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オミクロンは世界をどう変えた?コロナは風邪になった?2022年振り返りと今後の展望 #日本のモヤモヤ

忽那賢志感染症専門医
(写真:イメージマート)

2022年はオミクロン株という極めて感染力の強い変異株に翻弄された1年であった一方で、感染対策の緩和に大きく踏み出せた1年でもありました。

新型コロナ対策の観点から1年を振り返り、今後の展望について考えます。

感染者の規模は大幅に増加

世界の新型コロナ新規感染者数と死亡者数の推移(WHO. Weekly epidemiological update on COVID-19 - 21 December 2022より)
世界の新型コロナ新規感染者数と死亡者数の推移(WHO. Weekly epidemiological update on COVID-19 - 21 December 2022より)

2021年11月に南アフリカに出現したオミクロン株は、またたく間に世界中に広がりました。

特に2022年1月には、世界における1週間当たりの新規感染者数が2000万人を超えるというかつてない規模の流行を経験しました。

日本のN抗体陽性率の調査 過去5回の陽性率の推移(公表資料を元に筆者作成)
日本のN抗体陽性率の調査 過去5回の陽性率の推移(公表資料を元に筆者作成)

日本でも、2022年11月に行われたN抗体(感染した人にみられる抗体)の陽性率は26.5%となっており、この1年間で約4人に1人がオミクロン株に感染したことになります。

オミクロン株がこれほどまでに広がった理由としては、これまでの新型コロナウイルスと比べて、

①人から人にうつる間隔が短い(従来のウイルスの5日から2日に短縮)

②過去に感染した人、ワクチンを接種した人にも感染しうる(免疫逃避)

という特徴があったことなどによります。

重症度は低下しインフルエンザと同程度に

日本国内における新型コロナの致死率の推移(Our World In Dataより筆者作成)
日本国内における新型コロナの致死率の推移(Our World In Dataより筆者作成)

感染力が強くなった一方で、オミクロン株に感染し重症化する人の割合は、これまでの新型コロナウイルスと比べて低くなっています。

海外の研究では、デルタ株と比較するとオミクロン株の入院リスクは3分の1、と報告されています。

これはウイルスの病原性が低くなったというよりも、これまで以上にワクチン接種者や過去に感染したことのある人の感染が増えたことで、全体として重症化する人の割合が下がったものと考えられます。

いずれにしても、一人ひとりにとっての「新型コロナウイルスの脅威」は相対的に小さくなってきていると言えます。

2022年の死亡者数は過去最大に

日本の新型コロナ死亡者数の推移(厚生労働省発表データから筆者作成)
日本の新型コロナ死亡者数の推移(厚生労働省発表データから筆者作成)

オミクロン株になり重症度が大幅に下がったものの、感染者数の規模が爆発的に大きくなってしまったことから、結果として新型コロナで亡くなられる方の数はむしろ増えてしまいました。

2022年の新型コロナによる死亡者は、12月23日時点で36,000人にも及びます。

「亡くなっているのは高齢者ばかりであり、自然死のようなものだ」という指摘もあるようですが、亡くなっているのは高齢者だけではありませんし、今のように毎日300人以上の高齢者が亡くなっていくことを自然なものとして受け止めるべきものなのかは、人によって意見が分かれるでしょう。

少なくとも季節性インフルエンザによって、これほど多くの人が亡くなることはありません。

「コロナは風邪になった」と言えるのか?

オミクロン株になり重症度が下がり、一人ひとりにとっては以前ほど恐れるべき感染症でなくなってきたことは事実です。

かつて致死率5%であった時期と、致死率0.2%である今と、同じような対策が必要と考えることはできません。

感染対策が緩和に向かうこと自体は当然の流れかと思います。

一方で、

・1年間に3万人以上が亡くなっている(インフルエンザは年間数百〜数千人

・1年間に何度も流行を起こす(インフルエンザは冬に流行する)

・一定の割合で後遺症がみられる(インフルエンザでは稀)

といった点からは、現時点では風邪やインフルエンザと同等に考えることは難しいでしょう。

また医療に与える負荷も風邪やインフルエンザとは比較になりません。

感染者の重症度がインフルエンザと同程度であるからと言って、決して「コロナは風邪」「コロナはインフルエンザみたいなもの」とは言えません。

海外のように既感染者が増えたらコロナは終わるのか?

