20歳女子が猫に似ている理由 もう1人の「82年生まれ、キム・ジヨン」を描く韓国映画『子猫をお願い』

高校卒業後、5人はそれぞれの壁にぶつかる

小説「82年生まれ、キム・ジヨン」を読んで、ふともう1人の“ジヨン”を思い出した。2001年に制作された韓国映画『子猫をお願い』(チョン・ジェウン監督)に登場する20歳のジヨンだ。

『子猫をお願い』は、仁川を舞台に高校卒業後1年目の女性たちを描いた群像劇。家業のサウナ店を手伝うテヒ(ペ・ドゥナ)、街でアクセサリーを売る双子のピリュ(イ・ウンシル)とオンジョ(イ・ウンジュ)など、仲良し5人グループのなかで、映画のタイトルにも登場する「子猫」を拾う人物が、まさにジヨン(オク・チヨン)なのだ。小説のキム・ジヨンは、韓国で82年生まれに最も多かった名前に由来しているが、『子猫をお願い』のジヨンも、制作年と年齢から逆算すると、やはり82年前後生まれで一致する。

『子猫をお願い』には、2001年の韓国がリアルタイムで映し出される。空港ができたばかりでまだ雑然とした港町・仁川や、インスタ映え以前のレトロなソウルの中心部。仲良し5人組のコミュニケーションは、二つ折り携帯電話の会話(仕事中にも私用トークが禁止されていないというおおらかさ!)。私物に貼られた高校時代の写真シール(プリクラ)が、日本と同じ時代感を漂わせる。

 本作はまた、当時の20歳女子のリアルもつまびらかにする。ジヨンの親友ヘジュ(イ・ヨウォン)は、ソウルの証券会社の新入社員。遠距離通勤をして、誰よりも朝早く会社に到着し窓のブラインドを開けることから始まり、仕事は資料をプリントアウトして渡すなどの雑用ばかりだ。眼鏡をかけると「目がエビの塩からみたいだ」と男性上司に揶揄され、「整形手術を受けたい」と友達に宣言したりも。「82年生まれ、キム・ジヨン」と同じように、当時の「あるある」がちりばめられている。

ただ、小説と決定的に異なるのは、小説のキム・ジヨンは大卒であるのに対し、『子猫をお願い』のジヨンたちは、商業高校卒であるということ。就活で苦労しながらも広告代理店に入社した小説に対し、『子猫』のジヨンはテキスタイルデザインの仕事を夢見るも、進学するための学費を稼ぐアルバイトさえもほぼ全滅という状況だ。その不公平な現実は、映画の後半、彼女を不幸な運命へ導いていく。

実は、この作品を2001年の公開時に観たときは、甘酸っぱい青春群像劇だと思っていた。当時の私にとって、性別や学歴による処遇の差はあまりにも日常的な風景。だから、大きな違和感もないまま、それを普通のこととして受け止めていたのだろう。ところが、今見返すと、理不尽なことばかりだ。

フェミニズムの気運が高まる現在の韓国では、かつて「あたりまえ」だった女性の立場に疑問を抱き、声を上げる人が増えている。「82年生まれ、キム・ジヨン」が広く読まれる背景にはそんな憤りと共感があるのも、『子猫をお願い』をあらためて観ると納得だ。

夢想家のテヒを演じたペ・ドゥナ。公開当初は観客動員数が伸びず早々に打ち切りに。だが、口コミで広まり再上映され、2001年の韓国女性が選ぶ最高の韓国映画第1位に選ばれた
夢想家のテヒを演じたペ・ドゥナ。公開当初は観客動員数が伸びず早々に打ち切りに。だが、口コミで広まり再上映され、2001年の韓国女性が選ぶ最高の韓国映画第1位に選ばれた

さらに興味深いのが、もう一匹(!)の主人公の子猫だ。道で拾った子猫をジヨンはヘジュの誕生日にプレゼントするが、ヘジュは猫に耐えられずジヨンに返す。ジヨンはテヒに猫を託し、テヒはピリュとオンジョに渡す。つまり、たらい回しにされてしまう。

そんな猫について、チョン・ジェウン監督は当時、韓国メディアのインタビューでこう語っている。

「野生動物とペットの境界線にいる猫は、家庭の枠を超えて社会に出ようとする20歳の女性に似ている」

韓国ではかつて猫は不吉な動物として忌み嫌われていた。劇中で居場所が定まらない猫は、すなわち社会で疎外された若い女性の比喩的存在というわけだ。監督はまた、「柔軟に生きてほしい」という願いも重ねたと明かす。実は自身も、男性中心の韓国映画界で数少ない女性監督の先がけだった。

映画公開から20年。今、韓国で猫は犬をしのぐ大人気のペットとなった。特に独り暮らしをする自立した女性の心の友として愛されているという。もうすぐ40歳を迎える『子猫をお願い』の5人組。彼女たちがもし実在していたとすれば、果たして自分の居場所を見つけることができているだろうか。

『子猫をお願い』

韓国映画CJゾーンの映画たち2020」ヒューマントラストシネマ渋谷で12月6日、12月11日上映

■写真クレジット

(c)2001 by IPictures and Masulpiri Pictures.

<「韓流旋風」(コスミック出版)Vol.83 連載コラム『ヨクシ! 韓国シネマ』を加筆・転載しました>