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推しメン投票が日本の音楽シーンを変える? 韓国の革命的番組「PRODUCE 101 JAPAN」上陸

桑畑優香ライター・翻訳家
指で「富士山ポーズ」を作る練習生たち。ロゴマークも富士山がモチーフ(筆者撮影)

もしかすると、日本の音楽シーンに地殻変動を起こすかもしれない。そんな大型企画が、ついにベールを脱いだ。

9月3日早朝にYouTubeで公開になった一本の動画。

K-POP風のサウンドのタイトルは、『ツカメ~It’s Coming~』。制服姿で踊っているのは、オーディション番組『PRODUCE 101 JAPAN』に参加する“練習生”たちだ。

(c)LAPONE ENTERTAINMENT

このパフォーマンス動画と番組概要が解禁されるや、Twitterで大きな話題となり、日本のトレンドにランクインした。

なぜ、『PRODUCE 101 JAPAN』が注目を浴びているのか――。

その理由と番組の魅力に迫った。

“国民プロデューサー”の1pickが運命を決める

『PRODUCE 101』とは、韓国の音楽専門チャンネルMnetで制作・放送しているサバイバルオーディション番組のこと。2016年にガールズ版の『PRODUCE 101』を初めて放送して以来、『PRODUCE 101 (Season 2)』、『PRODUCE48』『PRODUCE X 101』と、韓国ではシーズン4まで製作されている。

I.O.I(アイオーアイ)、Wanna One(ワナワン)、IZ*ONE(アイズワン)などを生み、韓国で社会現象を起こした番組が、『PRODUCE 101 JAPAN』として日本に上陸するのだ。

『PRODUCE 101 JAPAN』は、今年4月に概要が発表され、101人の練習生を選ぶ書類選考がスタート。自薦・他薦を問わず6000人の応募が寄せられ、最終日には応募者が殺到して、サーバーが一時的にダウンしたほどだった。

そして、9月1日。東京・大崎ブライトコアホールで開かれた「101人の練習生お披露目会」で、最初の審査を通過したメンバーが初めてメディアの前に姿を現した。

「国民プロデューサー代表」のナインティナイン。「練習生の努力や応援したい人が変わっていくドキュメントの部分も見どころ」(矢部)「日本版で笑いを入れて緊張をほぐしたい」(岡村)(筆者撮影)
「国民プロデューサー代表」のナインティナイン。「練習生の努力や応援したい人が変わっていくドキュメントの部分も見どころ」(矢部)「日本版で笑いを入れて緊張をほぐしたい」(岡村)(筆者撮影)

緊張しているのか、ちょっぴり硬い笑顔。フラッシュと「ポーズをお願いします!」というカメラマンの声に戸惑いながら、両手の指で三角を作り「富士山ポーズ」を取る姿が初々しい。

「かわいい!」マスコミ席のあちこちから、そんな声が聞こえてきた。

ナインティナインに「富士山ポーズ」を練習生が教える場面も(筆者撮影)
ナインティナインに「富士山ポーズ」を練習生が教える場面も(筆者撮影)

『PRODUCE 101』シリーズが注目される理由の一つは、番組独自の、巧みなアイドル養成システムだ。最初の選考を通過した101名は、課題曲をチームで歌うなど、様々なミッションに挑戦。勝ち残ったメンバーは、グループとしてデビューすることが確約される。

2017年の『PRODUCE 101 (Season 2)』では人気ボーイグループWanna Oneが誕生し、旋風を起こした。また、2018年の『PRODUCE48』には、AKB48グループのメンバーが多数参加。宮脇咲良、矢吹奈子、本田仁美を含む12人組ガールズグループIZ*ONEが誕生し、現在日韓を中心とするアジアを舞台に活躍中だ。

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Wanna One(写真上)とIZ*ONE(c)CJ ENM Co., Ltd, All Rights Reserved
Wanna One(写真上)とIZ*ONE(c)CJ ENM Co., Ltd, All Rights Reserved

今回の『PRODUCE 101 JAPAN』も、最終的に選ばれた11人でグループを結成、2020年にデビューを目指す。

そんな『PRODUCE 101』シリーズ最大の特徴といえば、デビューメンバーを決めるまでのすべての過程において、“国民プロデューサー”と呼ばれる視聴者による“国民投票”で勝ち残るものが決定することだろう。視聴者は“1Pick(ワンピック)”こと“自分の推し”に、インターネットの専用ページで票を投じる。いわば、直接選挙で選ぶ、「ファンのファンによるファンのためのアイドル」なのだ。

人気YouTuberやデビュー経験者も

では、『PRODUCE 101 JAPAN』の1Pick人気予想は誰か。

まず、注目したいのは、冒頭のパフォーマンス動画でセンターを務める、川尻蓮だ。これまで『PRODUCE 101』シリーズでは、オンエア前に練習生のパフォーマンスや歌唱力をトレーナーが審査し、アルファベットでAから始まるクラスにレベル分け。トップのAクラスに入った練習生の中から、センターを決めていた。(ちなみに『PRODUCE48』の最初のセンターは、宮脇咲良)。今回、川尻蓮がセンターに抜擢された経緯はまだ明かされていないが、過去を踏襲すると、おそらくトップレベルの評価を受けたと思われる。通っていたボーカルスクールのホームページに掲載されているプロフィールによると、山下智久のツアーダンサーほか、PENTAGONなどK-POPアーティストのバックアップダンサーを務めたことがあるという。