サッカーのワールドカップでは、マスクを外した観衆が盛り上がっている様子が放送されていました。

これを見て「日本もいつまでマスクをつけているんだ」と思った人も多いと思いますが、日本と海外とでは状況が異なります。

イギリスにおけるS抗体およびN抗体の推移(UKSHA. COVID-19 vaccine surveillance report Week 48 1 December 2022より)
イギリスにおけるS抗体およびN抗体の推移(UKSHA. COVID-19 vaccine surveillance report Week 48 1 December 2022より)

オミクロン株に感染した人は、同じオミクロン株の亜系統にはしばらく感染しにくくなります。

例えば、現在新規感染者数の増加が緩やかになっているイギリスのN抗体陽性率は80%を超えており、国民の5人に4人が新型コロナに感染していることになります。

ここまで既感染者が増えれば、確かに感染は広がりにくくなるのかもしれません。

しかし、前述の通り日本はまだN抗体の陽性率は26.5%ですから、80%に至るには時間がかかります。

また、イギリスも無傷でこの状況に至ったわけではありません。

イギリスと日本における人口あたりの新型コロナによる死亡者数は、およそ8倍であり、イギリスの方が日本よりも多大な被害を被っていることになります。

日本で一気に既感染者が増えてしまうと、今、中国で起ころうとしているように、医療の逼迫が起こり、また死亡者も増えてしまうでしょう。

軟着陸のためには、高いワクチン接種率によって感染者・重症者・死亡者を抑えること、流行期には基本的な感染対策をしっかりと行うことで流行の規模が大きくなり過ぎないようにすること、がおそらく最も安全な方向性ではないかと思われます。

オミクロン株が最後の変異株ではないかもしれない

新型コロナの今後想定されるシナリオ(WHO資料より筆者作成)
新型コロナの今後想定されるシナリオ(WHO資料より筆者作成)

もう一つ懸念すべき事項は「オミクロン株が最後の変異株ではないだろう」ということです。

オミクロン株の既感染者が増えれば、オミクロン株は広がりにくくなるのは事実ですが、次に現れる変異株に対してもそうとは限りません。

オミクロン株に感染した人が増え、オミクロン株が広がりにくい状況になったとしても、次の変異株が出現したらまた一気に感染者が増える可能性があります。

こうしたことも含めると「オミクロン株の感染者が増えること」がゴールであるとは決して言い切れません。

とは言え、ワクチン接種者や既感染者は重症化しにくい、というこれまでの前提が覆される可能性は高くないと思われます。

この点からも、オミクロン株以外の変異株が流行した際も「高いワクチン接種率によって感染者・重症者・死亡者を抑えること」「流行期には基本的な感染対策をしっかりと行うことで流行の規模が大きくなり過ぎないようにすること」が重要となります。

これからは、感染が落ち着いている時期には感染対策を緩め、今のように流行している時期には感染対策を強化する、といった流行状況に合わせた強弱をつけていく時期に来ているのではないかと思います。

つまり感染対策の緩和は一方向性に緩めていくものではなく、流行状況や新たな変異株の出現などによって多少の揺り戻しは許容しつつ緩めていくものだという共通認識を持つことが大事かと思います。

また、感染対策の緩和は「感染対策を何もしなくて良い」ということではなく、ワクチン接種などの必要な対策を十分に行った上で進めていくことが前提となります。

2022年はオミクロン株に翻弄された1年でしたが、私たちが日常生活を取り戻すために大きく踏み出せた1年でもあります。

2023年はさらに新型コロナの影響の少ない1年になることを願っています。

【この記事は、Yahoo!ニュース個人編集部とオーサーが内容に関して共同で企

画し、オーサーが執筆したものです】

感染症専門医

感染症専門医。国立国際医療研究センターを経て、2021年7月より大阪大学医学部 感染制御学 教授。大阪大学医学部附属病院 感染制御部 部長。感染症全般を専門とするが、特に新興感染症や新型コロナウイルス感染症に関連した臨床・研究に携わっている。YouTubeチャンネル「くつ王サイダー」配信中。 ※記事は個人としての発信であり、組織の意見を代表するものではありません。本ブログに関する問い合わせ先:kutsuna@hp-infect.med.osaka-u.ac.jp

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