一気飲みや泥酔者の放置はダメ、絶対!! 急性アルコール中毒で死亡という悲劇の繰り返しを防ぐために

飲酒は適量にとどめ、間隔をあけ、合間合間に飲酒した分と同じ量の水を飲むこと(写真:アフロ)

 近畿大学2年の男子学生(20歳)がサークルの飲み会で一気飲みして泥酔後、死亡した。両親が上級生らを告訴し、警察の捜査が始まったという。民事責任だけでなく、刑事責任まで問われるケースは珍しい。

【事案の概要】

 死亡した男子学生は、2017年12月の午後7時から居酒屋で行われた飲み会にテニスサークルのメンバー10名とともに参加した。しかし、開始1時間でビールのほか、ショットグラスで20杯ほどのウオッカを次々と一気飲みして泥酔、昏倒した。

 ウオッカのアルコール度数は40度程度だが、ショットグラスが1杯30mlだから、20杯で600ml分を飲んだことになる。

 男子学生が店内で大いびきをかき、反応を示さなくなったことから、午後9時半ころ、飲み会に参加していなかった当時2年の学生5名が介抱役として呼び出された。

 急性アルコール中毒の疑いがあり、飲み会に参加していた当時3年の上級生に処置を相談したが、「いびきをかいているから大丈夫やろ」などと言われた。

 そこで、誰も救急車を呼ばず、病院にも連れて行かず、男子学生を近くに住む別の学生宅に運び、お開きとなった。

 翌午前6時前ころ、その学生が男子学生の異変に気づいた。既に呼吸をしておらず、119番通報で病院に搬送されたものの、死亡が確認された。

 司法解剖の結果、吐いたものがのどに詰まったことによる窒息死だったと分かった。

 両親は、男子学生が死亡するに至った真相を知りたいとして、2018年12月、先ほどの上級生1名と介抱役の学生5名を保護責任者遺棄致死罪の容疑で大阪府警に告訴した。

【飲酒と犯罪】

 脅して一気飲みを無理強いしたら強要罪、無理やり何杯も飲ませて酩酊や胃炎などを生じさせたら傷害罪、これをはやしたてたら傷害現場助勢罪、死亡させたら傷害致死罪に問われる。

 ただ、今のところ男子学生に飲酒や一気飲みを強要した事実までは確認されていないとのことだ。

 仲間意識やその場の雰囲気から断れなかったり、参加メンバーが盛り上げたり制止しなかった可能性もあるが、それでもあくまで本人の意思に基づくものだったのであれば、これらの犯罪は成立しない。

 そこで両親も、飲酒後の対応の方に着目し、告訴の罪名として保護責任者遺棄致死罪を選択したのではないか。最高刑は懲役15年だ。

 過失致死罪の選択も考えられるが、これだと最高刑は罰金50万円にすぎず、両親としては軽すぎて到底納得できないだろう。

【保護責任者遺棄致死罪とは】

 では、今回のような事案において、保護責任者遺棄致死罪に当たるか否かのポイントはどこにあるか。

 まず前提として、この犯罪の成立要件は次のとおりだ。

(1) 被害者が老年者、幼年者、身体障害者、病者など他人の扶助を必要とする者

(2) 犯人が(2)を保護する責任のある者

(3) (2)の者が(1)の者を遺棄するか、その生存に必要な保護をしなかった

(4) (3)の結果、被害者が死亡した

 酒を飲みすぎ、高度の酩酊により身体の自由を失い、他人の扶助を要する状態にある者も、(1)の「病者」に当たる。最高裁の判例だ。

【保護責任があったか】

 また、(2)の保護責任は、親の子に対する監護・扶養義務など法令に基づく場合や、介護ヘルパーなど契約に基づく場合のほか、先行する何らかの行為に及んだり、被害者の保護を引き受けたりしたことを原因として発生する。

 例えば、ホテルの一室で覚せい剤などの薬物を注射されて錯乱状態や意識不明の状態になった者が置き去りにされ、死亡したケースだと、注射した人物に保護責任があるとされる。

 このほか、赤の他人で何の関係もない間柄でも、路上で重病人や重傷者を発見し、自宅に引き取って看病したり、病院に連れて行くために車に乗せると、最後まで保護を尽くす責任が生じることになる。

 同様に、泥酔者に対する保護責任もしばしば問題となる。飲み会で飲みすぎて泥酔し、いったんは他の参加メンバーらに介抱されていたものの、そのまま放置され、死亡したケースだと、介抱を行った者に保護責任があるとされる。

 2017年にも、未明にタクシーに乗車後、泥酔して寝込んだ乗客が路上に放置され、交通事故死したケースで、タクシー運転手に保護責任があるとされ、自首を考慮してもなお懲役2年6か月の実刑判決が言い渡されている。

 今回の事案も、介抱役の学生や上級生らはその上級生の指示の下で男子学生の介抱を行っていたわけであり、とりわけ前者の5名は飲んでおらずシラフだったわけだから、飲み会を統率していた上級生ともども保護責任があると認められるのではないか。

【やるべきことをやったといえるか】

 問題となるのは、彼らが男子学生に対して(3)の「遺棄」に及んだといえるか、また、「生存に必要な保護をしなかった」といえるかという点だ。

 ここでいう「遺棄」とは、生命や身体に危険が生じるような場所に移して放置することや、そうした場所で置き去りにすることを意味する。

 彼らは男子学生を店から運んで路上などに置いてきたわけではなく、わざわざ店の近くに住む別の学生宅に運び、寝かせている。そうすると、「遺棄」したとはいえないと評価されるのではないか。

