イギリスと南アフリカ、それぞれの新型コロナ変異種の現在の状況は?

(提供:PantherMedia/イメージマート)

ウイルスの変異とは?

変異とは、生物やウイルスの遺伝子情報の変化を指します。

変異が起こると、例えばウイルスが感染しやすくなったり、治療薬が効かなくなったり、ワクチンが利きにくくなったり、というウイルスの性質の変化が起こりえます。

現在、イギリス、南アフリカ共和国で新たな変異種が見つかり世界各国に広がっています。

現在の状況と、これまでに分かっていることをまとめました。

現在の変異種の広がりは?

イギリスの変異種 VOC 202012/01

GISAIDデータベースにアップロードされたイギリスの全分離株の中で、VOC 202012/01変異株の割合(ECDC. THREAT ASSESSMENT BRIEFより)
GISAIDデータベースにアップロードされたイギリスの全分離株の中で、VOC 202012/01変異株の割合(ECDC. THREAT ASSESSMENT BRIEFより)

イギリスでは「VOC 202012/01」と呼ばれる変異種が拡大しており、特に、拡大が顕著な南東イングランドでウイルス学的調査が行われたところ、症例の半分以上が新しい変異種(VOC 202012/01)によることが分かっており、最も早い症例は2020年9月20日に確認されています。

この変異種はこれまでの新型コロナウイルスよりも感染性が高く、再生産数(R)を 0.4 以上増加させ、最大 70% 感染性が増加する可能性が示唆されています。

したがって、この変異種が拡大することによって、新型コロナウイルス感染症の流行がますます広がることが懸念されます。

さらに、イギリス国外では、デンマーク(9例)オランダ(1例)ベルギー(4例)オーストラリア(4例)スペイン(4例)カナダ(2例)アイスランドイタリアスウェーデンでもVOC 202012/01による感染例が報告されています。

またシンガポール香港ドイツでも検疫中の英国からの帰国者からVOC-202012/01が検出されたとのことですが、検疫でのみの検出であり、国内流行を意味するものではありません。

日本ではこれまでに羽田、関西国際両空港での空港検疫で5人からVOC-202012/01が検出されている他、英国に渡航歴のある30代男性ら東京都内の男女2人からも検出されています。

南アフリカ共和国の変異種 501Y.V2

南アフリカ共和国における新型コロナの新規患者報告数(Worldometerより)
南アフリカ共和国における新型コロナの新規患者報告数(Worldometerより)

南アフリカ共和国では12月に入ってから新型コロナの新規患者報告数が急増していますが、12月18日、南アフリカ保健省はCOVID-19患者の急増と新規変異種(501Y.V2と命名)の割合が80~90%に増加していることを報告しました。

また、12月23日、イギリスは、南アフリカからの渡航者との接触歴がある501Y.V2の2例を報告しています。

現時点ではこの南アフリカの変異種 501Y.V2は日本国内では報告されていません。

イギリスや南アフリカ共和国の変異種はどのようなものなのか?

新型コロナウイルスの系統樹 赤線で囲んでいるのがVOC 202012/01変異ウイルス(nextstrainより)
新型コロナウイルスの系統樹 赤線で囲んでいるのがVOC 202012/01変異ウイルス(nextstrainより)

新型コロナウイルスは常に変異をしており、これまでのところ、新型コロナウイルスは月に1~2回程度のペースで変異を繰り返してきました

つまり、現在の新型コロナウイルスの多くは、1月に中国で見つかった新型コロナウイルスとは約20箇所の変異が蓄積されてきている計算になります。

しかし、この「VOC 202012/01」と呼ばれる変異種は29もの変異が確認されており、これは通常想定されていた変異よりも早い速度で変異が起こったことが示唆されています。

系統樹、というウイルスの家系図のようなものがありますが、これによると、VOC 202012/01という変異種はかなり離れたところに位置しており、中間のウイルスがほとんどないことが分かります。

つまり、VOC 202012/01という変異種はこれまでのウイルスに観察されていなかった、短期間での複数箇所の変異が生じたものと推定されています。

新型コロナウイルスのスパイク蛋白と宿主細胞のACE2受容体(https://doi.org/10.1161/CIRCULATIONAHA.120.046941)
新型コロナウイルスのスパイク蛋白と宿主細胞のACE2受容体(https://doi.org/10.1161/CIRCULATIONAHA.120.046941)

このVOC 202012/01という変異種を特徴づける変異の一つにN501Yというスパイク蛋白の変異があります。

これまでの研究では、このN501Yという変異によってスパイク蛋白がACE2受容体により強固に結合することが示されています。

南アフリカの変異種 501Y.V2と南アフリカでの広がり(doi: https://doi.org/10.1101/2020.12.21.20248640)
南アフリカの変異種 501Y.V2と南アフリカでの広がり(doi: https://doi.org/10.1101/2020.12.21.20248640)

南アフリカ共和国で見つかった変異種(501Y.V2)でも同様にこのN501Yという変異が確認されており、感染性が増加している可能性が示唆されているものの、現時点では十分な証拠はありません。

イギリスの変異種とは関連ない系統の進化と考えられています。

なぜ変異が起こったのか?

