Yahoo!ニュース

新型コロナ オミクロン株の感染者が重症化しにくいのはなぜか?

忽那賢志感染症専門医
DOI: 10.1056/NEJMp2119682を参考に筆者作成

第6波ではこれまでの流行よりも重症化率、致死率が低いことが報告されています。

これはオミクロン株が病原性が弱いためでしょうか?

ウイルスの病原性の評価には注意が必要であり慎重な判断が求められます。

第6波の致死率はこれまでと比較して大幅に低い

第4波から第6波までの変異株と致死率(2022年1月31日時点)
第4波から第6波までの変異株と致死率(2022年1月31日時点)

2021年3月〜6月中旬頃を第4波、6月下旬〜9月頃を第5波、そして2021年12月下旬から現在までを第6波とした場合、2022年1月30日時点での致死率はそれぞれ1.9%、0.4%、0.04%となっています(第6波は今後高齢者の感染者が増えていくことが予想されるため、現時点よりも悪化する可能性があります)。

こうして見ると、致死率は経時的に低下していることが分かります。

ちなみにそれぞれの流行における主流の変異株はアルファ株、デルタ株、オミクロン株です。

「そうか・・・やはりオミクロン株は重症化しないんだな・・・」と思われるかもしれませんが、ちょっと待ってください。

デルタ株ってアルファ株よりも重症化しやすいと言われていましたが、第5波の致死率は第4波より低くなっていますよね。

これはどういうことでしょうか。

デルタ株とオミクロン株のワクチン接種者への影響

デルタ株とオミクロン株のワクチンによる感染予防効果の違いと広がりやすさ(筆者作成)
デルタ株とオミクロン株のワクチンによる感染予防効果の違いと広がりやすさ(筆者作成)

それぞれの流行における重症度を考える上では、主流となる変異株の病原性だけでなく、その時期の集団の免疫を考える必要があります。

第4波の頃はほとんどの方がまだワクチンを接種していなかったことから、過去に新型コロナに感染した人以外は免疫を持たない状態でした。このため、高齢者や基礎疾患のある方を中心に多くの方が重症化しました。

第5波ではデルタ株によりワクチンを接種していない人にとっては重症化しやすくなっていたことから40代・50代の重症者が増加しましたが、高齢者でワクチン接種が進んでいたことから、高齢者での感染者、重症者が大幅に減り、結果的に致死率は第4波よりも大きく下がりました。

現在の第6波では、ワクチン接種を2回完了した人も感染そのものを防ぐことは難しくなっており、ワクチンを2回接種している人でも感染者が多く出ています。しかし、ワクチンによる重症化予防効果は保たれていることから、ワクチンを接種した人が感染した場合も重症化はしにくくなっています。

第5波(デルタ)と第6波(オミクロン)の特性の違い(DOI: 10.1056/NEJMp2119682を参考に筆者作成)
第5波(デルタ)と第6波(オミクロン)の特性の違い(DOI: 10.1056/NEJMp2119682を参考に筆者作成)

このように、オミクロン株に感染した人は、デルタ株などのこれまでの変異株に比べてワクチン接種者の割合が大きくなっています。

ワクチン接種者は重症化しにくいため、全体としての重症度は大きく下がります。

つまり、オミクロン株による病原性によって重症度が下がっているという要因以外にも、日本でのワクチン接種率が高いことが感染者の重症度の低下につながっているということになります。

「重症度が下がっているならどっちでもいいやん」と思われるかもしれませんが、ワクチンを接種していない方にとっては大きな問題です。

ワクチン未接種者ではデルタ株と比較してオミクロン株の入院リスクは約25%低くなる程度にすぎない、と南アフリカイギリスからそれぞれ報告されており、これは最初に武漢市で見つかったオリジナルの新型コロナウイルスやアルファ株と同程度の病原性と考えられます。

つまりワクチン未接種者にとっては未だ大きな脅威と言えます。

このように、新しく出現した変異株の病原性の評価には、ウイルスの病原性だけでなく、ワクチンに対する感染予防効果、重症化予防効果、ワクチン接種をした人の割合、過去に感染した人の割合などを勘案する必要があり非常に複雑です。

オミクロン株に対してもワクチン接種が重要

ニューヨーク市におけるワクチン接種歴別のオミクロン株感染者の入院率(Omicron Variant: NYC Report for January 13, 2022)
ニューヨーク市におけるワクチン接種歴別のオミクロン株感染者の入院率(Omicron Variant: NYC Report for January 13, 2022)

このように、オミクロン株を主流とする第6波で重症化する人が少ないのは、単純にウイルスの病原性だけではありません。

日本で高いワクチン接種率を達成できたことによって、これだけ重症者を少なく抑えられているという側面も大きいと考えられます。

一部では「どうせ感染するならワクチンなんか打つ意味ないやん」という意見も見られますが、そうではなく、この第6波でも日本の高いワクチン接種率は大きく寄与しています。

日本よりも先に流行が起こったニューヨーク市では、オミクロン株の拡大によって感染者が爆発的に増加しましたが、ワクチン未接種者では接種者と比較して入院率が8〜9倍高いと報告されています。

特に高齢者においては2回接種完了から時間が経つと重症化を防ぐ効果も低下してくることが分かっていますが、ブースター接種をすることでオミクロン株の感染で入院するリスクがワクチン未接種者よりも23倍低くなると報告されています。

第6波の初期は若い世代が感染者の中心でしたが、現在は徐々に高齢者の割合が増えてきています。

今後は高齢者の感染者の増加が懸念されることから、特に高齢者のブースター接種を迅速に進めていくことが重要です。

まだワクチンを接種していない方もぜひ接種をご検討ください。

感染症専門医

感染症専門医。国立国際医療研究センターを経て、2021年7月より大阪大学医学部 感染制御学 教授。大阪大学医学部附属病院 感染制御部 部長。感染症全般を専門とするが、特に新興感染症や新型コロナウイルス感染症に関連した臨床・研究に携わっている。YouTubeチャンネル「くつ王サイダー」配信中。 ※記事は個人としての発信であり、組織の意見を代表するものではありません。本ブログに関する問い合わせ先:kutsuna@hp-infect.med.osaka-u.ac.jp

忽那賢志の最近の記事