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新型コロナ 日本は行動制限なしで第7波を乗り越えられるのか

忽那賢志感染症専門医
(写真:イメージマート)

新型コロナの新規感染者数が急激に増加しており、1日当たりの新規感染者数は18万人を超えています。

そんな中、政府は「行動制限は考えていない」と繰り返し発言しています。

まん延防止等重点措置や緊急事態宣言などの行動制限なしに、私たちは過去最大規模の流行を乗り越えることができるのでしょうか。

新規感染者数は過去最高を更新し続けている

新型コロナの新規感染者数と死亡者数の推移(Yahoo!JAPAN 新型コロナウイルス感染症まとめより)
新型コロナの新規感染者数と死亡者数の推移(Yahoo!JAPAN 新型コロナウイルス感染症まとめより)

日本国内における新型コロナの新規感染者数は爆発的に増加しており、7月21日には全国で1日に18万人を超える感染者が報告されています。

この感染者数の急激な増加の背景には、

・ワクチン接種後の時間経過による集団としての感染予防効果の低下

・行動制限緩和による人流の増加

・酷暑に伴うエアコンの使用による換気の低下

・オミクロン株の亜系統BA.5の拡大

などがあると考えられています。

東京都における変異株の割合の推移(第94回東京都新型コロナウイルス感染症モニタリング会議資料より)
東京都における変異株の割合の推移(第94回東京都新型コロナウイルス感染症モニタリング会議資料より)

オミクロン株の亜系統BA.5はすでに東京都内の感染例の7割強を占めていると考えられており、ワクチン接種や過去の新型コロナ感染による免疫から逃れやすい性質を持つこのBA.5の拡大は感染者数の増加に拍車をかけていると考えられます。

重症者数・死亡者数は「現時点では」増加していない

国内における新型コロナ重症者数の推移(Yahoo!JAPAN 新型コロナウイルス感染症まとめより)
国内における新型コロナ重症者数の推移(Yahoo!JAPAN 新型コロナウイルス感染症まとめより)

一方で、日本国内の重症者(人工呼吸器を使用、ECMOを使用、ICU等で治療、のいずれか)は増加しているものの、現時点では新規感染者数の増加と比べると緩やかです。

死亡者数についても同様に緩やかな増加にとどまっています。

オミクロン株の亜系統BA.5の重症度については、従来のオミクロン株であるBA.1やBA.2と同等と考えられていますが、第6波の頃と比べると高齢者・基礎疾患のある人の3回目のワクチン接種が進んだこと、経口の抗ウイルス薬が普及したことなども現時点では重症者が少ないことに寄与していると考えられます。

このように、現時点では重症者や死亡者は急増しているという状況ではありません。

医療の逼迫という観点からは新規感染者数よりも重症者数や死亡者数が重要になりますので、そういった意味では現時点で経済へのダメージの大きい緊急事態宣言などの行動制限を発出しないことには妥当性があると考えられます。

しかし、これまでの経験から重症者や死亡者が今後増えてくることは確実です。

コロナ以外の医療の提供体制も行動制限の要因となりうる

沖縄県の重点医療機関における医師、看護師の休職者数(第91回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード資料より)
沖縄県の重点医療機関における医師、看護師の休職者数(第91回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード資料より)

また、新型コロナの重症者数や死亡者数だけでなく、医療の提供体制についても考慮する必要があります。

これだけ感染者が増えている状況ですので、医療者の中でも感染が広がっています。

例えば沖縄県では、新型コロナに感染した、あるいは濃厚接触者になった、家族が感染した、などの理由で休職を余儀なくされている医療従事者が過去最多となっています。

これは沖縄県に限った話ではなく、現在は私が働いている大阪府内を含めて全国的に医療従事者の感染者が急増しており、多くの医療機関で診療体制の維持が困難になってきています。

7月22日に政府から発表になった濃厚接触者の待機期間の短縮は、医療機関にとっては職員が勤務に早く復帰できることで医療の逼迫の解消に寄与することが期待される一方で、どこまでこの期間短縮の根拠が科学的に担保されているのか気になるところではあります。