今回のイギリス、南アフリカ共和国、ナイジェリアでの変異種の出現の原因は明らかではありません。

イギリスでの変異種の増加は新型コロナワクチンの接種開始よりも前に観察されていることから、この変異種がワクチン接種による選択圧によって生じたものではないだろうと考えられています。

ミンクを介して誘導された変異種「Cluster 5」 著者作成
ミンクを介して誘導された変異種「Cluster 5」 著者作成

デンマークでは、ミンク由来の変異種が問題となりました。新型コロナウイルスはヒトだけでなく動物にも感染することは以前から分かっていましたが、ヒトとヒトの間で感染を繰り返すよりも、ミンクという動物の間で感染を繰り返す、あるいはヒトとミンクとの間で感染を繰り返すことで変異が誘導されやすくなることが示唆されてます。

しかし、イギリスの変異種は、すでにイギリス政府はこの変異種と動物との間に明確な疫学的関連性がないことをヨーロッパCDCやWHOに報告をしていることから、その可能性も低そうです。

免疫が極端に弱っている人では新型コロナウイルスは長期間持続感染することがあり、変異ウイルスが生じる可能性が指摘されています。ある1人の新型コロナ患者の中で新型コロナウイルスが長期間持続感染することで、免疫から逃れるために変異したウイルスが生き残り、他のヒトにも広がったという可能性は残されています。

免疫不全患者において新型コロナウイルスの変異が観察された事例(https://doi.org/10.1016/j.cell.2020.10.049)
免疫不全患者において新型コロナウイルスの変異が観察された事例(https://doi.org/10.1016/j.cell.2020.10.049)

これまでにも、免疫不全患者において長期間ウイルスが検出され続けた患者に回復者血漿が投与され、変異したウイルスが分離した事例が報告されています。

同様に、免疫不全患者の繰り返す再燃に対して複数回のレムデシビルやモノクローナル抗体を投与した症例でも、変異したウイルスが検出されています。

このように、免疫不全患者ではウイルスに対する抵抗力が弱いためウイルスの増殖が起こりやすくなり、そこに抗ウイルス作用を持つ治療薬が投与されることによって変異種が選択されやすくなるのではないかと考えられます。

変異ウイルスが広がるとどうなるのか?

イギリスの変異種 VOC 202012/01はこれまでの新型コロナウイルスよりも感染性が高く、再生産数(R)を 0.4 以上増加させ、最大 70% 感染性が増加する可能性が示唆されています。

したがって、この変異ウイルスが拡大することによって、新型コロナウイルス感染症の流行がますます広がることが懸念されます。

それ以外の影響として、この変異ウイルスは、スパイク蛋白という新型コロナウイルスの特徴的な蛋白に変異が起こっていることから、イギリスでは、スパイク蛋白遺伝子を検出するPCR検査でこのウイルスを検出できなかった事例が報告されています。

ただし、このスパイク蛋白遺伝子を検出するPCR検査は日本国内ではあまり一般的ではなく、診断に与える影響は大きくなさそうです。

重症度に与える影響についてはまだ情報が少なく、これまでのところ、この変異ウイルスに感染した症例で重症度が高いという証拠は示されていませんが、症例の大部分が重症化リスクの低い60歳未満の人であることから、現時点でははっきりしたことは分かりません。

ただし、変異種が重症度に与える影響は変わらないとしても、感染性が増加し感染者が増えれば重症者も増えることになります。

また、小児に対してもこれまでの新型コロナウイルスよりも感染しやすいのではないかと考えられています。

変異ウイルスはヒトの細胞に結合するスパイク蛋白に関連しており、ウイルスの抗原性を変化させる可能性があります。

スパイク蛋白質が変化すると、新型コロナウイルスに対する抗体の効果が減弱する可能性がありますが、その結果として再感染のリスクの増加やワクチンの有効性の低下に影響を与えるかどうかは現時点では不明です。

また、一度新型コロナウイルスに感染した人が、VOC 202012/01変異ウイルスに再感染するのか、また新型コロナワクチンに影響に与えるのかについても現時点では不明です。

アフリカの変異種 501Y.V2も感染性が増加している可能性が示唆されているものの、現時点では十分な証拠はありません。501Y.V2によって、重症化しやすくなる可能性やワクチンの効果への影響についても現時点では不明です。

日本で変異種が広がる可能性は?

現時点でイギリスの変異種 VOC 202012/01はイギリスの渡航と関連のある事例からのみ報告されており、国内で変異種が広がっている証拠はありません。

日本で新型コロナウイルスの遺伝子配列まで読まれているのは、およそ10例に1例ですので、日本国内で見つかっていないだけの可能性もありますが、少なくとも蔓延しているような状況ではないと考えられます。

政府は12月26日に外国人の新規入国を12月28日から1月末まで中止することを発表しています。

現在、日本は過去最大規模の新型コロナの流行を経験しており、症例数もまだまだ増加傾向です。

すでに一部の地域では本来必要な医療が十分に提供できなくなってきていますが、この状況で日本国内で変異種が広がってしまえば、まさに危機的状況となるでしょう。

日本国内でこれ以上深刻な流行を引き起こさないためにも、今こそ一人ひとりが感染対策を徹底すべき時です。

この年末年始は、

・帰省・初詣・忘年会・新年会などのイベントはオンラインで済ます

・できる限り外出を控える

など、人との接触を減らし、

・屋内ではマスクを装着する

・3密を避ける

・こまめに手洗いをする

といった基本的な感染対策を遵守するようにしましょう。

手洗い啓発ポスター 羽海野チカ先生作
手洗い啓発ポスター 羽海野チカ先生作

※参考文献

ECDC. THREAT ASSESSMENT BRIEF「Threat Assessment Brief: Rapid increase of a SARS-CoV-2 variant with multiple spike protein mutations observed in the United Kingdom

国立感染症研究所「感染性の増加が懸念されるSARS-CoV-2新規変異株について (第2報)