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BTSそっくり女子も! K-POPカバーダンスの甲子園「DREAM ON!」に潜入してみた

桑畑優香ライター・翻訳家
BTSの「血、汗、涙」を披露したol_kil(撮影:新大久保ホットガイド)

まずは、ページトップの写真にご注目!

スポットライトを浴びながら、ステージでキレキレのシンクロダンスを踊る7人。

K-POPグループ? もしやBTS? ……と想像をかきたてるが、そう、実は“BTSのそっくりさん”。カバーダンスコンテストの一幕だ。

カバーダンスとは、衣裳やダンスをそっくりそのままコピーして踊ること。「K-POP カバーダンス 大学」とYahoo!で検索すると、上智、立教、早稲田、法政など都内の私立大学はもちろん、東大、京大のK-POPカバーダンスサークルも続々登場するほど、今や大人気なのだ。

女性が8割近くを占め、EXOやBTSなど男性グループを女性のみでカバーするケースが大半。踊っているときは男性にしか見えないが、終わった時の笑顔で、ああ、女性のグループだったのか、と気づく。

彼女たちはなぜ、“なりきりダンス”に賭けるのか。

その頂点を競う甲子園的存在ともいえる「K-POP COVER DANCE FES "DREAM ON!" vol.19」に潜入。出演者たちに取材した。

渋谷のライブハウス、TSUTAYA O-EASTは、開場前からアツかった。階段の踊り場で、ホールの入り口で、いくつものグループがステップを踏みながらフォーメーションを確認。振り付けの仕上げに最後の瞬間まで余念がない。

1月12日、13日の2日間、それぞれ6時間、計12時間にわたり開催された「DREAM ON!」。ステージでは、SEVENTEENやTWICE、BLACK PINKなど人気グループのカバーダンスグループが次々と登場する。その数は、計72組。グループのリストには、防弾少年団をもじった「掛持少年団」、Stray Kidsに似せた「Star Kids」などユニークな名前がずらり。1階のスタンディング席がぎゅうぎゅう詰めであるのはもちろん、2階にも立ち見が出るほどの大盛況だ。

そんな中、BTSそっくりなルックスで注目を集めたのが、ページトップの写真のグループ、韓国語で「制覇、独占、一人勝ち」という意味のol_kil(オルキル)だ。『血、汗、涙』のステージは、ダンスのみならず、髪型や色、衣裳まで本物そっくり。

「BTSが2017年5月にプロモーションで来日して『スッキリ』(日本テレビ系列)に出演した時のルックスを忠実に再現しました。衣裳は買ったものもありますが、ほとんどが手作りです」

 メンバーのじうさんによると、ol_kilは2018年1月に結成。関西に住む17歳から22歳までの7人組だ。

「メンバー全員がBTSのファン。彼らのルックス以上に、素晴らしいパフォーマンスに魅了されたので、自分もあんな風にカッコよく踊ってみたいという思いが強くなったんです」

4月12日にリリースされるBTSの新曲も早速カバーしてみたいというol_kil(撮影:新大久保ホットガイド)
4月12日にリリースされるBTSの新曲も早速カバーしてみたいというol_kil(撮影:新大久保ホットガイド)

メンバーのうち4人は実は女性。ジミンを担当するじうさんも女子大生だ。一曲を仕上げるのに費やす時間は約一か月。完コピを目指すために参考にするのは、ネットに上がっているBTSのダンス稽古の動画だという。

「曲の冒頭部分でジミンさんが前に出てくる場面の首使い、あとは横を見たりウェーブを通す時に気持ち顎から動くといった感じ。こういった微妙な部分が、コピーするにあたって大きなポイントなので、些細な部分まで研究するようにしています!」というじうさん。やりがいについては、こう語る。

「 SNSやYouTubeにカバーダンスを公開した時に、『本物かと思った!』『BTS本人を観に行けないからこの人たちのライブを生で見たい!』とコメントが付くと、うまく踊れてるんだな! って。すごくうれしくなるんです」

