主任検事の被疑者ノート

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15年間の現職中、特捜部に所属すること9年。重要供述を引き出す「割り屋」として数々の著名事件で関係者の取調べを担当し、捜査を取りまとめる主任検事を務めた。のみならず、逆に自ら取調べを受け、訴追され、服役し、証人として証言するといった特異な経験もした。証拠改ざん事件による電撃逮捕から5年。当時連日記載していた日誌に基づき、捜査や刑事裁判、拘置所や刑務所の裏の裏を独自の視点でリアルに示す。

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