ノート(番外) 死刑の求刑から執行までの流れについて(上)

(写真:アフロ)

 わが国の犯罪史に残るオウム事件の首謀者らに対して死刑が執行されたことで、改めて死刑という刑罰に対する国民の関心が高まっている。この機会に、死刑の求刑から執行までの流れについて触れてみたい。

【死刑求刑の決定まで】

 現職時代、捜査主任検事として起訴した強盗殺人事件で死刑求刑を決めたほか、死刑求刑が予定されていた別の殺人事件で公判を担当したことがある。

 検察官は独任官庁ではあるものの、現実には検察も組織体である以上、起訴・不起訴と同様、各検察官の勝手な判断は許されない。

 検察組織の結論として死刑求刑を決定するに際しては、地検トップの検事正やナンバー2の次席検事といった幹部の決裁を得る必要がある。

 また、そうした事件は必然的に社会の注目を集める特異重大な事案であることから、高検や最高検の指揮を受け、その了承も得なければならない。

 法務・検察内で「三長官」と呼ばれる法務大臣、検事総長、高検検事長にも、事案の概要などを記した報告文書を上げ、耳に入れておく必要がある。

 この文書は法務省の幹部らも目を通すから、彼らも事案を把握する。

 主任検察官が決裁に際して示すのは「求刑案」であり、幹部らの決裁でその案がぶれることもあり得る。

 他方、複数の幹部が了承した結果であっても、検事総長や高検検事長、地検検事正らによる「鶴の一声」で変わることもあり得るし、現にある事件では検事長の一存で無期懲役から死刑に一変したこともあった。

 そのため、幹部の決裁印が順次押される検察内の決裁文書では、求刑欄の記載を鉛筆書きにとどめ、最高検まで了承を得られた段階で、初めてペンで書き込み、その横に地検の決裁官が押印するという慣例だ。

【震える思い】

 冒頭で挙げた強盗殺人事件の決裁の際は、求刑予定を他の者の目に触れさせないため、決裁文書の求刑欄の上に紙を貼り、めくらなければその下の記載が見えないような工夫もした。

 世話になっていた祖父母から金を奪うため、深夜、孫が祖父母方に侵入して祖父母を殺害し、実際に金を奪って逃げ、犯行後、その金で遊興にふけったという事件だった。

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前田恒彦

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15年間の現職中、特捜部に所属すること9年。重要供述を引き出す「割り屋」として数々の著名事件で関係者の取調べを担当し、捜査を取りまとめる主任検事を務めた。のみならず、逆に自ら取調べを受け、訴追され、服役し、証人として証言するといった特異な経験もした。証拠改ざん事件による電撃逮捕から5年。当時連日記載していた日誌に基づき、捜査や刑事裁判、拘置所や刑務所の裏の裏を独自の視点でリアルに示す。

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1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。刑事司法に関する解説や主張を独自の視点で発信中。きき酒師、日本酒品質鑑定士でもある。

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