卒業生にはK-POPアーティストも

「DREAM ON!」がスタートしたのは、2011年。

「始まりは偶然だった」と仕掛け人である株式会社シブヤテレビジョンの清水マサミさんは明かす。

2009年頃、はやり始めていたご当地アイドルを作ってみようという“渋谷発アイドルプロジェクト”が社内で持ち上がる。だが、清水さんは「自分はアイドルには興味を持ったことがないし、街で女の子をスカウトする柄じゃない」。戸惑いながらもアイドルについて調べていくうちに、当時「GEE」でデビューしたばかりの少女時代や、KARA、Wonder Girlsの存在が気になるように。そして、リサーチを兼ねて少女時代の有明コロシアムでのデビューライブを観に行ったとき、アイディアが閃いた。

「公演が始まる前、外で踊っている女の子がいっぱいいたんです。衣裳着て、ラジカセ置いて、少女時代の真似っこをしてるんですね。ああ、こういう子たちを集めて才能ありそうな人がいればスカウトすればいいな、と」

第1回「DREAM ON!」の募集をしたら、全国から80組の応募が来て想定外の手ごたえを感じた。現在の応募は約300組。予選を勝ち抜いてTSUTAYA O-EASTのステージに立つ人は、10代から40代まで。小学生から大学生、会社員、弁護士、薬剤師、主婦など様々だ。

「第2回、第3回と重ねていくうちに、どんどん応募数が増えていって。いつしか本来の目的だったスカウトやアイドル育成はどうでもよくなり、このK-POPイベントを盛り上げて発展させることに専念するようになりました」

出場者たちを観客席から見つめるのは、K-POPファンやダンス仲間だけでない。

「今も、レコード会社さんいらっしゃってますよ」と、清水さんがささやくように、プロの目も光る。  

過去の出場者の中には、PRODUCE101シーズン2で人気を博し、現在はJBJ95として活躍中の高田健太や、ガールズグループCherry BulletのメンバーとなったMAY、YouTuberチャンネル登録者28万人以上のマルチタレントHyukなども。さらに、アイドル練習生として渡韓中の人、バックダンサーとして活動している人も多数。スカウトや韓国でのオーディションなどを経て、プロになった人たちだ。

                 

遠いところに行った仲間のために

昨年9月に韓国でデビューを果たしたガールズグループ公園少女のメンバー、MIYAも「DREAM ON!」に約10回出場したことがある。「DREAM ON!」出場時のグループ名は、BAXX。全員女性のメンバーで、人気ボーイズグループVIXXのコピーをしていた。

今回は、かつてMIYAと一緒に出場した仲間が、新メンバーとともに公園少女のデビュー曲「Puzzle Moon」のカバーダンスで出場。グループ名もBAXX in the parkに変え、初めてガールズグループのダンスに挑戦した。衣裳はすべて手作りで、ネイルのデザインのような細部まで本物を再現。これまでのショートヘアーの男装から一転、「本物と同じ色になるまで鍋で煮た」というエクステやかつらのロングヘア―で公園少女になりきった。

素顔は会社員のBAXX in the parkメンバーは「仕事は同じことの繰り返しなので、頑張ることで達成感を得られるカバーダンスが楽しい」(撮影:新大久保ホットガイド)
素顔は会社員のBAXX in the parkメンバーは「仕事は同じことの繰り返しなので、頑張ることで達成感を得られるカバーダンスが楽しい」(撮影:新大久保ホットガイド)

「静岡出身なんですけど、保守的な雰囲気もあって……。男装で踊っていた時は、リアルな友達には言えない抵抗感も最初はありました。今回初めて挑戦したガールズグループのダンスは、高いヒールで踊ることに慣れるのが大変でした」(モコさん)

