Yahoo!ニュース

アフリカの赤道ギニアで報告された「マールブルグ病」とはどんな病気か

忽那賢志感染症専門医
CDC.PHILより

2月13日、WHOは、赤道ギニアのキエンテム(Kie Ntem)州においてマールブルグ病の症例が確認されたことを発表しました。

マールブルグ病とはどんな病気なのでしょうか?

また、日本に侵入する可能性はあるのでしょうか?

マールブルグ病が赤道ギニアで発生

赤道ギニアの位置(Wikipediaより)
赤道ギニアの位置(Wikipediaより)

赤道ギニアは中部アフリカ諸国の国家ですが、これまでにマールブルグ病が報告されたことはありませんでした。

赤道ギニア北東部にあるキエンテム(Kie Ntem)州で9人の方がなくなったことを受け、同国は2月9日に注意報を発出していました。

2月13日のWHOの発表では、9人の死亡例に加えて少なくとも16人の疑い例がいることが分かっています。

これらの感染者は葬儀に参加したことと関連しているという報道もあり、現在200人以上が隔離されているとのことです。

また、赤道ギニアに接するカメルーンでも2人の疑い例が発生しているようです。

マールブルグ病は「一類感染症」

マールブルグ病はマールブルグウイルスによる感染症です。

マールブルグウイルスはエボラウイルスと同じフィロウイルス科に属しています。

エボラ出血熱と同様に、マールブルグ病も「ウイルス性出血熱」と呼ばれる非常に重症度の高い感染症の一つです。

ウイルス性出血熱の中には、

・エボラ出血熱

・マールブルグ病

・ラッサ熱

・クリミアコンゴ出血熱

・アルゼンチン出血熱

などがあり、これらは感染症法では1類感染症に指定されています。

現時点では2類相当となっている新型コロナよりも、さらに厳重な管理が必要な感染症として位置づけられていることになります。

マールブルグ病の流行地域は?

マールブルグ病がこれまでに報告された地域(CDC. Marburgより筆者加筆)
マールブルグ病がこれまでに報告された地域(CDC. Marburgより筆者加筆)

マールブルグ病は、アフリカで感染しうる感染症ですが、最初にマールブルグ病が報告されたのはヨーロッパでした。

1967年、西ドイツのマールブルクとフランクフルト、ユーゴスラビアのベオグラードにウガンダから輸入されたアフリカミドリザルに関わった研究職員など25名が発熱などの症状を訴え、うち7名が死亡するという事件が発生し、後にこの原因ウイルスがマールブルグウイルスであることが判明しました。

その後、ヒトの感染例は全て中央アフリカなどのアフリカ大陸で報告されています。

特に2005年のアンゴラでの流行は、300人以上の人が亡くなる大規模なものになっています。

マールブルグ病の症状は?

マールブルグ病の症状は、同じフィロウイルス科によるウイルス性出血熱であるエボラ出血熱とよく似ています。

平均1週間程度の潜伏期間の後、発熱、悪寒、および全身のだるさなどの症状が突然出現します。

他にも頭痛、関節痛、筋肉痛、下痢、嘔吐などがみられることもあります。

「ウイルス性出血熱」というと、出血症状が激しいんじゃないかと思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、初期には出血症状は稀であり、重症化すると点状出血、皮下出血などがみられることがあります。

クリミア・コンゴ出血熱患者の口唇の出血(トルコにて患者さんの許可を得て筆者撮影)
クリミア・コンゴ出血熱患者の口唇の出血(トルコにて患者さんの許可を得て筆者撮影)

この写真はマールブルグ病ではなく、同じウイルス性出血熱であるクリミア・コンゴ出血熱の患者さんの唇の出血の写真ですが、このような出血症状がマールブルグ病でもみられることがあります。

マールブルグ病は重症化すると臓器不全へと至り、23–90%の方が亡くなると言われる致死率の極めて高い感染症です。

マールブルグ病の診断・治療は?

マールブルグ病が疑われる場合は、保健所を通して全国60箇所の特定または第一種感染症指定医療機関に搬送され、感染症病床で診断・治療が行われることになります。

診断は血液、咽頭ぬぐい液、体液などの検体を用いてPCR検査などの方法でウイルス遺伝子を検出することによります。

マールブルグ病に対して有効な治療薬はなく、症状を抑える対症療法や重症化した際には集中治療が行われます。

マールブルグ病の感染経路と予防策は?

マールブルグウイルスの生活環(CDC. Ebola Virus Ecology and Transmissionより筆者追記)
マールブルグウイルスの生活環(CDC. Ebola Virus Ecology and Transmissionより筆者追記)

マールブルグウイルスは、アフリカ大陸のエジプトフルーツコウモリ(Rousettus aegyptiacus)から見つかっていることから、このコウモリがマールブルグウイルスの宿主であると考えられています。

ヒトがこのコウモリや、コウモリから感染した動物の体液に接することで感染し、さらに感染したヒトの血液やその他の体液に直接触れたり、遺体を埋葬する際の接触によりからヒトへと感染が広がっていきます。

現時点でマールブルグ病に有効なワクチンはなく、感染者の体液に触れないこと、手洗いを徹底することが感染対策のために重要です。

流行地域では、野生動物(やその死骸、排泄物)に触れない、不用意に洞窟・採掘坑に立ち入らないなど注意するとともに、十分な手洗いを行うようにしましょう。また、感染者や感染の疑いがある人との接触は避け、野生動物の肉(bush meatやジビエと称されるもの等)も避けるようにしましょう。

現時点で日本国内でマールブルグ病が広がる可能性は低いと考えられますが、今後の赤道ギニアおよびその周辺地域で感染者が増加しないか、注視していく必要があります。

感染症専門医

感染症専門医。国立国際医療研究センターを経て、2021年7月より大阪大学医学部 感染制御学 教授。大阪大学医学部附属病院 感染制御部 部長。感染症全般を専門とするが、特に新興感染症や新型コロナウイルス感染症に関連した臨床・研究に携わっている。YouTubeチャンネル「くつ王サイダー」配信中。 ※記事は個人としての発信であり、組織の意見を代表するものではありません。本ブログに関する問い合わせ先:kutsuna@hp-infect.med.osaka-u.ac.jp

忽那賢志の最近の記事