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コロナ休業で死活問題の風俗業界、持続化給付金は出る? 規定には「落とし穴」も

前田恒彦元特捜部主任検事
(写真:西村尚己/アフロ)

 新型コロナ騒動で売上減の事業者に最高200万円まで支給される持続化給付金。長引く休業が死活問題となっている性風俗店の関係者、特にそこで働くスタッフやキャストはもらえるか――。

性風俗「店」は対象外

 まず、経済産業省が明らかにした申請規程や給付規程では、持続化給付金を支給しない対象者として、真っ先に次の者が挙げられている。

(1) 風俗営業法に規定する性風俗関連特殊営業を行う事業者

(2) その営業に係る「接客業務受託営業」を行う事業者

 (1)は、「店舗型」のソープランド、ファッションヘルス、個室ビデオ、ストリップ劇場、ラブホテル、アダルトショップや、「無店舗型」のデリバリーヘルス、アダルトサイトなどがそれに当たる。

 これに対し、キャバクラやホストクラブなどは風俗営業法の「接待飲食営業店」であり、「性風俗関連特殊営業」ではないから、支給の対象となる。

 また、(2)は、「店舗型」の事業者から委託を受け、その店で接客業務の一部を行う営業形態を意味する。

 性的サービスを提供する女性らを社員として雇い、委託を受けた性風俗店に派遣し、接客させるコンパニオン派遣業などがその典型だが、それに限らない。あとで示すとおり、性風俗のキャストもその勤務内容によっては(2)に当たるという解釈も考えられるからだ。

 いずれにせよ、法人であろうと個人であろうと、(1)(2)の事業者は対象外であり、持続化給付金は支給されない。警察に営業の届出などをしているか否かも問わない。

 毎年きちんと納税していたとしても、性風俗店は一律にダメ、という価値判断に立っているわけだ。

「事業者」か否か

 では、性風俗店で受付や清掃などを担当しているスタッフや、実際に客に性的サービスを提供しているキャストはどうか。

 働き方の形が重要となる。性風俗で働くキャストら全員が一律で対象になると断言できる話ではない。

 例えば、その店に雇用され、時給や固定給、歩合制のボーナスなどをもらっており、毎月、源泉徴収が差し引かれ、12月になると年末調整も行われている場合、一般のサラリーマンと同じく給与所得者になる。「事業者」ではないから、給付金の対象外だ。

 アルバイトを含め、性風俗店のスタッフは、ほぼこのパターンになるだろう。

 キャストの中には、性風俗店で働いていることが周囲にバレないようにするため、店が用意した「アリバイ会社」で社員として働いている形をとり、ニセの給与明細などを受けとっている者もいる。

 これはダミーにすぎないから、結局のところ店との実際の契約内容がポイントとなる。

キャストも「一人親方」

 すなわち、一般のスタッフと異なり、キャストと性風俗店は、先ほどのような雇用契約ではなく、業務委託契約の関係に立っている場合のほうが多い。

 出勤日時などを自由に選択でき、客に対する具体的なサービスの内容も裁量に任されている部分が大きいからだ。

 キャスト自身がフリーランスの個人事業主、いわば建設業でいう「一人親方」というわけだ。

 平日の日中は性風俗以外の会社で事務職、夜や休日に性風俗店で働くといった「副業」の場合も、後者に関する限りはこの理屈が当てはまる。

 問題は、キャストが先ほどの(2)の「接客業務受託営業」に該当するということで、支給の対象外になるのではないか、という点だ。

 風俗営業法を所管する警察庁がこの法律の解釈運用基準を示しており、「接客業務受託営業」についても触れているが、「コンパニオン派遣業、外国人芸能人招へい業、芸者置屋等」と代表例が挙げられているのみで、「一人親方」のキャストのようなケースをどのようにとらえるのか、そこまで踏み込んだ記載がない。

 そこでいう「等」に何が含まれるのかがポイントになるわけだ。

 むしろ、風俗営業法の条文を素直に読むと、「接客業務受託営業」に当たると解釈する余地がある。風俗店の委託を受け、「親方」である自らをその店に派遣し、店の指示や自らの判断に基づいて客に性的サービスを提供しているからだ。