「『DREAM ON!』でずっと一緒に踊っていた仲間がデビューするってどんな感じですか?」とたずねると、「すっごいさみしかったです」と一斉にわっと泣き出した。

「毎週一緒に練習していたのに、遠いところに行っちゃって……」

実は、MIYAが公園少女としてデビューすることが決まった時、彼女に「じゃあ、デビュー曲は私たちが踊るね!」と約束したという。

MIYAのパートを踊るリーダーのはるるんさんは、スリムなMIYAになりきるため、1か月半で11キロ体重を落とし、「DREAM ON!」に備えた。

「今日は、MIYAのお母さんが会場に見に来てくれているんです。きっと本人に私たちの思いを伝えてくれるはずです」

カバーダンスで日韓をつなぐ

一方、カバーダンスを目指す後進たちを育てる仕事に乗り出した人もいる。福岡から出場した¢attyのリーダー、ユリさんだ。ステージでは、真紅とシルバーのラメの衣裳でSISTERの「Give it TO ME」を艶とキレのあるダンスで魅せる。「DREAM ON!」出場12回のダンスには、貫禄すら漂う。

本拠地は福岡だが東京在住のメンバーも。「韓国在住のメンバーがいたときは、韓国に日帰りで練習していました」(撮影:新大久保ホットガイド)
本拠地は福岡だが東京在住のメンバーも。「韓国在住のメンバーがいたときは、韓国に日帰りで練習していました」(撮影:新大久保ホットガイド)

元は福岡ソフトバンクホークスのチアリーダー。2010年頃、とある忘年会の余興で友達とKARAのダンスを踊ってみたら大ウケし、「うちのイベントにも出てください」と声がかかるように。毎回カバーするグループや曲を変え、ボランティアで九州各地のイベントに出かけた。スポットライトを浴びるうちに、いつしかユリさんはK-POPに特化したダンススクールを立ち上げたいと思うようになったという。

「カバーダンスを気軽に始めたいという子たちのための道筋を作りたいというのが一つ。もう一つは、プロを目指したいという人も出てきているので、本格的に韓国につなげてあげたいな、と」

2年前に福岡にスクールをオープンし、昨年秋にはスタジオを設立。すでに中高生から「本気でK-POPアーティストになりたい」という問い合わせが相次ぐと同時に、複数の韓国の芸能事務所がユリさんのスタジオで日本人を対象としたオーディションを計画しているという。

「自分の教えた子が輝いたらいいな、って気持ちがあるんです。私自身は30歳になり、カバーダンスは時期が来たら……と。でも、もうちょっとはやりたいですね」

わずか3分半に賭ける夢

「DREAM ON!」最終日。

全チームのカバーダンスが終わり、夜が更けてもなお、DJタイムで出場者と観客が一緒に踊り、祭りは続いていた。

主催者の清水さんは、彼らの情熱をこう受け止めている。

「これを例えば、1万人の規模にしたいとか、そういうの、全然ないんです。出場者たちは、何か月も練習し、衣裳もそろえて、わずか約3分半の曲に賭けている。規模の問題じゃなくて、密度というか、熱い思いをちゃんとお客さんに届ける場をしっかりキープしたいな、と。そこがぶれちゃいけないって思っています」

“DREAM ON!”を辞書で引くと、「夢でも見てろ!」という意味だ。たしかに、一曲限りのいわばモノマネかもしれない。

だが、大好きなグループと自身をシンクロさせることに達成感を味わう人、韓国でプロデビューした仲間のために踊る人、K-POPダンスのプロとして日韓をつなごうとする人――。72組、ステージで踊るグループの数だけ、それぞれの夢がある。

K-POP COVER DANCE FES. DREAM ON! VOL19

放送日程:4/7(日)  13:45~15:15

KCON×DREAM ON! WEB

ライター・翻訳家

94年『101回目のプロポーズ』韓国版を見て似て非なる隣国に興味を持ち、韓国へ。延世大学語学堂・ソウル大学政治学科で学ぶ。「ニュースステーション」ディレクターを経てフリーに。ドラマ・映画レビューやインタビューを「現代ビジネス」「AERA」「ユリイカ」「Rolling Stone Japan」などに寄稿。共著『韓国テレビドラマコレクション』(キネマ旬報社)、訳書『韓国映画100選』(クオン)『BTSを読む』(柏書房)『BTSとARMY』(イースト・プレス)『BEYOND THE STORY:10-YEAR RECORD OF BTS』(新潮社)他。yukuwahata@gmail.com

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