Yahoo!ニュース

「少しブサイクでもいい」少女時代スヨン 30代を目前に世界が広がる

桑畑優香ライター・翻訳家
撮影:Yuki Kuroyanagi

「この作品で女性としての痛みを表現してみたかった」

少女時代のスヨンは、映画『デッドエンドの思い出』に出演した動機をこう明かす。

完璧なビジュアルにキレキレのダンスで一世風靡した、9人組K-POPガールズグループ少女時代。スヨンは2017年、他2人のメンバーとともに所属事務所SMエンターテインメントとの契約満了を発表し、現在は女優業に力を入れている。

そんなスヨンが初の映画主演作に選んだのが、吉本ばななの同名小説が原作の日韓合作、『デッドエンドの思い出』だ。

スヨンとほぼ同い年の主人公に重ねつつ、恋愛観や少女時代としてのグループ活動を離れて思うこと、現在の夢について聞いた。

撮影:Yuki Kuroyanagi
撮影:Yuki Kuroyanagi

30歳を目前にして、とりとめもない普通の生活を送っていた韓国人女性ユミ(スヨン)は、仕事で名古屋へ行った後以前のように連絡をまめにしなくなった婚約者テギュ(アン・ボヒョン)との未来が気にかかっていた。彼に会うため名古屋を訪れたユミは、思いがけずテギュの裏切りを知ることになる。彼の家にいたのは結婚を前提に付き合い始めたという日本女性アヤ(平田薫)だった。「ごめん」の一言にどん底に突き落とされたユミは、街をさまよううちに、ゲストハウスを兼ねた古民家カフェに行きつく。

――本作には、少女からまさに大人になる時期の「試練」や「仲間」などのキーワードがちりばめられています。主人公ユミと同世代のスヨンさんは、どのように受け止めながら演じましたか。

シンクロ率でいうと70%ぐらいでしょうか。

恋愛のスタイルは私と似てないと感じました。ユミは少し受け身で、はっきり確認できるまで疑わないんです。鈍感な感じがして、最初は「こんな人っているのかな」と。でも、脚本を読むうちに、ユミの恋愛に対する考え方のほうが、私よりずっと大人っぽいと思うようになりました。相手と連絡が取れなくても最後まで信じ、相手との関係を信頼しているので。

似ていると感じたのは、恵まれた環境で育ち、悪いことが自分に起きるなんて思ったことがなく、差し迫った状況になった時に、実感が湧かず自分に時間を与えているところです。私も大きな絶望を味わったことがないので、「まさかあの人が私のことを?」と思うところが似ています。

ただ、私だったら彼氏が裏切る前兆を見せたところで気づきますが、ユミはずっと信じてあげるんです。私はプライドが高いほうなので(笑)、連絡が途切れると「何なの!?」と思うスタイルなんです(笑)。相手が礼儀のない行動を見せたり、誠実ではなかったりすると私から先に関係を整理するほうなんです。

――この映画のもう一つのテーマは、「孤独を感じること」だったと思います。

私は、日本ではあまり孤独を感じたことがないかもしれません。元々仕事を始めたのが日本なので、原点みたいな感じもして。少女時代としてはどの国に行っても本当に多くの方々に愛され、歓迎されていたので、とても幸せに海外で活動していました。

――最近は、ソロでも活動されていますが、プライベートも含めて孤独に向き合う時間はありますか。

たくさんあります。特に年末は、芸能界ではどれくらい活躍したのかがわかる時期ですよね。だから、いつも年末になると孤独を感じるんです。去年もひとりで年末を過ごしながら、「年末に他の人もこんな気持ちになるのかな」と思ったんです。1年間の頑張りが年末に償われるのは、芸能人だけじゃなくてどんな仕事でも同じだと思ったので、そういう心境をSNSに書いたことがあります。そうしたら、たくさんの方々が共感してくださって。

――ひとりの時間には、どんなことを?

家でお掃除をしたり、料理をしたり……(笑)。出かけるのがあまり好きじゃないんです。でも、最近は毎日のように撮影が入っていて、家にいる時間がほとんどありません。特に趣味があるわけでもないので、休日は家で映画やドラマを見たり、本を読んだりするのが好きですね。

完成披露試写会には原作のよしもとばなな(右端)も駆け付けた(提供:株式会社MUSA)
完成披露試写会には原作のよしもとばなな(右端)も駆け付けた(提供:株式会社MUSA)

――悩みにぶつかった時、ユミはカフェを訪れますが、スヨンさんが癒しを求めていく場所は?

