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国内で拡大が懸念されるオミクロン株"BA.2"について 現時点で分かっていること

忽那賢志感染症専門医
(写真:つのだよしお/アフロ)

オミクロン株「BA.2」が日本国内でも報告が増えてきています。

従来のオミクロン株「BA.1」と比べてどのような特徴があるのでしょうか?

BA.2について現時点で分かっていることについてまとめました。

BA.2とは?

現在、オミクロン株(B.1.1.529)は、

BA.1(B.1.1.529.1)

BA.1.1(B.1.1.529.1.1)

BA.2(B.1.1.529.2)

BA.3(B.1.1.529.3)

の4つの下位系統に分かれています。

このうち、日本を含め世界で主流になっているのはBA.1です。

しかし、BA.2も世界各国で報告が増えてきており、日本国内でも東京大阪神奈川など複数の地域で市中感染が確認されています。

人口100万人当たりの新規感染者数の推移(Our World in Dataより)
人口100万人当たりの新規感染者数の推移(Our World in Dataより)

日本よりも先にオミクロン株による流行を迎えた欧米の中でも、特にデンマークは一時期非常に多くの感染者が報告されていました。

現在はピークを過ぎていますが、2月中旬には1日の感染者数が人口100万人当たり約8000人を記録しており、これは日本で例えると1日100万人の感染者が出ているという凄まじい状態です。

このデンマークで感染者が爆発的に増加した原因の一つとして、オミクロン株「BA.2」の拡大が挙げられていました。

デンマークにおける変異株の占める割合の推移(Outbreak.infoより)
デンマークにおける変異株の占める割合の推移(Outbreak.infoより)

デンマークでは、2021年12月からBA.1が拡大していましたが、後から侵入してきたBA.2が現在はこれを超えて広がっており、現時点でゲノム解析が行われているウイルスのうち90%以上を占めています。

現在はイギリスやアメリカでも同様にBA.2の割合が徐々に増加してきています。

感染力の強さは?

イギリスで5症例目が報告されてからの日数とそれぞれの変異株感染者の推移(UKHSA publication gateway number GOV-10869)
イギリスで5症例目が報告されてからの日数とそれぞれの変異株感染者の推移(UKHSA publication gateway number GOV-10869)

BA.2はこれまでのオミクロン株と比べても感染力が強いと考えられています。

京都大学 西浦博先生がたの解析ではBA.2はBA.1よりも実効再生産数が18%高いと報告されており、海外では「BA.1よりも30%感染力が強い」というような報道もされています。

イギリスでは、感染者が2000人に達するまではBA.2の方が従来のオミクロン株よりも感染者の増加のスピードが早かったものの、現在は従来のオミクロン株のスピードを下回っている状況です。これは、すでにオミクロン株に感染した人がイギリス国内に多くいることや、そのときの流行状況・感染対策の違いなどが影響しているものと考えられます。

重症度は?

ハムスターを用いた感染モデルでは、BA.2はBA.1よりも病原性が高いことが示されていますが、現時点では、ヒトにおいてBA.2が従来のオミクロン株よりも重症化しやすいという疫学的な事実はありません。

イギリスでは、統計学的な有意差はないもののBA.1よりもBA.2の方が入院リスクが低い傾向が示されており、少なくともBA.1と同程度と考えて良さそうです。

ただし、BA.1と病原性が同程度であったとしても、BA.1よりもBA.2の方が感染力が強いことで急激な感染者の増加に繋がり、重症者がこれまで以上に増える可能性はあります。

BA.1に感染した人はBA.2に感染する?

過去に新型コロナに感染したことがある人は一時的に新型コロナに対する免疫ができますが、オミクロン株には比較的感染しやすいことが知られています。

しかし、同じオミクロン株であるBA.1に感染した人は、BA.2に対してどれくらい免疫があるのか、についてはまだよく分かっていません。

デンマークからの報告では、過去に新型コロナに感染したことがあり、BA.2にも感染した187人を調査したところ、47人はBA.1に感染した後にBA.2に感染していたとのことです。

この47人は、ワクチン未接種者が多く(89%)、比較的若い世代の人が多かったようです。

一方で、イギリスでは今のところBA.1に感染した後のBA.2の再感染事例は報告されていないとのことです。

治療薬の有効性は?

オミクロン株では、スパイク蛋白に多くの変異があることから、これまで使用できていた中和抗体薬の有効性が低下しています。

例えば、ロナプリーブという日本で最初に緊急承認された軽症新型コロナ患者への治療薬は、オミクロン株に対しては使用できなくなっています。

もう一つの中和抗体薬であるソトロビマブについては、オミクロン株に対する有効性は維持されていると考えられていますが、BA.2に対しては効果が落ちているとする実験結果も出ており、まだ確定ではないものの今後の新型コロナの治療に影響を与える可能性があります。

ワクチンの効果は?

BA.1およびBA.2に対する新型コロナワクチンの効果(UKHSA. COVID-19 vaccine surveillance report Week 8 24 February 2022より)
BA.1およびBA.2に対する新型コロナワクチンの効果(UKHSA. COVID-19 vaccine surveillance report Week 8 24 February 2022より)

オミクロン株では、ワクチン接種による重症化予防効果は保たれているものの、感染や発症を防ぐ効果は落ちていることが分かっています。

これは、BA.2についても同様であり、ワクチンの効果はBA.1とほぼ同等と考えて良さそうです。

イギリスからの報告では、BA.2に対しても3回のワクチン接種によって発症予防効果は約70%まで高まりますが、経時的に低下していくようです。

BA.2に対する今後の国内での対策は?

今後、日本国内でもBA.2が拡大する可能性があります。

今の日本国内での一般的なオミクロン株の簡易検出方法ではBA.1とBA.2との区別がつかないことから、SGTF(S gene target failure)などの別の簡易検査法で区別できるようにする体制を整えることが望ましいと考えられます。

本来は、このBA.2が検出された感染者の周囲の濃厚接触者を特定し、しっかりと隔離をすることで拡大のスピードを抑えるという対策が行われますが、現在の保健所業務の逼迫状況からは難しい状況と考えられます。

私たち一人ひとりにできる感染対策はBA.1でもBA.2でも変わりません。

手洗いや3つの密を避ける、マスクを着用するなどの感染対策をこれまで通りしっかりと続けることが重要です。

特にマスクを外した状態での会話が感染リスクとなりやすいことから、会食や職場の昼食時などは黙食・マスク会食を徹底するようにしましょう。

また、高齢者や基礎疾患のある方においては新型コロナワクチンのブースター接種で重症化予防効果を再び高めることが重要です。

ただし、ワクチンだけで感染を防ぎ切ることは困難であり、ワクチン接種後もこれまで通りの感染対策は続けるようにしましょう。

手洗い啓発ポスター(羽海野チカ先生作成)
手洗い啓発ポスター(羽海野チカ先生作成)

感染症専門医

感染症専門医。国立国際医療研究センターを経て、2021年7月より大阪大学医学部 感染制御学 教授。大阪大学医学部附属病院 感染制御部 部長。感染症全般を専門とするが、特に新興感染症や新型コロナウイルス感染症に関連した臨床・研究に携わっている。YouTubeチャンネル「くつ王サイダー」配信中。 ※記事は個人としての発信であり、組織の意見を代表するものではありません。本ブログに関する問い合わせ先:kutsuna@hp-infect.med.osaka-u.ac.jp

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