太陽の塔の占拠も 70年万博と刑事事件

(ペイレスイメージズ/アフロ)

 万博開催が決まった。大阪は1970年以来、55年ぶりとなる。183日の期間中、1日平均35万名、のべ6421万名もの入場者を数えた。他方、万博に関連した犯罪も数多く発生した。

【混雑は格好の釣り場】

 人が集まるところ盗みあり、ということで、警察に届けられたものだけでも、1日平均8.8件、合計1611件もの窃盗事件があった。万博関連の刑事事件の94%を占めていた。

 そのうちスリが695件、置引が438件、車上狙いが228件で、展示品の盗難も13件に上った。大混雑のイベントだったからだ。

 香港館では時価4880万円相当のヒスイの腕輪などが盗まれた。平均月収が5万円の時代。関係者の受けた衝撃は大だった。

 しかし、96件分の犯人しか検挙できておらず、検挙率はわずか6%。わが国の窃盗事件全体の検挙率が55%だった当時からすれば極端に低く、万博関連の被害者は泣き寝入りだったということが分かる。

【死亡や負傷も】

 長蛇の入場待ちなどでストレスがたまるからか、傷害や暴行事件も64件ほど起きた。こちらは、ほぼ全員が検挙されている。

 警備の不手際に伴う人身事故も6件。特に大きなものは、近未来を先取りした警備隊の電気自動車が来場客1名に衝突して転倒、死亡させた事故や、動く歩道上で多数の来場客が将棋倒しとなり、82名が重軽傷を負った転倒事故が挙げられる。

【世相を反映】

 1度で67名と最も多くの検挙者数だったのが、鉄道営業法違反事件だ。罪名を聞いてもピンとこないだろうが、開会式当日、会場最寄り駅の改札口付近で労働組合員や学生らが万博反対を叫びながらジグザグ行進し、無許可でデモを強行した、というものだ。

 当時のわが国には10年の期限を迎える日米安全保障条約の自動延長問題が横たわっており、これを阻止しようとする反対運動が様々な形で巻き起こっていた。

 万博開催は国民の目を安保問題からそらすためのものだという声があり、反安保と連動した反万博運動も活発だった。会期中も、会場内外で同様のデモが散発していた。

【アイジャック】

 最も有名なのは、開催約1か月後、シンボルだった太陽の塔の右目玉部分が25歳の男に占拠された事件だ。

 その年に発生した赤軍派よど号ハイジャック事件にちなんでアイジャック事件と名付けられた。男が赤地に黒で「赤軍」と書かれたヘルメットをかぶり、「万博を潰せ」と演説していたからだ。

 報道を見た市民からは男に飲食物を与えるなという声が大量に届き、ライフルで射殺してやるといった電話もあったという。

 「目玉男」と呼ばれた犯人の籠城は8日間、トータル159時間に及んだが、来場客に手を振るなど緊迫感も薄れ、寒さのあまり投降。建造物侵入や威力業務妨害で逮捕された。

 実際は赤軍派とは無関係で、警察の見立ても単なる目だちたがり屋の愉快犯というもの。万博反対の主張とはうらはらに、太陽の塔ともども大阪万博の名を世界に知らしめ、客寄せに寄与することになったのは皮肉な話だった。

【経験を2025年万博に活かす】

 事件化には至らなかったが、会場内の飲食物の販売価格が高すぎるといったクレームが来場客から多数寄せられることもあった。

 戦後の混乱期である1946年に物価高騰を抑制するために制定された物価統制令を引っ張り出し、警察が飲食店の指導に乗り出す場面もあったという。

 2025年の大阪万博では、様々な事態を想定した防犯対策や、テロをも念頭に置いた厳格な警備態勢が求められる。過去の経験から学ぶことは多いはずだ。(了)

1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。刑事司法に関する解説や主張を独自の視点で発信中。きき酒師、日本酒品質鑑定士でもある。

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15年間の現職中、特捜部に所属すること9年。重要供述を引き出す「割り屋」として数々の著名事件で関係者の取調べを担当し、捜査を取りまとめる主任検事を務めた。のみならず、逆に自ら取調べを受け、訴追され、服役し、証人として証言するといった特異な経験もした。証拠改ざん事件による電撃逮捕から5年。当時連日記載していた日誌に基づき、捜査や刑事裁判、拘置所や刑務所の裏の裏を独自の視点でリアルに示す。

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