私は旅行が好きです。慣れ親しんだ場所から離れることで、もっとたくさんのこと見えてくるんです。プライベートで旅に出て、観光地ではなく現地の人たちが行くようなカフェに座って、本を読むだけで「あー幸せ」と感じます。

この前はひとりでロサンゼルスに行ってきました。レギンスを履き、すっぴんで歩いても、それぞれがきれいで、かっこいい。人の目を気にしない生き方が素敵でした。

時には芸能人とは異なる日常を観察するのも役に立ちます。自分がやっていることがすべてではないのがわかるから。たまに今やっていることが世の中のすべてのように感じられる時があって、上手くいかないとひとりで落ち込み失望する時があるのですが、それがすべてではないことに気付くには旅行がとてもいいと思います。

――ひとり旅で新しい価値観に気づいた、と。

そうですね。ひとりの人間として、芸能人のスイッチをオン・オフできるようになる気がします。オフの時は私は何でもない、少しブサイクでもいいと思えるんです(笑)。少女時代の時はいつも「きれいでいないといけない。完璧でないといけない」と思っていましたが、そういった重荷を下ろすと楽になる。昔は「こういう姿は少女時代ではNGでは?」考えていましたが、今は「私も人間だから」と思えるようになりました。世界が広がりましたね。

――ひとりの人間として、日々生活している中で大切にしていることは?

最近は、ありきたりなことはやりたくないという気持ちが強くなりました。英語でいうとベーシックなことはやりたくない。そういうことをする時期は過ぎたと思うし、誰がやっても成功するようなことには惹かれないです。

人生の基準は「人と違うものをやらなきゃ」ということ。それが最近の私の価値観です。30代を目前に、みんなとは違うファッション、違う言葉、違う考え方をするように物事を見たり、仕事をしたりしています。

――仕事やプライベートで挑戦してみたいことはありますか?

少し早いかもしれませんが、ソロアルバムを作ってみたいな、と。今ずっと曲を作っていますが、新しい楽しみを見つけた感じです。昔は音楽のことがよくわからなかった。ただ与えられた音楽をやって、パフォーマンスをすることが好きでしたが、今は私がアイデアを出して、メッセージのある音楽をやりたいと思うようになりました。音楽を作る過程がとても面白いんです。少女時代とはまた違う楽しさがある。もっと勉強したら、いつか少女時代の音楽も私が作って、みんなで歌えるんじゃないかな(笑)。

――どんな音楽を?

少女時代のためならダンス曲がいいと思いますが……(笑)。今は女性として、ひとりの人間としての悩みを語る歌のほうが上手く作れる気がします。

■スヨン(少女時代)

1990年、韓国広州出身。

2007年にアイドルグループ・少女時代のメンバーとして韓国でデビュー。幼少期を日本で過ごした経験から、日本語が堪能で本作でも流暢な日本語を披露している。現在は音楽活動だけでなく、女優業にも力を入れ幅広く活動を行なっている。映画主演は本作が初。

画像

『デッドエンドの思い出』

原作:よしもとばなな『デッドエンドの思い出』(文春文庫刊)

監督・脚本:チェ・ヒョンヨン

製作:ZOA FILMS/シネマスコーレ

主演:スヨン(少女時代) 田中俊介(BOYS AND MEN)他

(c)2018 「Memories of a Dead End」 FILM Partners

名古屋・シネマスコーレ、東京・新宿武蔵野館ほかで上映中

ライター・翻訳家

94年『101回目のプロポーズ』韓国版を見て似て非なる隣国に興味を持ち、韓国へ。延世大学語学堂・ソウル大学政治学科で学ぶ。「ニュースステーション」ディレクターを経てフリーに。ドラマ・映画レビューやインタビューを「現代ビジネス」「AERA」「ユリイカ」「Rolling Stone Japan」などに寄稿。共著『韓国テレビドラマコレクション』(キネマ旬報社)、訳書『韓国映画100選』(クオン)『BTSを読む』(柏書房)『BTSとARMY』(イースト・プレス)『BEYOND THE STORY:10-YEAR RECORD OF BTS』(新潮社)他。yukuwahata@gmail.com

桑畑優香の最近の記事