 ただ、先ほども示したとおり、風俗営業法では(2)は「店舗型」、すなわち店でのサービス提供だけを前提としている。

 そうすると、たとえ「接客業務受託営業」に当たるということになったとしても、ソープ嬢やヘルス嬢はダメ、ホテルや客の自宅などでサービスを提供する「無店舗型」のデリヘル嬢はOK、という仕分けになりそうだ。

 風俗営業法が「店舗型」と「無店舗型」を区別する立て付けになっているからだが、アンバランスさが否めない。

さらに「落とし穴」が

 ところが、これで話は終わらない。

 持続化給付金の申請規程や給付規程には、伸び縮み自在の「落とし穴」が用意されているからだ。すなわち、次に当たる者が対象外とされている。

給付金の趣旨・目的に照らして適当でないと中小企業庁長官が判断する者

 申請時に暴力団排除条項への同意が求められていることから、少なくとも反社関係者などがそれに当たると思われる。

 しかし、申請規程や給付規程のどこを見ても、「適当でない」者とはどのような者を意味するのか、具体例が挙げられていない。

 「適当」か否かは、まさしく役所側の胸三寸ということになる。

 そうすると、先ほどの(1)で性風俗店が一律除外されていることに引っ張られ、その業界で働くキャストも除外する、といった価値判断に傾く可能性も残る。

警察庁の姿勢も重要

 この点、ネット上では、経産省に電話で確認したところ、担当者から「性風俗店は対象外だが、キャストは支給対象だ」と言われたとか、逆に「キャストもダメだ」と言われたといった、さまざまな情報が流れている。

 しかし、まだ経産省からは、その点に関する「文書」による公式な見解が示されていない。警察庁についても同様だ。キャストの仕事のどこまでが先ほどの(2)の「接客業務受託営業」に当たるのかなど、持続化給付金の所管庁である経産省と、風俗営業法の所管庁である警察庁との間ですり合わせを行う必要があるからだ。

 そのうえで、世論の空気を読みつつ、「給付金の趣旨・目的に照らして適当」か否か、改めて統一的な指針が示されるのではないか。

 少なくとも、相談窓口担当者の個々の判断により、あるキャストには支給を認め、別のキャストには認めない、といった取り扱いはできないはずだ。

 ここでは、法令の内容や解釈、現時点での情報に基づいて解説したが、持続化給付金に関する経産省の判断は、できる限りキャストが救済される方向になることが望ましい。

 一刻も早く必要な給付金が届くように、経産省には迅速な対処と的確な広報が求められる。

 申請期限はまだ先の話だから、性風俗のキャストであっても、申請に必要な書類などをよく確認し、準備しておくに越したことはない。

納税も意識する

 ただ、申請にあたって最大のネックになるのは、2019年分の確定申告の点だろう。持続化給付金が支給される前提として、事業収入の申告が重要となるからだ。

 無申告の場合、改めて確定申告を行うことも可能だが、今後も確定申告を要することになる。

 いずれ働いている店に税務当局の調査が入るとか、キャスト自身も過去にさかのぼって調査を受け、申告漏れを指摘される事態になるかもしれない。

 無申告だったキャストが高額の納税を求められるという事態についても、念頭に置いておく必要がある。

 また、立法的な手当てがない限り、現在の税法では持続化給付金は非課税ではないので、その点についても注意を要する。(了)

元特捜部主任検事

1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。刑事司法に関する解説や主張を独自の視点で発信中。

元特捜部主任検事の被疑者ノート

税込1,100円/月初月無料投稿頻度:月3回程度(不定期)

15年間の現職中、特捜部に所属すること9年。重要供述を引き出す「割り屋」として数々の著名事件で関係者の取調べを担当し、捜査を取りまとめる主任検事を務めた。のみならず、逆に自ら取調べを受け、訴追され、服役し、証人として証言するといった特異な経験もした。証拠改ざん事件による電撃逮捕から5年。当時連日記載していた日誌に基づき、捜査や刑事裁判、拘置所や刑務所の裏の裏を独自の視点でリアルに示す。

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