ワクチン・パスポートに関する海外での議論

(写真:ロイター/アフロ)

イスラエルやイギリスなど、ワクチン接種が進む地域では新型コロナの新規感染者数が大きく減少しています。

こうした中、世界各国でワクチン・パスポートが議論されています。

海外での議論の要点を整理しました。

ワクチン接種が進む国で新規感染者数が減少

イスラエル、イギリスでの新型コロナ新規感染者数(Worldometerより)
イスラエル、イギリスでの新型コロナ新規感染者数(Worldometerより)

新型コロナワクチン接種が開始された国では、新型コロナウイルス感染症の症例数が減少傾向になってきています。

すでに国民の半分以上が2回のワクチン接種を完了させているイスラエルでは、一時期には1日あたり1万人の新規感染者が報告されていましたが、現在は1日あたり約200人にまで減ってきています。

同様にワクチン接種率の高いイギリスでも、ピーク時の1日あたり6万人から、現在は4000人前後まで減少傾向にあります。

この減少に寄与しているのはワクチンだけではありませんが、イギリスに比べるとワクチン接種率が高くないイタリアやフランスなどでは感染者数が高止まりしていることを考えると、ワクチンの効果は決して低くないと考えられます。

実際、ワクチン接種者の発症予防効果は第3相試験では95%と報告されていましたが、実際に接種が開始されたイスラエルアメリカでも同等の高い効果が示されています。

また、発症予防効果だけでなく感染そのものを防ぐ効果についての知見も徐々に増えてきました。

ワクチン・パスポートについての議論

写真:ロイター/アフロ

効果的なワクチンの普及により「ワクチン・パスポート」の議論が海外で活発化しています。

現在、バイデン政権、イギリス政府、欧州連合(EU)がその実現性を検討しているほか、オーストラリア、デンマーク、スウェーデンがすでに導入を表明しています。

またイスラエルでは、すでにワクチン接種を受けた住民に「グリーンパス」を発行しています。

このイスラエルの「グリーンパス」は、ホテル、ジム、レストラン、劇場、音楽会場などへの入場を許可するものだそうです。

ニューヨークも同様に、ワクチン接種者に「エクセルシオール・パス」を発行しており、発行を受けた人は劇場、アリーナ、イベント会場、大規模な結婚式への参加が可能になるそうです。

このワクチン・パスポートとは別ですが、アメリカCDCはワクチン接種を2回完了した人は

・マスクを装着せずに屋内に集まって良い

・国内外に旅行して良い

・新型コロナと診断された人と接触した場合も、症状が出ない限りは濃厚接触者として検査を受けなくて良い

という方針をアナウンスしており、ワクチン接種者の行動が緩和されています。

ワクチン・パスポートのメリット

CDC. When You’ve Been Fully Vaccinatedより
CDC. When You’ve Been Fully Vaccinatedより

こうしたワクチン・パスポートのメリットは、なんと言っても社会活動の再開がスムーズに行われることでしょう。

実際にワクチン接種をした人では、新型コロナを発症するリスクは低くなることが十分に検証されてきていることから、こうしたワクチン・パスポートを持つ人達の間ではクラスターが発生する頻度は、ワクチン接種をしていない集団と比べてずっと低くなるでしょう(ゼロにはなりません)。

またこの考え方を国際旅行にも適応すれば、ワクチン接種者はこれまでのような厳格な権益を緩めることで、国際的な交流を再び活発化させることが可能になります。

ワクチン・パスポートの問題点

写真:つのだよしお/アフロ

一方で、いくつか整理しなければならないポイントがあります。

まず、新型コロナワクチンを接種するかどうかは個人の判断に委ねられています。

そうした個人の判断で決められるワクチン接種に対して、接種者だけが行動範囲が広がるという明らかなメリットがあるというのは不公平だ、という意見が出てくるでしょう。

一方でこうした「ワクチン接種を拒否する人々」には、集団免疫を目指す現在において、その拒否に伴う何らかの負担を求めることは公平ではないか、という意見もあるようです。

ポリエチレングリコール(PEG)にアレルギーを持つ人など、本人の意思にかかわらず明らかに新型コロナワクチンが接種できない人には、黄熱ワクチンが接種できない人に発行されるWaiver form(免除申請書)のような救済措置は必要ではないかと思います。

2つ目の問題点としては、ワクチンの供給の問題です。

日本国内では医療従事者、高齢者、基礎疾患のある人の順で今後ワクチン接種が予定されており、すべての人にワクチン接種の機会が訪れるまでには時間がかかります。

そうした中で、ワクチン接種をした人だけに行動制限が解除されるというのは不公平感を生みやすいでしょう。

また、世界的には、ワクチンの大半は先進国で消費されており、途上国でのワクチン供給はごく一部に留まっています

3つ目の問題点は、今後の不確定要素としての変異株の拡大が挙げられます。

免疫逃避と呼ばれるE484K変異を持つ変異株(南アフリカ変異株、ブラジル変異株など)では、ワクチンの効果が下がるのではないかと言われています。

実際にChAdOx1 nCoV-19/AZD1222(University of Oxford/AstraZeneca社製ワクチン)を含むいくつかのワクチンは、南アフリカ変異株が流行している南アフリカでは、他の地域に比べて低かったことが分かっています。

こうした変異株が今後拡大することによって、地域によってはワクチン・パスポートは必ずしも新型コロナ発症リスクの低下を担保しないことにもなりかねません。

ワクチン・パスポートの考え方は、こうした変異株などの不確定要素や、ワクチンの有効性や副反応などの科学的根拠が増えることによって、柔軟に変更されるべきでしょう。

というわけで、海外でのワクチン・パスポートの議論を整理しました。

まだ医療従事者のみ接種が行われている日本では、今後検討されるべき課題ですが、社会活動を再開させる上では大事な議論ではないかと思います。

現時点では、日本国内ではワクチン接種者も、接種していない人と同様にマスク着用、3密を避ける、手洗い、という感染対策を徹底するようにしましょう。

手洗い啓発ポスター 羽海野チカ先生作成
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