また、上原潤は、今年オンエアされたシーズン4の『PRODUCE X 101』に参加し、91位で脱落。雪辱を期しての再挑戦だ。前シリーズを視聴した人たちがすでにSNSなどで上原の出場を予想し、話題になっていた。

(『PRODUCE X 101』のテーマ曲 「X1-MA」)

4人が参加している韓国人練習生のうち、キム・ヒチョン、キム・ユンドン、チョン・ヨンフンは、2014年に結成された6人組グループHALOのメンバーとして知られている。一方、イ・ミンヒョクは、Hyukという名で活動するYouTuber。チャンネル登録29万人(2019年9月3日現在)を擁する人気だったが、今年5月27日、「僕の最後のチャンスが始まります」という意味深長な言葉を動画に残して活動を休止。『PRODUCE 101 JAPAN』参加の可能性が、ファンの間でささやかれていた。

練習生全員のプロフィール

Fランクからのどんでん返しも

投票で順位が決まるとなると、すでに知名度がある人が有利に思える。しかし、どんでん返しも多数あるところが、本シリーズの醍醐味だ。

例えば、『PRODUCE48』では、矢吹奈子が、最初、トレーナーに「なぜあなたが(HKT48の)オーディションに受かったのかわからない」と最も低いFと評価されたが、必死で振り付けを覚える努力でAにランクアップ。小柄で笑顔溢れる姿の彼女は、“妖精”というニックネームで韓国のファンに愛され、見事にIZ*ONEとしてのデビューをつかんだ。

『PRODUCE 101』シリーズの象徴ともいえるピラミッド型の座席。頂点に立つのは果たして誰なのか。(c)LAPONE ENTERTAINMENT
『PRODUCE 101』シリーズの象徴ともいえるピラミッド型の座席。頂点に立つのは果たして誰なのか。(c)LAPONE ENTERTAINMENT

叱られる様子も、打ちひしがれる様子も、カメラは容赦なく捉え、映し出す。熾烈な競争をオンエアで目の当たりにした視聴者は、失敗から立ち上がろうとする練習生に票を投じることもある。ともに泣き、ともに喜ぶ共感と応援。そして投票した1Pickたちが見事デビューする時には、すでにすっかり彼らのファンになっている。

結果、Wanna Oneしかり、IZ*ONEしかり、『PRODUCE 101』シリーズが輩出したグループは、群雄割拠のK-POPの世界で、デビュー当初からいきなりチャートを席巻する快挙を遂げてきた。

SNSで世界に拡散

今回の『PRODUCE 101 JAPAN』は、衣裳、セット、デビューまでの道のりも、韓国の『PRODUCE 101』 シリーズを基本的に踏襲した、K-POP成功モデルの日本上陸というわけだ。そんななか、これまでとは異なる点が1つある。

それは、オンエアされる国・地域の数の差だ。韓国Mnetで制作・放送した『PRODUCE 101』シリーズは、日本でもMnet Japanを通じて放送されてきた。さらに、シーズン4は字幕版がAbemaTVでもオンエアされたほか、マレーシア、インドネシア、タイ、ミャンマーなど、アジア各地でもストリーミング配信されている。

対して、今回の『PRODUCE 101 JAPAN』は、TBS系列(一部地域を除く)で、9月25日に放送。11人のメンバーを決める最終回は12月に大型特別番組として生放送される。また、最終決戦までの全12回は、無料動画配信サービス「GYAO!」で配信されることに。ところが、放送を視聴できるのは、日本国内のみなのだ。

だが、『PRODUCE 101 JAPAN』の強みは、公式Instagram、公式YouTubeなどSNSを活用することだ。公式Twitterには、番組放送開始前にもかかわらず、10万人以上のフォロワーが(2019年9月3日現在)。フォロワーが住む地域は、日本はもちろん韓国、タイ、インドネシアなど様々だ。

『PRODUCE 101 JAPAN』の練習生たちにも遠くに羽ばたく未来がきっとある。そう、K-POPがSNSを活用して広い世界に進出したように。

『PRODUCE 101 JAPAN』公式ホームページ

ライター・翻訳家

94年『101回目のプロポーズ』韓国版を見て似て非なる隣国に興味を持ち、韓国へ。延世大学語学堂・ソウル大学政治学科で学ぶ。「ニュースステーション」ディレクターを経てフリーに。ドラマ・映画レビューやインタビューを「現代ビジネス」「AERA」「ユリイカ」「Rolling Stone Japan」などに寄稿。共著『韓国テレビドラマコレクション』(キネマ旬報社)、訳書『韓国映画100選』(クオン)『BTSを読む』(柏書房)『BTSとARMY』(イースト・プレス)『BEYOND THE STORY:10-YEAR RECORD OF BTS』(新潮社)他。yukuwahata@gmail.com

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