 そこで「生存に必要な保護をしなかった」か否かだが、確かに結果的にはすぐに119番通報すればよかったし、「大丈夫だろう」という判断も安易極まりないものだった。

 ただ、保護責任を尽くしたか否かは、当時の状況を踏まえ、どこまでの対応が期待されていたかに関わってくる。

 この点を特定するには、告訴された学生や飲み会の参加者、テニスサークルのメンバー、会場となった居酒屋の店員らから幅広く事情聴取を行い、次のような様々な事情を解明する必要がある。

・このサークルにおける人間関係

・普段の飲み会の状況

・今回の飲み会に至った経緯や飲み会の状況

・参加メンバーの飲酒状況

・男子学生のこれまでの飲酒経験や飲酒量、体調

・過去に参加メンバーの前で泥酔して回復したことがあったか否か

・他の参加メンバーが泥酔した場合にはどうしていたのか

・男子学生の酔いの程度をどれくらいのレベルだと把握していたのか

・介抱役の学生らが到着して以降の状況

・男子学生に朝まで寝ずの監視をしていたのか

 これらがクリアされ、証拠上、やるべきことが容易にできたにもかかわらず、あえてやらなかったと確定できれば、(3)の点も肯定されることになる。これが認められれば、(4)も肯定されることになるだろう。

【繰り返される悲劇を防ぐために】

 いずれにせよ、今回の死亡報道を見聞きし、「またか」と思ったのが正直なところだった。例年、まだ酒に慣れていない成人前後という若さの大学生が部活やサークル、イベントの飲み会、合宿、旅行などの機会に飲酒して泥酔し、死亡する事件が後を絶たず、何度も何度も悲劇が繰り返されているからだ。

 しかも、その大部分が、急性アルコール中毒で意識がなくなり、寝ているのかと思っていたら翌朝には既に死亡していたというものだ。死因も、吐いたものがのどに詰まったことによる窒息死が典型的なパターンだ。

 こうした悲劇の防止に向けて熱心に取り組んでいる民間団体が、「酔いつぶれた人の命を救う4回のチャンス」と題した啓発活動を行っている。参考になるので、ここで紹介しておきたい。

チャンス1:イッキはさせない、酔いつぶさない

 はやしたてやコールがなくても、場を盛り上げる手段としてむちゃ飲みを肯定する空気、酔いつぶれることをよしとする伝統がありませんか?「見えない圧力」「場の設定」「暗黙の強要」が問題なのです。

チャンス2:酔いつぶれた人を絶対1人にしない

 「息苦しそう」「全身が冷たい」「大イビキをかいている」「つねっても反応しない」などの危険信号を見逃さないためにも、しらふの人が必ずそばについていましょう。

チャンス3:横向きで自然に吐かせる

 急性アルコール中毒では、窒息死が大半なのです。寝かせる時は、あお向けではなく、横向きに!横向きなら吐物が自然に口から出て、窒息を防ぐことができます。目を覚ますまでは、必ず誰かがそばで見守ること。衣服をゆるめ楽にさせ、毛布などをかけてあげましょう。

チャンス4:おかしいと思ったら、ためらわず救急車を

 耳元で名前を呼んだり、つねったり身体をゆすったりしても反応がなかったら、昏睡状態です。その人は今“死”と紙一重のところにいます。「事を大きくしたくない」などの体面を気にしている場合ではありません。わずかなためらいで、助かる命も助からなくなってしまいます。すぐに救急車を呼びましょう。

すぐに救急車を呼ぶべき状態

・大イビキをかいて、ギュッとつねっても反応がない。

・ゆすって呼びかけても、まったく反応がない。

・体温が下がり、全身が冷たくなっている。

・倒れて、口からあわをふいている。

・呼吸が異常に早くて浅い。または、時々しか息をしていない。

出典:特定非営利活動法人アスク

 大学どころか中学や高校の学校教育の中で指導されるべき基礎的な知識ではなかろうか。

 これから送別会や歓迎会のシーズンに突入し、大学生に限らず、仲間内と飲む機会も増えることだろう。

 酒は百薬の長と言われるが、生死に関わる毒にもなる。

 どうしても飲酒が避けられないのであれば、適量にとどめ、間隔をあけ、合間合間に飲酒した分と同じ量の水を飲むことも重要だ。

 一緒に飲む者や店側も、こうした点に対する心配りが求められる。(了)

1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。刑事司法に関する解説や主張を独自の視点で発信中。きき酒師、日本酒品質鑑定士でもある。

有料ニュースの定期購読

元特捜部主任検事の被疑者ノートサンプル記事
月額1,080円(初月無料)
月3回程度
15年間の現職中、特捜部に所属すること9年。重要供述を引き出す「割り屋」として数々の著名事件で関係者の取調べを担当し、捜査を取りまとめる主任検事を務めた。のみならず、逆に自ら取調べを受け、訴追され、服役し、証人として証言するといった特異な経験もした。証拠改ざん事件による電撃逮捕から5年。当時連日記載していた日誌に基づき、捜査や刑事裁判、拘置所や刑務所の裏の裏を独自の視点でリアルに示す。

Facebookコメント

表示

※本コメント機能はFacebook Ireland Limitedによって提供されており、この機能によって生じた損害に対してヤフー株式会社は一切の責任を負いません。

ニュースのその先に ドキュメンタリーで知る世界へ

Yahoo!ニュース個人編集部ピックアップ