これに加えて医療機関では入院患者を含む感染者が生じており、クラスターの対応に追われています。

クラスターが発生したことで医療の機能が制限されている医療機関では、救急体制も縮小しています。

また外来では発熱患者の受診が急増しており混雑を極めています。

重症度の高い患者をトリアージするために新型コロナの検査目的での救急外来の受診を断る医療機関も出てきています。

7月22日の政府の発表では、発熱外来に検査キットを配布するということですので、これも医療負担の軽減が期待される対策につながることが期待されます。

東京都内で東京ルールが適用された件数の推移(第94回東京都新型コロナウイルス感染症モニタリング会議資料より)
東京都内で東京ルールが適用された件数の推移(第94回東京都新型コロナウイルス感染症モニタリング会議資料より)

このような医療の逼迫により、救急車を呼んでも搬送先がなかなか見つからない状況が再び起こっています。

東京都内で「救急隊が5件以上病院を探すか、20分以上受入れ先が見つからなかった場合」に発動される東京ルールの件数はすでに1日300件以上と過去最多を更新しています。

「救急車を呼んだものの、搬送先が見つからずそのまま不搬送になる」という事例も出てきています。

これは新型コロナ感染者だけの問題ではなく、医療を必要とする人全てに影響を及ぼしています。

日本は行動制限なしで第7波を乗り越えられるのか?

このように、

・重症者数・死亡者数の増加

・医療提供体制の逼迫

などがこれまでも行動制限の判断の根拠となってきました。

ですので「現時点では」行動制限は必要ないとしても、これからの状況次第では検討される可能性はあるだろう、というか選択肢として残しておくべきではないかと思います。

海外のロックダウンなどの有効性について検証した研究では、やはり行動制限は感染者数の減少に大きく寄与することが分かっています。

しかし、一方で経済や社会に与える影響も大きいことはご存知の通りです。

まん延防止等重点措置や緊急事態宣言が発令されれば、多くの人の生活・行動が制限されることになります。

今後、重症者数や死亡者数が増えてきたときに、例えば第6波のピーク時のような1日200人以上が連日亡くなるような状況に陥っても、行動制限を取らずに高齢者や基礎疾患のある人が新型コロナで亡くなる状況を許容していくのか・・・これは単純な良い悪いの話ではなく、最終的には日本人の国民性、死生観が問われることになるのではないかと思います。

私自身は「社会機能を維持するためには高齢者や基礎疾患のある人はコロナで死んでも仕方ない」という考えよりも「周りの誰かを守るために自身の行動は一時的に多少制限されても仕方ない」という立場にありますが、どちらが正しいというものではなく、日本人の国民性、死生観が問われるところかと思います。

なお日本における過去の緊急事態宣言の効果について検証した研究では、宣言は外出者数を8.5%しか減らす効果しかなく、それよりも「政府発表や日々の感染者数の発表を通じて市民が新しい情報を入手した結果」による減少の効果が大きかった、と報告されています。

つまり、緊急事態宣言などの行動制限よりも、私たち一人一人が現在の流行状況を適切に把握し、感染対策を行うことが感染者を減らすことにつながるということになります。

政府や自治体が行動制限をしないということであれば、私たち一人一人が自主的に感染対策を徹底することで感染者数を減らすしかありません。

ということで、そろそろ我々も本気で感染対策をしていきましょう!

本気の感染対策、といっても何か特別なことをする必要はありません。

屋内でのマスク着用、こまめな手洗い、部屋の換気などこれまで私たちが行ってきた感染対策をしっかりと行えば大丈夫です。

会食についても現在は感染リスクがとても高くなっていますので、なるべく控えめにして、行くときは

・少ない人数で

・マスクを外す時間を少なく

・長時間にならないように

・大声を出さない

といった点にご配慮ください。

体調が悪いな、と思ったら無理に出勤・登校せずに、可能なら検査を受けるようにしましょう。外来が混雑している地域では、検査キットなどもご活用ください。

手洗い啓発ポスター(羽海野チカ先生作)
手洗い啓発ポスター(羽海野チカ先生作)

感染症専門医

感染症専門医。国立国際医療研究センターを経て、2021年7月より大阪大学医学部 感染制御学 教授。大阪大学医学部附属病院 感染制御部 部長。感染症全般を専門とするが、特に新興感染症や新型コロナウイルス感染症に関連した臨床・研究に携わっている。YouTubeチャンネル「くつ王サイダー」配信中。 ※記事は個人としての発信であり、組織の意見を代表するものではありません。本ブログに関する問い合わせ先:kutsuna@hp-infect.med.osaka-u.ac.jp

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